データベース『えひめの記憶』
えひめ、女性の生活誌(平成20年度)
(2)食生活改善
ア 食生活改善に重点化
県が作成した昭和32年度の「新生活運動助成事業要綱案」による(⑦)と、「県民の自主的運動として新生活運動を強化徹底し、県民生活を『より明るく』『より豊かに』する方向へ」導くため、県の方針として、第1に新生活運動の内容を「食生活改善の活動を重点的に発展させ、その他の諸活動を誘導する」こととし、第2に新生活運動の対象を「婦人層を運動の主体とし、その実績から一般(成人男子)に波及するよう助長する」こととしている。
イ 食生活改善への取り組み
西宇和(にしうわ)郡保内(ほない)町(現八幡浜市)にある保内町婦人会が、昭和32年(1957年)に食生活の改善に取り組んだ手書きレポートが残されている(⑦)。このレポートから食生活改善の具体例を見ていこう。
このレポートはまず、取り組みの動機が述べられている。そこには「栄養知識の不足のため均衡のとれた栄養がとれていない。経済的な理由で充分に栄養をとることが出来(でき)ない。経済的にゆとりがあっても昔からの習慣で非常に粗食をしている。病人が割合に多い、子どもに偏食がある、料理の技術を知らない。多忙であるから一々食生活にかまっていられない。」と記されている。知識不足や経済的理由、長年の慣習などによる栄養不足、料理法への無知、多忙を理由とした改善意欲の無さなど、さまざまな問題点が浮かび上がっている。
そして、食生活の改善のために取り組んだ実践が記されている。対策は多種多様である。知識・意識面での充実を図るための座談会や幻燈会(スライド上映会)、現状調査、ポスター配布などの啓発活動、実技面での料理講習や計量器常備、計量カップや計量スプーンの普及、また農繁期における共同炊事の実施や家計簿記入奨励など、多様な取り組みがなされている。
次にこの成果として、①食生活に対する関心が深まってきた、②自分の家庭の食生活に批判を加えるようになってきた、③共同炊事(すいじ)が男性にも非常に喜ばれた、④モデル地区が非常によく研究し男性も大いに協力するようになった、⑤秤(はかり)以外の計量器がよく行きわたり、女の子が食生活改善に強く関心を持つようになったという。このように、食生活改善は女性だけでなく、成人男性や子どもたちにもよい効果をもたらしている。
続いて反省として、①主婦が多忙であるためと関心が少ないために、集まって来る人が少なく、たびたび会合をもつことができない、②技術(料理)のみ喜ばれて栄養知識の普及は望まれていないなど、現状が語られている。
最後に今後の展望として、次のように結んでいる。「この問題に取り組んでみたと云(い)うだけで、大した効果はあがっていない。人の生活に於(お)いて最も重点をおかねばならぬ問題であるから続けてこの問題と取り組み、だれもが健康で明るい家庭生活ができるようにと願う。台所の問題、献立の問題、食生活と経済の問題など、お互いに考えて行かねばならぬことが沢山(たくさん)あると思う。」このように、食生活の改善は人間生活のうえで非常に重要な要素であるにもかかわらず、効果が上がっていないという認識のもとで、健康で明るい家庭生活を目指して今後も取り組むこと、食生活改善は多様な問題と密接に関係しており、食生活の改善と他の問題の改善が結びついているということが強く認識されている。
ウ キッチンカーの料理講習
西宇和郡伊方(いかた)町の「広報伊方町」第28号に、昭和33年(1958年)9月9日と10日に伊方小学校と九町(くちょう)小学校で開かれた、キッチンカーによる栄養料理講習会が紹介されている(⑧)。県食生活改善運動普及推進協議会から同会西宇和支部に9月4日に配車されたキッチンカー(栄養指導車)が初のお目見えをしたもので、小型4輪のダットサンに炊事用具や水槽、冷蔵庫まで完備した「動く台所」である。八幡浜保健所の松岡栄養士が講師となって、身近な材料でおいしく栄養のある料理を講習した。このようなキッチンカーによる料理講習は、昭和31年度から県下各地で行われ、日常の食生活の改善運動に大きな役割を果たした。