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身近な「地域のたからもの」発見-県民のための地域学入門-(平成22年度)

1 愛媛で地域学を

 「愛媛学」は、昭和62年ころに構想が立ち上げられ、平成4年に愛媛県生涯学習センターで開催された「愛媛学シンポジウム」(写真1-2-1参照)をかわきりに始められました。当時、愛媛県で地域学の必要性が言われるようになった背景には、次のようなことがありました。
 第一に、地域の自立化や地方分権化の流れの中で、地域を「生産の場」としてではなく、「生活の場」としてとらえ直し、豊かな自然環境に囲まれ伝統文化が息づく「地方」のよさを改めて見いだそうとする気運が高まったことです。地域の特性を活(い)かしながら個性的で生きがいの持てるまちづくりを進める市町村において、「地域の再発見」がますます必要とされました。
 第二に、自分の足元にある日々の生活を見つめ直し、それを大事にすることの大切さが再認識されるようになったことです。その背後には、人々の生活が個性化し価値観が多様化する中にあって、自分らしく生きるためには自己のアイデンティティ、すなわち自分とはこのような人間であるという明確な意識を確立しなければならず、そのためにまずは自分の生活している地域のことを正しく理解し、地域に誇りと自信を持つことが必要であったという事情があります。
 第三に、少子高齢化や過疎化、生活様式の変化などにともなって地域の変容が著しい中、それまで連綿と受け継がれてきた生活文化や伝統文化、さらにはそれらから生み出された「生活の知恵」を記録することの緊急性、重要性が高まったことです。その課題の克服のために、専門家だけでなく生活者としての地域住民が中心となって取り組む新しい学問が求められるようになりました。
 これらの社会的な要請や県民の期待に応える形でスタートした「愛媛学」(図表1-2-1参照)は、愛媛県という地域を形づくり、そこで息づき、はぐくまれてきた生活や文化、産業など様々なものを研究対象としています。
 研究方法は、地形・生物等の自然科学の分野や歴史・地誌等の人文科学の分野、産業・交通等の社会科学の分野の研究手法を総合的・学際的に活用しながら、広く県民だれでも気軽に参加できる方法を用いました。
 具体的には、昭和の時代に焦点を当て、当時を生きた人々のくらしに学ぶという視点から、日々の営みの中で生み出され形づくられた、県内各地の生活や文化、産業などを、聞き取りや地域観察を中心とした調査方法で掘り起こし記録することによって「愛媛らしさ」を探究しました。
 その取り組みの具体的な内容や成果は、本書の第3章第1節「これまでの愛媛学の成果」で改めて紹介することとし、次項で、愛媛学の役割について簡単にまとめます。

写真1-2-1 パンフレット表紙

写真1-2-1 パンフレット表紙


図表1-2-1 愛媛学構想図

図表1-2-1 愛媛学構想図