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瀬戸内の島々の生活文化(平成3年度)

(8)台風被害をバネに

 県内に大きなつめ跡を残した、平成3年の台風19号(9月27日)は、中島の柑橘農業にとって、とくに影響が大きく、町内の農業関係の被害総額は73億8千1百万円のうち、果実や柑橘の樹体被害は67億7千万円に達した(愛媛県資料)。国や県でも、あげてその復興への支援対策を取り決め、町や農協でも塩害を受けた園地の回復や、植え替えに必要な苗木の手配など、手の届く範囲での対策に全力を傾注した(写真3-1-17参照)。
 中島町ではこのところ、農業後継者の数が目立って減ってきており、新しく農業を目指す就農者の数も、毎年2~3人程度では、農家の高齢化比率がますます高まるばかりである。そして今回の台風災害に際して、後継者不足による農家の減少が、さらに足を早めるものと関係者はみている。平成2年の農林業センサスでは、中島町の農家戸数は、およそ1,400戸、専業農家比率は53.4%であり、県下のどの農村でもみられる、農業で働く人々の高齢化現象が否めない。そして、平成3年の19号台風がもたらせた被害の大きさが、若い人々の就農意欲に影響が出てくるのではないかと心配されている。
 **さんはこの現象を「自然淘汰を待たずに、台風がその時期を早めることになった。柑橘で生きようとする人間が、おそらく今後4~5年間は、かなりの割合で減っていくと思われる。ということになれば、土地は余り、労力は足りなくなってくる。その時、どうするかが中島農業の大きな課題となる。」とみている。
 中島農業を支えている、若い農業者の間には「この台風災害をバネに、柑橘農業で生き残れる道を新しい角度から開拓しよう。」という声もあり、**さんも、もちろんその一人である。「経営を任された当初は、現在の3haを基盤に機械化・省力化によって労力の節減を考えていたが、両親の年齢からみて、これまでのように農作業の手伝いをして貰うのは、あと10年くらいである。それを思えば、私たちだけでやっていける生産の仕組みを今から考え、品種更新による労力配分を行わなければならない。」また、これは夢物語であるが。「足りない労働力を、もし海外から輸入できる時代を迎えれば、さらに経営規模を5~6haに拡大して、新しいタイプの中島農業を築き上げてみたい。」と元気な声が返ってくる。父が描いたミカン作りむら一番の夢を、息子はさらに大きく膨らませて……。

写真3-1-17 台風19号によるミカン園被害

写真3-1-17 台風19号によるミカン園被害

平成3年10月撮影