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瀬戸内の島々の生活文化(平成3年度)

(4)高井神島のナタオレノキ(越智郡魚島村)

 高井神島は、燧灘のほぼ中央にある周囲5.3kmの小さな島で、平坦地に乏しく最高標高は258mである。越智郡魚島村に属するが、魚島村には魚島本島(人口340人)・高井神島(人口75人)・江ノ島(無人)などの付属の小島群が属している。もっとも近い弓削港まで船で1時間もかかる。多島美の瀬戸内海にあって数少ない離島の一つである。
 高井神港を見下ろす斜面に、寄り添うように30数軒の集落がある。集落の小道を登り、雑木林の横道を島の北端の宮の越鼻に向かって進むと、島の鎮守の社、関道神社がある。かつて、神社の参道には、県内有数のクロマツ並木があったという。直線200mの間、百余本の老木が亭々と続いていた景観は、松枯れのために完全に失われた。代わりにクスノキやクロマツの低木が植栽されている。神社を取り巻く樹林は、ウバメガシ萌芽林が主体である。この森の植物で特筆すべきは、ナタオレノキの自生である。
 ナタオレノキは、別名シマモクセイ、ナタハジキともいい、極めて特殊な分布をする亜熱帯の樹木である。分布の中心は九州、琉球以南だが、北限域となる本州では、若狭湾蒼島と山口県千珠島、そして高井神島にのみ自生する。愛媛県に自生する3,000余の植物の中で特筆すべき存在といえる。モクセイ科の常緑広葉樹で、高さ15m、幹は直径1mに達する。葉は長楕円形で通常は全縁、やや薄い革質で長さ7~11cm、幅2~4cm、若木のものは粗い鋸歯が出ることがある。花は10月に葉腋に束生して白色、果実は楕円形で長さ1.6~2cmで翌年の初夏に黒碧色に熟す。
 ナタオレノキの1本はすぐに見つかった。社殿の右奥の樹林の中で奇態を呈していた。株は根元で4本に裂け、各々周囲150cm前後の太幹となり、屈曲して斜上している。巨木である。樹肌は蛇の目模様で、たしかに尋常な木ではない。見知っているどの木とも異なっている。形態は、同じモクセイ科のキンモクセイに近い。
 その後、神社の森を探索すると、社殿手前の左に1本と右側の2本、社殿奥に最初に見た巨木を含む3本の、計6本が確認できた。樹高や幹周には大小あり、明らかに樹齢が異なっている。つまり、この場所で、この数本で、種を維持しているのだ。
 ナタオレノキは、天然記念物などの晴れがましい指定はなく、島の住人さえ生育の実態をあまり知っていない。シイやカシなど優占種との競合から退避できる場所で、しかもそこは離島の神域ということで、密やかに生き続けておれたのだろう。

写真2-3-4 高井神島のナタオレノキ

写真2-3-4 高井神島のナタオレノキ

平成3年10月撮影