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四国遍路のあゆみ(平成12年度)

(1)遍路の実態とその心情①

 現代の四国八十八ヶ所を巡拝する遍路の人数、年齢など、その実態を知る正確なデータはない。そこで、その実態を把握する手掛かりとして、一札所の納札を1年間にわたって月別に枚挙した資料や、一札所での聞き取りによる実態調査の結果を紹介しておきたい。
 また、愛媛県内の札所のうち、宿坊をもつ6か寺を選んで、巡拝中の遍路を対象に、今回アンケート調査を行った。これらの結果と、「早稲田大学道空間研究会」(以下、「早大道研」と略す)が平成9年(1997年)10月に1,237名を対象に行った調査結果『四国遍路と遍路道に関する意識調査』とを比較しながら、今日の遍路の実態とその心情を探ってみた。

 ア 聞き取りや納札数による遍路の実態

 昭和44年(1969年)に、五十六番泰山寺大本祐章住職が、納経者の出身地域や年齢などを1年間にわたり、直接聞き取り調査した結果によると、月別遍路数は、3、4、5月を合わせると全体の約6割以上で、レンゲや菜の花が咲く春のお遍路シーズンが多い。このデータは約20年前のものであるが、遍路は、気候の良いシーズンに集中している様子がうかがえる。
 次に、遍路の年代別構成を見ると、一番多いのが60歳代で40%を超えている。定年退職後や仕事が一段落した段階で、四国遍路の旅に出た様子がうかがえて興味深い。次いで50歳代、70歳代の順になり、三つの年代を合わせると全体の約8割を超えている。また、この調査が行われた昭和44年(1979年)当時は、若者の遍路は少なく、10歳代から30歳代の年齢層を合わせても、わずかに全体の6%となっている。
 次に、西条市の郷土史家秋山節男氏が、平成4年1月から12月までの1年間に、六十四番前神寺に納められた札を枚挙・整理し、遍路の数を調査した結果によると、地域別では、四国地域の34%に続いて、近畿地域の20%、中国地域の12%と割合が高くなっている。距離が遠くなるにつれて人数も減ってくるが、関東、東北、北海道の各地域の遍路数も結構多い。大師信仰が全国的に広がっていることを裏付けている。
 また、月別の遍路数では、春期の3、4、5月を合わせると50%となり、秋期の9、10、11月を合わせた数のほぼ2倍の遍路が六十四番前神寺を訪れていることが分かる。
 遍路の年齢別構成でも、60歳代の31%に続いて50歳、70歳代が共に15%となっており、50歳以上が全体の約3分の2を占めている。
 しかし、平成4年に行われた前神寺の年代別遍路数では、約30年前の泰山寺での調査結果に較べ各年代に分布しており、遍路を行う人の年齢層の広がりがうかがえる。また、約30年前に較べて特に若者の遍路が増えてきており、10歳代から30歳代を合計すると21%に達していることが一つの特徴として挙げられる。

 イ アンケート調査による遍路の実態

 今回、愛媛県生涯学習センターで行った遍路に対するアンケート調査(図表2-2-24、図表2-2-25)の対象にした札所は、南予の四十番観自在寺、四十三番明石寺、中予の四十四番大宝寺、東予の五十六番泰山寺、六十一番香園寺、六十四番前神寺の6か寺である。これらの札所はいずれも宿坊をもっており、宿泊や納経手続の合間に、遍路に答えてもらうようにした。調査期間は平成12年8月1日から10月31日の3か月間で、回収したアンケート用紙は501枚であった。四国の遍路道には、歩き遍路や車による遍路など、多くの人々が巡拝しているが、3か月間に上記の6か寺を巡拝したり、その宿坊を利用した遍路のうちの501名に調査に協力してもらったということである。さらにあわせて、このアンケート結果で、「早大道研」が平成9年(1997年)に実施したアンケート結果との比較を行った。
 しかし、今回の調査では遍路の全体数(母集団)が特定されないため、無計画抽出法の応募法となってしまい、四国八十八ヶ所の札所や遍路道を巡拝している多くの遍路の実態を、わずか6か寺で、しかも短期間での数少ないデータから断定するのはむずかしい点に留意しておく必要がある。また、「早大道研」のデータとはその収集時期や場所、期間も異なり、今回のアンケート調査結果と比較することは早計に過ぎるが、あえて比較を試み、わずかのデータを参考にしながら、今日の札所を巡拝している遍路の実態を探ってみた。
 その結果を分析すると次のようである。

 (ア)地域別遍路数

 回答者を地域別に分類すると(図表2-2-26)、四国地域が34%と最も多く、次いで近畿地域28%、関東地域10%、中国地域10%の順になっており、数は少ないが、北海道、東北、九州・沖縄地域からも四国霊場を巡拝に来ている様子がうかがえる。これに対して、「早大道研」の調査結果では、近畿地域が24%と最も多く、次いで四国地域の20%、関東地域が15%となっており(⑤)、順位は異なるが、上位3地域は共通している。

図表2-2-26 地域別遍路数

図表2-2-26 地域別遍路数