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遍路のこころ(平成14年度)

(2)遍路道で学ぶ①

 遍路道を、学校教育の中の「地域教材」とか「人との関(かか)わり」などのテーマで学習しようとする取り組みや、遍路道沿いの花作り実習体験による情操教育をしようとする試みについて探った。

 ア 遍路道での学習

 (ア)愛媛県立三島高等学校での取り組み

 伊予三島市にある三島高校では地域学習の一環として、遍路道、遍路道標などを取り上げて学習をしている。同校で地理・歴史科を教えている**さん(昭和41年生まれ)に遍路道学習について聞いた。
 「私は、遍路道とか遍路石などにもともと興味があるほうではありませんでした。しかし愛媛県総合教育センターで受講した研修講座の中に、教育センター近くの遍路道(浄瑠璃寺~八坂寺~西林寺)と遍路道標をたどる実地研修がありました。この研修が大変印象に残っていて、いつか生徒と共に学習をしたいと思っていました。
 平成10年4月に松山商業高校から三島高校に転勤になり、伊予三島市のことを調べていると、高校の近くに遍路道が通り、遍路道標も多く残っていることが分かりました。そこで、これをテーマに地域学習が出来るのではないかと考えました。私は、地歴・公民研究部の顧問をしていますので、部員と一緒に昨年(平成13年)学校近くの遍路道を歩いて遍路道、遍路道標の調査をしました。生徒たちは野外での学習により、今まで何気なく歩いていた道での新たな発見があり調査への意欲を示していました。
 今年度(平成14年)から、『総合的学習の時間』が1年生を対象に始まり、学年全体の学習のねらいが『地域を知る』ということになったので地歴・公民科の先生方で話し合い、『伊予三島の歴史探訪』として、遍路道での野外学習を地域学習の一環として『総合的学習の時間』に取り入れました。方法としては、三島高校の近くに六十四番前神寺(西条市)と六十五番三角寺(川之江市)を結ぶかつての遍路道が通っており、道しるべとなる『遍路石』が残っています。その『遍路石』を頼りに遍路道をたどる作業と、『遍路石』は誰が建てたか調べたり、『遍路石』に記されている文字の読み取りなどが学習の中心です。最後に簡単な感想を添えたレポートを提出させます。校外に出るので時間的なこと、交通マナーなど気を遣うことが多いです。生徒にとっては新しい発見があってよかったと思います。」
 平成14年6月に実施した生徒の感想には次のような内容があった。

   ○ 昔につくられたものが、今も残っているのですごいと思いました。一番おどろいたのは、中務茂兵衛がへんろ石を建
    てるために、280回も歩いたということです。
   ○ 普段何気なく通る道にたくさんのへんろ石があってびっくりしました。9個もあると思っていなかったので、道しる
    べとなるへんろ石がお遍路さんにとってどんなに大切なものかよくわかりました。
   ○ いつも通っている道にもへんろ石がいろんな所にありました。昔の人が通っていた道を、今、自分も歩いているとい
    うのが不思議な感じがしました。いたる所に見つけやすく建ててあるへんろ石をみて、おへんろさんが道に迷わずお寺
    に行けるように気づかいされていたんだなと感じました。

 (イ)伊予三島市立南中学校での取り組み

 伊予三島市の南中学校では、「総合的な学習の時間」に「私にかかわることへの探求-人とのかかわり学習-」というテーマの中で、生徒の中の1つのグループが歩き遍路と地域の人々のかかわりを調べて発表した。
 南中学校で指導に携わった**さん(昭和38年生まれ)に話を聞いた。
 「今年(平成14年)から『総合的学習の時間』が始まりました。南中の研究テーマ『私にかかわることへの探求-人とのかかわり学習-』のなかで、1年生は『地域を見つめて』としました。そのねらいは、自分にとって最も身近な地域である三島南中学校区内や伊予三島市の産業や伝統、文化などについて知り、郷土への愛着をもって地域の一員としての自覚を持たせることでした。そこで3講座を開設しました。講座1として、物づくりを中心に研究する講座、講座2として、人づくりや街づくりを中心に研究する講座、講座3として、地域の伝統や文化を研究するグループを開設し、生徒たちはそれぞれのグループで同じテーマのもと小グループを作り研究しました。
 遍路を研究したのは講座3のグループでした。生徒たちは、インターネットから四国八十八ヶ所の起源や遍路に関するものを調べ、実際に校外に出て、遍路道標を調べたり、歩き遍路の方にインタビューをし、それを発表しました。前神寺から三角寺の途中にこの地域があるということで、遍路さんをよく見かけます。しかし、こうして自分たちで遍路について調べ、インタビューまでして遍路さんと話すことなど初体験であったようです。そのような意味で学校全体の研究テーマである『私にかかわることへの探求-人とのかかわり学習-』に最も近い学習をしたグループであると思います。生徒同士でも遍路を取りあげたグループが一番いいという意見がありました。『四国八十八ヶ所』を歩いて回ることの意味、大変さ、その人の考えなどが分かったことで大きな意味があったと思います。」

 (ウ)個人での取り組み

 大洲市立新谷中学校2年生**さんは、平成14年度第27回「小さな親切」作文コンクールで全国からの応募7万編の中から「五つのアメ玉」と題した作文が特別優秀賞に選ばれた。彼女が幼い時から家族と共に4年をかけて八十八ヶ所を車で巡拝したときの体験と、その時にお遍路さんや様々な人々にいただいたお接待を何とか返したいという気持ちが五つのアメ玉でのお遍路さんへのお接待につながった(写真3-1-18)という内容である。
 彼女の家は、宇和町の四十三番明石寺から久万町の四十四番大宝寺の間、大洲市新谷の国道沿いで、歩き遍路にとっては、車の騒音や排気ガスで疲れる道沿いにある。以下は彼女の作文の一部である。

   夏休みになると、学校で作っていたアサガオを持って帰り、咲かせます。種がたくさん取れたので、お接待のアメと袋に
  入れました。お接待の場所も目立ちそうな場所に変えて、私の考えたキャラクターのイラストと「お遍路さん頑張って」と
  いう応援メッセージを書いて貼りました。
   一年後、「アサガオが咲きました。」と大阪の方から写真付きの葉書が届きました。これまたびっくり。また、「昨年、
  こちらで頂いた種をまいたら、一年中花が咲いています。」とハワイからのお遍路さんも立ち寄られたことがあります。私
  には、お遍路さんの目的や、難しいことは分かりませんが、私の小さなお接待を見て、喜んでくれるお遍路さんのことを思
  い浮かべるとうれしくなります。これからも、たった五個のアメ玉お接待を続けていこうと思います。

 彼女の両親の**さん(昭和32年生まれ)、**さん(昭和36年生まれ)は、「小さいときからの四国八十八ヶ所巡りの中で得たお遍路さんや多くの人々との交流の経験によって、家の前を歩いている多くのお遍路さんに対しての見方が変わり、『五つのアメ玉』のお接待になったと思います。『五つのアメ玉』のお接待をすることによって様々なことを学んだと思います。毎日の生活の中で、同居している祖父母に対する思いやりや、学校の後輩に対する接し方など他人に対する思いやりが彼女の成長とともに育まれてきたと思います。」と語る。

写真3-1-18 「五つのアメ玉」お接待

写真3-1-18 「五つのアメ玉」お接待

大洲市新谷町。平成14年7月撮影