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えひめ、その食とくらし(平成15年度)

(1)「食の文化」とは

 食べることを文化としてとらえるのが「食の文化」である。文化を持った動物である人間の特徴を示す言葉として「人間は言語を使う動物である。」といわれるが、文化人類学者の石毛直道氏は、食の文化について同様の言い方をするならば、「人間は料理をする動物である。」、あるいは「人間は共食をする動物である。」といえるとしている(①)。以下、石毛氏の考えを要約して紹介する。
 まず第1に、「人間は料理をする動物である。」とする点である。本来、料理とは、そのままでは食べられないものを食用可能なものに変化させる、あるいは、食べにくいものを食べやすい状態に変化させるために発生した技術である(なお本書では、料理技術を用いて出来上がった食べ物の呼称としても「料理」の語を用いる。)。料理の発達とともに食べ物の種類が格段に増加し、衛生的かつ安全に食べられるようになった。石毛氏はこれを食品加工体系と名づけ、その中には、料理技術とそれにより出来上がった食べ物だけでなく、料理の食材や食器・台所用具など食にかかわる道具類も含まれるとした(①)。
 第2に、「人間は共食をする動物である。」とする点である。共食とは、文字通り集まって共に食べることであり、その最も基本的な単位は家族である。限りある食べ物を共に分かち合うために、食べ物の分配をめぐって食事作法の起源ともいうべきルールが発生した。石毛氏は、こういった食事の場における人々の振る舞い方を規定する約束事を食事行動体系と呼び、それには、食卓や食器の違いに由来する食べ方、食卓における席順、料理の配膳(はいぜん)や食べ物を口に運ぶ順序、日常の食事と行事の食事の仕方の違い、性差・世代差に関係する食卓での振る舞い方、食事に関するタブーなどさまざまなものが含まれるとした(①)。
 本書の目的の一つは、えひめ地域の人々の伝統的な食生活を探求することである。前に述べた二つの体系を「食生活」の観点から見た場合、食品加工体系が食生活の物質的な面を扱うのに対して、食事行動体系は食生活の精神的な面を扱うのだといえよう。石毛氏はこの点について、「両者をセットとしてとらえる-すなわち食生活の物の側面と心の側面の双方に視点を当てることによって初めて一貫した食生活論が展開する。(①)」と述べている。