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えひめ、人とモノの流れ(平成19年度)

(3)体験者の喜ぶ顔に会いたくて

 **さんは「私はサラリーマンの家庭で育ち、結婚して初めてこちらにやって来て専業農家になったのです。こちらに来て驚くことが多かったのですが、特に食習慣には驚きました。青果にしろ、野菜にしろ、サラリーマンの家なら、4分の1とか2分の1にカットされたものしか買ってきませんが、こちらでは例えばスイカなら一個まるままのものを半分に切って、それこそスプーンですくって食べたり、ミカンならいっぱい食べて、むいた皮が山になるくらいぜいたくに食べられるし、とにかくおいしいのです。それまでも自分なりにおいしいものを食べてきたと思っていたのに、来てみるともう全然違っていて、こちらに来て本当のおいしさ、食べる楽しみというものを知りました。そして、このおいしさ、そして食べる楽しみを多くの人にも味わって欲しいと考えています。
 ミカン作りにしても、花作りにしても全部初めてでしたが、ミカンはおいしいし、花はきれいだし、特にトルコキキョウという花は、花が咲いてから出荷するので、そのときの『切り始め』にはワクワクしています。そういうきれいで、ワクワクする気持ちを多くの皆さんに感じて欲しいので、切ったものをズボッと入れてしまうのではなく、アレンジメントをすることによって実感して欲しいと考えているのです。フラワーアレンジメントの体験は、別に伯方に来なくてもどこへ行ってもできるものですが、だからこそ、私のところでないとできないような体験を提供して喜んでもらえればと思います。そして、花には一本一本値段がつくものですから、やっぱりこちらが損を出さないようにしたいとも考えています。また、体験希望の日程についても、先方が希望される日程が花摘みにとってベストでなければ、ベストな日時をお知らせして、そういったときに来ていただけるようアドバイスしています。やっぱり、盛りの過ぎた花畑に入っていただいてがっかりされるよりは、喜んでいただきたいのです。
 昨年フラワーアレンジメント体験に中学校の修学旅行生を受け入れたときのことです。伯方に来るまでにもいろんな体験をしてきたようでしたが、参加した女の子たちを花畑の中に案内したとたん、『うわー、癒(いや)される!!』という声を挙げてくれました。そしてアレンジメントを楽しんでくれたことが思い出に残っています。やりがいはやっぱり体験者の喜ぶ顔を見ることです。将来的には沖浦(おきうら)ビーチのそばにある畑やその周辺の休耕地を利用して、周囲に桜の苗木を植え、美しい桜の花咲く伯方の名所と言われるような場所を作りたいという構想も持っています。」と話す。
 また、**さんは「お客さんが喜んで帰って行かれる姿を見ると、疲れが吹っ飛んでしまいます。次にやってくる人がどういう人たちだろうとか、若い人たちならどんな料理をお出ししようと考えていますので、来てくれること自体が楽しみなのです。私は、少々赤字になっても喜んでもらえばいいと考えているのです。後片付けでお釜や食器を洗ったりすることがちょっとしんどかったなあと感じたことはありますけど、大変だったとか、困ったとか、苦しかったとかいうことは一度もありません。たくさん受け入れていても、自分たちがしんどくならないように考えています。だから、休むときは休みます。『イギス豆腐作り体験』を日曜日に希望される方がいますが、この体験は農協の一室を借りてやっていて、日曜日は借りることができませんから、お断りしています。自分たちができる範囲内でやっていますので、受け入れにあたって人手が足らずに大変になるということはありません。
 やっぱり接客が好きでないと続きません。今では私にとってお客さんを迎えることが生きがいとなっています。以前、東京から小学生の双子の男の子とそのお父さんが来てくれました。家ではイカは切ったことはあるが、タコはないというので楽しそうに料理していました。タイを塩焼きにして出したのですが、目玉が白くて大きいことが珍しいらしく、持って帰るのだといってうれしがっていました。そういう様子が見ていてとても楽しいのです。たくさんの方に来ていただいて、その方たちが癒されるとまではいきませんが、食事をされて楽しんでいただけることがうれしいですね。また、体験に来る皆さん、特に子どもたちの瞳が輝いていますね。タコに初めて触る、魚をさばく、そして食べて喜んで帰って行かれる姿を見るのは生きがいです。このGTによって、受け入れにかかわった地域の皆さんは、皆生き生きしているのです。そして、受け入れ側にこれからはもっともっと若い人たちにも入ってもらわなければならないと考えています。そのためには、若い人がパートで得られるくらいの日当を出せるようにしていく必要があると思います。」と話す。