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愛媛学のすすめ

2 愛媛学がなぜ必要なのか-時代背景

 全国の各地で、地名に学をつけた「○○学」をよく見かける。学として成立するかどうかは後に検討するとして、このような学問がなぜ必要なのか、まず、その時代背景について考えてみたい。

(1)地方の良さの再発見

 戦後わが国は、経済の高度成長を進めるなかで、東京一極集中が進んできた。経済が発展し、東京一極集中が進むほど、交通問題・土地問題・生活環境問題等、あらゆる方面において、人間としての生活が窮屈になり、困難を増してきた。そうしたこともあって、近年人々は真の豊かさとは何か、心の充実を求める方向で、地域を単に生産の場としてではなく、生活の場としてとらえ直そうとし始めている。より個性的で、ゆとりある生活の場として、豊かな自然環境と優れた伝統文化が息づく、特有の生活文化を持つ地方の良さを見詰め直そうとする気運が高まってきた。生活の場としての地方の見直しが始まっている。
 一方、各地方の町や村においては、過疎化・高齢化が進むなかで、地域間競合がますます激しくなり、地方の生き残りは極めて難しい状況にある。それぞれが生き残るためには、自分の住んでいる町や村の特性を再発見し、それを生かす方向で個性的で生きがいのあるまちづくりを進める以外にない。自分の住んでいるまちに誇りと自信の持てるまちづくりを進めたとき、はじめて若者も定着し、活気あるまちになるはずである。誇りと自信の持てるまちづくりをしていくためには、何よりもそれぞれの地域を見直し、その良さを再発見することが不可欠であるということで、地域の再発見が始まっている。
 このように地方を見直し、再発見の動きが起こってくるなかで、地域をトータルに客観的にとらえる学問の必要性が求められてきたのである。それはこれまでのような専門分野によるこまぎれ的な調査ではなく、科学的・総合的・学際的に調査研究し、その地域の特性を客観的にとらえる学問としてである。しかも、専門家だけでなく、生活者としての地域住民の視点からとらえ直し、地域住民が中心となって作っていく新しい学問として求められ始めたのである。

(2)アイデンティティ確立の必要性

 二つ目は、アイデンティティ確立の要請である。物質的な豊かさを追求するという共通の目標がほぼ満たされた今日、生活の個性化と価値観の多様化の中で、自分らしい生き方をしていくためには、各自それを支える基盤としてのアイデンティティを確立することが必要である。「自分は何であるのか」「自分は何ができるのか」「自分の生きている意味は何なのか」などの自己喪失の不安から脱出して、生活者として「自分はあくまでも自分である」というアイデンティティ、自己の存在証明を確立しないことには、自分らしい自信のある生き方はできない。自己のアイデンティティの確立は、何よりも生活の土台である居住地をしっかりと見つめ、認識することから始まる。自分の生活している地域の歴史・文化・自然環境・住民等に触れ合い、それを正しく理解し、地域に誇りと自信をもったとき、はじめて自己のアイデンティティの確立は望めるものといえる。
 ところが、国際化・情報化が進むにつれて、人々は地域離れをし、「根なし草」的な存在として、アイデンティティを確立するのにきわめて困難な状況にある。国際化・情報化が進めば進むほど、意図的に私たち一人一人のアイデンティティを育むふるさとを見詰め直し、正しい地域理解をする必要が起こってきたのである。

(3)生涯学習時代-知的風土の形成

 今日の科学技術の高度化、情報化、国際化、価値観の変化と多様化、自由時間の増大等により、生涯学習の必要性は高まってきている。本県においても生活文化県政の主要施策の一つとして、生涯学習県の実現に努力しているところである。また、国の生涯学習審議会の最終答申でも「身近なところから自発的に生涯学習を」と国民に呼び掛けている。生涯学習の対象として、自分の住んでいる身近な地域を取り上げ、自発的に自分でできることから学習を始めることが大切である。身近な自然・歴史・文化・産業等々は、生涯学習の重要な対象の一つである。住民が自分の住んでいるところについて、日常的に、自発的に調査研究する知的風土の形成は、取りも直さず生涯学習そのものである。地域の良さ、地域の特性、地域の未来像等について、県民が進んで調査研究していくことが期待されている。