データベース『えひめの記憶』

えひめの記憶 キーワード検索

愛媛学のすすめ

(2)聞き取り調査法とその手順

 ここでは、われわれが実際に行った「聞き取り調査」の手順・方法について、簡単に述べることにする。

 ア テーマ・調査内容の決定

 あまり間口を広げず、テーマを絞って調査を行う方が、内容が充実する。何を明らかにしたいのかという目的意識をはっきりと持つべきである。例えば生業(農漁業、行商、船大工等)、日常生活(衣食住、家事、交通)、地域社会(祭祀(さいし)、行事、共同作業)等のいずれか1テーマに焦点を置く。一例を挙げれば、一地域の交通と生活のかかわりと変遷をテーマとし、その点を中心に商店主・運送業者・農漁業者(出荷経路等)から聞き取りを行う。ただ、常に地域や生活の全体像とのつながりを考え、各時期の変遷をしっかりと押さえていくことが必要で、それにより一個人の話から、全国的な共通性と一方でその地域の特色、時代の流れを浮かび上がらせることができる。また、さらに周辺地域や共通点を持つ他地域との比較調査を行えば、より内容を深め、新しい知見を生み出すことも可能である。そのためにも、関係する地域資料(文献やアンケート調査)を十分に収集・整理して、聞き取り内容と組み合わせることで、客観的・総合的な調査結果にすることを目指している。

 イ 代表者への連絡、対象者の選定

 テーマに沿って、関係すると思われる市町村、各種団体組織(農漁協、商工会)、地域の代表者(区長、青年団、婦人会等)に電話で連絡を取る。その際に所属・氏名等及び調査の目的をはっきりと告げ、了解が得られれば依頼状を送る。その情報提供・推薦により、調査目的にふさわしいと思われる人物を選定する。内容によっては、最初から現地に出向いて、土地勘を得るとともに、通りすがりの人や宿舎から情報を得て、人物選定をすることもできる。ただ後の資料収集のためにも、関係機関・団体とは最初に接触を持つようにしている。
 聞き取り調査の対象者としては、調査に関する事柄に長期間携わってきたか、該当地域にずっと在住されてきた人で、記憶のはっきりしている人を選んでいる。必ずしも団体の役員や会社の長がよいとは限らない。事前に本人に連絡し十分な了解を得ることが必要で、調査日時や内容についても相手方の意向を優先し、プライバシーに立ち入り過ぎないようにする。また調査結果を発表する場合にも原稿を見てもらい、個人や地域に不利・不都合な点は修正することも必要である。

 ウ 事前の準備、調査の心がけ

 準備物としてカメラ、テープレコーダー等がある。メモを取ることは、熱心に聞く態度を示すとともに、後で聞き取り事項を再構成するのに役立つが、書き落としをなくし、こちらもリラックスして聞くために録音もしておくようにしている。ただし、最初に断っておくことが必要である。またメモを調査当日読み返して、身振りや図など、録音だけでは不十分な箇所を付け加えておく。
 詳細な聞き取りを行う場合は、1対1か2・3人の少人数にする。最初に多人数で聞いて共通体験を探るとともに、興味深い話者の目星を付けて、後日その中の1~2名に詳しく聞き取る方法もある。1回に2~3時間が目安で、相手が疲れたらやめる。自宅や公民館など相手がリラックスできる場の選定も大切である。くだけた気持ちで話ができるよう、言葉にも十分配慮する。調査項目リストを事前に作成しておいて、系統だてて聞くことが大切であるが、それにこだわり過ぎないようにし、相手の話の腰を折らない(余談の中に思いがけない発見がある)。リストを提示するのではなく、自然な話の流れの中で、相手方が受け身にならないよう配慮して聞き取りを行う。

 エ 調査項目の作成(例)

 (昭和を生き抜いた人々の)生活文化の調査、特に生業を中心としたものでは、以下の質問項目を基本に、調査対象によって、さらに具体的・詳細な項目をつけ加えている。

 オ 整理・分類、執筆

 調査に出掛けるごとに、共通の形式で調査票またはカードに調査内容をまとめておくと、後日の整理に役立ち、また貴重な資料として学術面にも貢献できる。その際、調査対象者の氏名・住所、聞き取り日時・場所、関連する録音テープ・写真アルバム(項目ごとに分類して保存しておく)等の整理番号は、最低限記入しておく。原稿としてまとめる際には、調査結果の勝手な改変は絶対に避けるべきであるが、全く該当地域を知らない人にもわかるよう、場所・方言など十分な説明をつけることが必要である。また、話者の個人体験・自慢話に陥りやすいこともあり、資料により客観的裏付けや地域の共通性を探ることが重要である。

質問項目

質問項目