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宇和海と生活文化(平成4年度)

(2)郷土料理

 宇和海沿岸地域といえば、海の幸、山の幸の調和と豊富さを最も誇る地域だと思う。したがって、ここには独特の素朴さと豪華さをもつ料理、いわば愛媛の味があるのではなかろうか。人々の暮らしに根ざした郷土料理の特徴と発掘を試みた。
 **さん(三瓶町安土 大正10年生まれ 71歳)、**さん(三瓶町朝立 大正12年生まれ 69歳)、**さん(吉田町立間 昭和23年生まれ 44歳)、**さん(八幡浜市 昭和43年生まれ 24歳)の4名の方々の協力を得た。

 ア 鉢盛料理

 南予の人々には特有のおおらかさがあり、古くから結婚式・祭礼・そのほかの祝事には大変豪華な鉢盛料理で、客をもてなす習慣がある。この地域の人達の親密な人間関係もこれらの行事に見られる。結婚式などの場合も、招待者だけではなく、親せきや近所の人達が皆、祝いの客となって来る。
 冠婚葬祭にはお世話人がいて、大体の心積もりを相談し、お世話人が万事を取りしきる。料理万端は「箸取りさん」に任せられ、タイの活け作り・フカの湯ざらしなどは技術と経験をもつ男性が作る。一方組内のお手伝いさんは、それぞれ得意な料理を手分けして、酢の物・煮しめ・丸ずし・タイメン・おすし・さつまなどを作り、果物・ようかん・タルトなども準備する(写真3-1-57参照)。
 宴会には、鉢台の上に大きな皿をのせ、一品ごとに盛りつける。箸取さんは各々のお客に料理を小皿に取り分けて配る(写真3-1-58参照)。
 鉢盛料理は、客の数に多少の増減があっても、それに対応できる特徴をもっているので、祭りの時などは、気軽に「きなはいや」と客を招き、親しい付き合いをすることができる。
 また、鉢盛料理は葬祭にもつかわれる。祝事の場合には皿の数を奇数に、仏事には内容を小芋・タケノコ・コンニャクなどの煮しめ、あえもの、また揚豆腐、つと豆腐などの豆腐料理を中心に、皿数を偶数にする(写真3-1-59参照)。

  ① タイの活け作り

 大ダイ(目の下1尺=約33cm)を活け作りにして、季節や使用目的を表して盛りつける。タイは目出度(めでた)いとして鉢盛には欠かせないものである。大根や竹ぐしで、威勢よくはね上がった姿になり、刺身で白波の打ち寄せるさまを表したり、活け作りには何通りもの方法がある。
 活け作りの材料として、ハマチ・ヒラメ・イセエビ・コイなどを使用する。またワカメ・トサカなどの海藻や、季節の花や木で美しく華やかに飾る(写真3-1-60参照)。

  ② フカの湯ざらし

 フカの湯ざらしは、南予独特の有名な料理で、祭礼や祝事の時は、鉢盛料理に必ず入れなければならない。
 フカはサメのことで、鉄砲に形がよく似ているので、テッポウと呼ぶ地方もある。
 湯ざらしには、特に新鮮なフカを使用しなければいけない。湯と水又は冷水を上手に使い分けて、こじわがあり、真白に仕上げるのがコツである。
 結びコンニャク・豆腐・季節の青野菜をからしの酢みそで食べる(写真3-1-61参照)。

  ③ タイめん

 南予地方に伝わる鉢盛料理に欠かせないものとしてタイめんがある。白い波や渦巻きを形どった、ゆでたそうめんの上に、大きなタイの姿はみごとである。
 大ダイを姿のまま煮付け、その汁でそうめんの付け汁を作る(写真3-1-62参照)。
 おのおのが、タイの身をほぐしながら、そうめんを食べる料理である。
 夏は魚も汁も冷たくし、そうめんは氷の上に置くが、冬は暖かくしておく。そうめんはめでたいとされ必ず作る一品である。

  ④ 丸ずし

 イワシとおからで作った丸ずしは、今でもよく使われる郷土料理である。漁業の盛んな地方で丸ずしに使うイワシがたくさん取れる。又段々畑には大豆が多く取れるので、豆腐も家庭で手作りしていた。そのしぼりかすのおから(きらず)を使って、丸ずしが考え出されたと思う(写真3-1-63参照)。
 すしと同じ味付けしたおからをにぎり、酢でしめた魚を包んで作ったもので、横から見ると丸いのでその名が付いたという。結婚式の祝膳には使う縁起料理である。

  ⑤ 海賊料理

 海賊料理は別名法楽焼きという。瀬戸内海西南部を根拠地とした、伊予水軍の戦勝料理であったと伝えられている。ホーロクの上に小石を並べて、魚や貝を焼く料理である。
 この料理は三崎町にあり、近海で水揚げされる天然のタイ・ハマチ・ブリ・サザエ・アワビ・伊勢エビ・カニ・トコブシなどを新鮮に料理し、豪華に盛り付けた郷土料理である。いその香り豊かな海の幸を十分味わえる料理である。

  イ 伝承したい郷土料理

 戦後食生活の改善が急速に進むなかで、次第に加工食品の消費が拡大されるとともに、食文化の伝承は陰を落としてきた。しかし近年になって、栄養学や医学の立場からも、昔の手作り食品が見直されて来た。そこで日常取り入れやすい郷土料理を、とりあげてみることにした。

  ① タイめんと丸ずし

 タイめんと丸ずしは、すでに鉢盛料理の項で述べたとおりであるが、豪華さがあり又栄養的にも優れた料理であるから、大いに利用するとよいと思う(写真3-1-62・63参照)。

  ② さつま

 薩摩の国より伝わったという説と、夫が妻を助けて作るからという説もある。南予一帯の郷土料理で四季をとおして作られる。
 アジ・カマス・イトヨリなどの白身の魚をす焼きにして身をほぐし、頭と中骨でだしを取る。みそ(麦みそがよい)とほぐした身をよくすり、すり鉢の内側に塗って焼き、又すって焼くをくり返し、香が出るまで火を通す。だしを加えてすりまぜる。
 熱い御飯(麦飯がよい)にたっぷりとかけ、千切にして薄味を付けたコンニャクと、小口切りのネギをそえて食べる(写真3-1-65参照)。
 白身の魚のかわりに、イリコを使って作る事も出来、これがイリコさつまである。

  ③ ひゅうが飯

 伊予水軍の根拠地の一つ、日振島に残る料理で、「ひゅうが」とは日振島がなまってそう呼ぶようになったといわれる。対岸の明浜町一帯に伝わり、現在各地で作られている。
 ひゅうが飯は、かけ汁に火を通さないのが特徴で、生きアジを刺身のように切る。いり白ゴマ、しょうゆ、砂糖でつけ汁を作り、アジの切身を加えて味をなじませる。卵をよくときほぐして加えしばらくおく。熱い御飯にかけ、ネギの小口切り・もみのりをふる。卵が半熟になった時が食べごろである。アジは7~8月が旬であるが、新鮮であれば、ほかの魚でもよい。生魚の栄養的な食べ方である。焼きアジにしてもよい。

  ④ タイのかけ汁(煮込み)

 タイ(白身の魚)を水から煮て骨などを除き、その中ヘゴボウ・コイモ・ニンジン・かまぼこ・ちくわ・ネギなどを小さく切って炊き、味をつけて御飯にかけて食べる。

  ⑤ ヒジキずし

 ヒジキを使って、ちらしずし風に料理したものである。ゴボウ・ニンジン・油揚げ・ちくわ・サヤインゲンなどを味付けし煮る。その煮汁でヒジキを炊き味付けする。合わせ酢を作り、ヒジキ・ゴボウ・ニンジンなどを混ぜる。

  ⑥ ヒジキ飯

 鍋で油を熱し、ヒジキ・油揚・ニンジンをいため、だし汁を加えて調味し軟らかくなるまで煮つめる。洗った米に適量の水を加え、塩・酒で下味を付けて炊き、火を止める前に先に煮つめた具をのせ火を止めて蒸らす。御飯が炊き上がったらよく混ぜる。

  ⑦ つと豆腐

 豆腐を3つに切り、すだれに巻き、ひもで結ぶ。沸いた湯の中へ入れてしばらくゆでる。しょうゆ・砂糖・酒・塩などのだし汁を沸かした中へ入れ、中火にして味が十分にしみ込むまで煮込む。出来上がっても、しばらくその汁に漬けておく。輪切りにして器に盛る。
 好みで、からしみそで食べてもおいしい。

  ⑧ かんころ

 アズキは軟らかく炊く。切り干し芋がひたる位の水で炊き、沸いたらあくを取り、アズキを入れ時々まぜながら、中火で軟らかくなるまで炊く。弱火にして砂糖(黒砂糖)を入れまぜ、味が付いたられんぎでよくつき形(茶きん絞りにするとよい)にまるめる。アズキの替わりにグリンピースを使ってもよい(写真3-1-66参照)。

  ⑨ 芋ぼた(だんご)

 ヨモギをゆでみじん切りにする。もち粉とたんご粉をこねて蒸す。芋は軟らかくなるまで煮る。もちとヨモギ、芋を混ぜてねり、黄な粉の上に取る。別に作ったあんを包む。

  ⑩ 芋もち

 芋は5mm位の輪切りにし皮をはぐ。芋の粉・小麦粉・炭酸を入れてこね、もちの様に中に輪切りにした芋と、黒砂糖の小さく切ったのをあんにして入れて蒸す。
 芋の粉・小麦粉を混ぜ合わせた中に、グリンピースを入れ、薄くまるめてもよい。

  ⑪ ツワブキの粕漬

 下漬はツワブキをゆがき皮を取り水につける。水につけたツワブキを、さっとゆがき(2度ゆで)又水につけて2日程さらす。
 水気を取ったツワブキを、10本程ずつ束にして塩漬けし、軽いおもしをして3日おく。
 本漬は酒かすと砂糖を合わせ、かす床を作っておく。下漬けしたツワブキは、布きんで水気を取っておき、容器に酒かすとツワブキを交互に漬け込む。上部にビニールをはり密封する。

写真3-1-57 鉢盛料理

写真3-1-57 鉢盛料理

現在は一般には鉢台は使われていない。平成4年9月撮影

写真3-1-58 鉢台

写真3-1-58 鉢台

この鉢台に一皿ずつ乗せる。**氏所蔵。平成4年12月撮影

写真3-1-59 仏時の鉢盛料理

写真3-1-59 仏時の鉢盛料理

平成4年12月撮影

写真3-1-60 タイの活け造り

写真3-1-60 タイの活け造り

平成4年9月撮影

写真3-1-61 フカの湯ざらし

写真3-1-61 フカの湯ざらし

平成4年9月撮影

写真3-1-62 タイめん

写真3-1-62 タイめん

平成4年9月撮影

写真3-1-63 丸ずし

写真3-1-63 丸ずし

平成4年9月撮影

写真3-1-65 さつま

写真3-1-65 さつま

平成4年9月撮影

写真3-1-66 カンコロ

写真3-1-66 カンコロ

平成4年9月撮影