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わがふるさとと愛媛学Ⅱ ~平成6年度 愛媛学セミナー集録~

◇紙文化の未来展望

 次に、この地域の未来図を、皆さんと一緒に、いろいろと考えてみたらと思います。
 生活が豊かになり、だんだん、紙を無意識的に消費することを覚えたのはいいんですが、逆に、紙の持っている風合いとか、紙の生まれた風土とかについて、使う側があまり意識しなくなったことは、果たして幸せなんだろうかなと思います。
 これから21世紀にかけて、だんだん技術開発も進むと思いますが、もう一度紙というものを素材から思い起こし、しかも、生活の中での各ウェイト、役割を見つめなおして、少し擬人的な言い方かも知れませんけれども、「紙に、主体性を発揮させる。自己主張をさせる。」という紙が開発されてもいいのではないかと思っております。「人間さまが主人公で、紙は従属物だ。」という構えではなく、そういう自己主張を紙にいろいろさせる。つまり、紙がそういう主体性を持つということは、すなわち、紙の持っている素材や適性を生かして、人間が、もっと豊かで広がりのある紙を開発していくチャンスがそこに潜んでいるのではないかと、私はとらえているのでございます。
 21世紀に、どういう紙の町になるか。また、この町からどういう商品が供給されていくのかは、まだ具体的には見えてきませんが、川之江では機能紙の研究も進んでいると聞いておりますので、これからは、かなり異色の紙も登場してくると思います。
 私の本業である酒、醸造の分野から申しますと、紙の理学部分を研究しているある酒造家が、「お酒の発酵過程で出てくるものや、醸造の原料として使うようなものを、紙の中で生かせないか。」といったことを、考えていらっしゃるようです。ほかにも、おからから紙を作るとか、ゴボウやニンジン、あるいはススキや草花、海藻から紙ができる。また、香りのある紙、温度を感知する紙(これはもうすでに出ておりますが)等々、いろんなものが未来図として予測され、現にもう研究段階ではできてきているように聞きます。
 この宇摩地方でも、そういうものが開花していくためには、(もう、そういう萌芽形態もあるかも分かりませんが)趣味を通じて紙を意識して考える人たちの集団や、そういう豊かな紙文化を育む土壌を、この地域に作らなければいけない。そして、紙文化を顕在化し、当地域の中にしっかりした基盤を作っていただきたいと思いますし、そうすればもっと豊かな紙の町になるのではないか。そんなことを空想しながら、話してみました。
 最後に、これからの紙の展望を実現していくためには、紙関係のソフトウェアを充実することが必要だと思うんです。立派な工場や会社はありますが、伊予三島には、そういう設備はないと思うんです。隣の川之江には紙資料館ができまして、大変活躍してらっしゃるということで、打ち合わせ会でも話が出まして、同じものはいらないと思うんですが、それぞれに個性あるもので共存・補完するような形で展開していけばいいと思うんです。
 やはり、輝く紙のソフトウェア、設備も人も組織もほしいと思いませんか。博物館という表現もありましょうし、一軒もなくなってしまった、伊予三島の手漉き工房もあってもいいんじゃないですか。ただ、昔の紙漉き作業というのは、今でいう3K職場になる恐れがありますので、若い人たちを募集しても、そのままではなかなか集まらないと思います。そこで、モダンな、現代調にアレンジした紙工房を作って、地域の誇る紙作家を作るというようなことも、考えてもいいんじゃないでしょうか。
 また、先程も紙を楽しむ、遊ぶという話がございましたが、紙の工芸品や芸術を楽しもうと思っても、インテリアへの応用を考えても、紙についての勉強ができるお店もないですし、紙に関するいろいろなサポートをしてくれる場所もありません。
 これだけの紙の産地なのに、伊予三島には、紙を一般の方に売ったり、せっかく蓄積されている豊かな知識を提供してくれるような紙の交流の場というのがないんです。川之江にはあるそうですので、三島でも、どなたかぜひやってほしいと思います。
 それに関連しますが、一般の方にオープンになっている紙の情報誌や、紙の研究会もありません。紙の専門誌はあるんですが、もっと一般の人たちにオープンにして、紙研究会も、今日のような人数ではなくてもう少し少人数で、いろいろ膝を突き合わせてやれるようなものが恒常的にほしいなと思います。
 いろいろと申し上げましたが、皆さんの力でそういうものを豊かに持てる紙の町にしていただきたいと思いますし、私たちも、ただこういう所でもっともらしく言うだけではなく、自分たちができるアクションには、やはり自ら手を染めるということが必要であろうかと思っています。
 私も未熟ですけれども、皆さんに教えていただきまして、今少し、紙の勉強をして、教育委員会の皆さんからも教えていただいた、生涯学習というようなウエイトになって、私にとどまってくれればいいな。ライフワークみたいなものになればいいなという思いを持っています。
 私の発表をこれで終わります。どうもありがとうございました。