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わがふるさとと愛媛学Ⅱ ~平成6年度 愛媛学セミナー集録~

◇広葉樹も積極的に生かした林業を

 皆さんが今、目になさっている久万の人工林の風景というのは、戦後、昭和30年以降に国の政策として進められた植林によって作られた風景です。これは、人工林のスギばかりで、非常に単調で面白くないじゃないかと。実際、そのとおりなんですけれども、これはやはり行き過ぎた面もある。これからは少しずつそういう部分を是正していかなければいけないというのが、我々林業家としての立場でもあるんです。
 林業というのは、非常にタイムスケールの長い仕事でして、だいたい、最近少しわかってきたんですけれども、森林というのは、だいたい30年目ぐらいで、少し落ちついてきます。人間で言うと青年期を越したかなというところです。40年、50年たってきて、やっと一人前だなと。それで70年、80年という時間を経ると、どの森林でも、ものすごい安定感が出てきます。説明するのは非常に難しいんですけれども、70年、80年たった、きちんと手入れをされた森林というのは、林内にたくさん光も入ってきますし、林床(地面)にいろんな低木、灌木(いわゆる2~3mくらいの広葉樹、雑木)、いろんな種類の広葉樹が入ってきます。そして、そう簡単に人間が山の中を歩き回るということができないぐらいに、そういった灌木類が茂ってきます。
 「人工林は山の中に入ると真っ暗で冷たくて、土砂、表土の流出が激しくて、こんな人工林では自然破壊の根源だ。」という言い方をよくされるんですけれども、皆さんが今目になさっている人工林が、まさに作られて30年目ぐらいまでの山でして、そういうふうに、林床が真っ暗になりやすいし、また風雪害などの害も受けやすいんです。
 そういう時期を通り越して、きちんと手入れをしてやって、40年、50年、60年、70年というところまで育ててやれば、それなりに安定感のある、多様性のある森林を作ることができます。僕も、だいたい戦後に植林された40年生ぐらいの山を間伐するという仕事を毎日しているんですけれども、正直言って、僕も毎日毎日スギ・ヒノキばかり見ることに、多少飽き飽きしております。それでたまに山の中にサクラとかケヤキとか、それからヒメシャラ、エンジュとか、そういったスギ、ヒノキ以外の建築に使える有用広葉樹が生えてくるんです。そういうものを見ると、とてもうれしくなって、今までは、スギの木を育てるために、雑木を切っていたんですけれども、最近は、「おお、これは物になる。」というサクラとかケヤキとかを残して、回りのスギの木を切るようにつとめております。スギの木は、ほかにもいっぱいあるけど、サクラやケヤキ、他のいろんな広葉樹が少なくなってきたものですから。マツも、最近少なくなりました。「マツ、マツ」と言って、粗末な扱いをしてきたんですけれども。マツの木でも、100年を越えたものは、製材してみると、大変美しい木肌が得られますし、住宅建築にも欠かせない材料なんです。
 そういうことで、やはりスギ、ヒノキだけではなくて、サクラは固い材料ですから建築の中では、敷居とかすり減りやすい所に使うには、一番いい材料なんです。クリも腐りにくい木ですので、家の土台なんかに使うと家が長持ちするというようなことで、昔の民家にはいろんな所に、いろんな広葉樹がたくさん使われていたんです。
 やはりスギ、ヒノキだけでは、これから先、経営的に見ても、商品のバラエティの幅が少ないだろうと。これからはやはり商品のバラエティも増やしていかなくてはならない。そういう林業経営としての幅を持たせるという意味からも、自然保護の観点、それから林地の保全という点から考えても、やはり広葉樹を積極的にスギ、ビキの林内に誘導していくべきだろうと思います。
 今まで行き過ぎた拡大造林の部分は、ある所で、ここまでは今までどおり、きちんと林業経営として森林を管理しましょうと。それでここから向こうは、やはりこれだけ林業労働力が少なくなってきて、経営的に難しいという奥地林とか、山のてっぺんのほうは、もう一度何らかの形で自然林に返してやるという努力をするべきではないかと、最近、感じるようになってきております。
 機会がありましたら、50年を越えて、70年、80年、できれば100年を越えたスギ・ヒノキの林を一度御覧になっていただけると、人工林でも非常に安定したいい生態系が作れることが、わかってもらえると思います。その中にさらに広葉樹を取り込んでいけば、山本さんが言われるように、多様性、安定性、持続性のある林業ができるのではないかと思うんです。
 林業にとって、持続性があるということが、一番の大事なことですので。持続性のない林業というのは、もうすぐやめたほうがいいぐらい。本当にそう思っております。
 いろいろ御批判もあるかと思いますが、これで僕のは終わります。どうも。