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わがふるさとと愛媛学Ⅳ ~平成8年度 愛媛学セミナー集録~

◇海の道と陸の道

正岡
 さて、私は、経済屋ですので、この後、二つ目のテーマであります経済のお話をさせていただきます。
 経済が確立した江戸時代からこちら、特に愛媛、香川、広島、岡山といった瀬戸内海に面した地域は、いわば運河に面した地域でして、海の道が主流でした。江戸時代は、政治の中心は江戸ですけれども、経済の中心は大阪であり、ここへの物資の交流は、西の国である四国も、ほとんど海運によって、海の道を通って行き来をしていました。その当時は、この小松もそうですが、愛媛の地というのは、全国でも最も進んだ地域の一つで、日の当たる地域であったと言っても過言ではありません。
 その海の道は、愛媛では1960年くらいまで、そういう形をとどめていたのですが、明治維新以降、日本の国は一気に海の道から鉄の道に変わってしまい、鉄道が主流になりました。佐藤先生の御専門の、道路といいますのは、それからまたさらに遅れて、実際には1945年以降、戦後のことであります。それまでは日本では物も人も、移動の中心は鉄の道でした。一つだけ具体例を申しますと、東海道本線は、1889年(明治22年)に、既に全線が開通していますけれども、今の高速でない国道1号の全面改修と舗装が終わったのは、なんと1955年(昭和30年)初頭ですから、いかに日本の国は鉄の道であったかということになるわけです。
 その鉄の道の時代においてさえも、この愛媛は、やはりずっと海の道であり、今日でもこの海運業は、大きな地場産業となっています。今日でも愛媛発着の荷物の約70%弱は、まだまだ船によっており、海の道というのが立派に生きています。
 しかし、大きな流れというのは、どんどん陸の道に変わってきています。そして高速で大量の荷物が定時に運ばれるという道路のメリット、さらに高速道路のメリットというのが、今、最大限に生かされようとしています。その中でも、この小松は、いろんな道が交差をする中心でして、それに関連するいろいろな計画がなされています。
 こういうふうな道路が出来上がってきますと、私の三つ目のテーマですけれども、今まで可能であったことが不可能になったり、今まで不可能であったことが可能になったりします。こういういい面と悪い面の両方が個人に、企業に、あるいはまた役所のような行政にも必ずできてきます。
 今まで不可能だったことが可能になります。いい面でいいますと、個人の生活では、著しく行動半径が広がっていき、新しいものや新しい文化にも接することができ、好奇心を満たしてくれるようになります。島の高校の野球部がマイクロバスを利用することによって、本土の高校と練習試合を簡単にできるようにもなります。また、行政も広域の消防であるとか、医療であるとか、いろいろな面に、今まで不可能だったことが可能になります。
 しかし、可能だったことが不可能にもなります。例えば個人生活においては、今まで非常に静かな環境だったところに騒音が起こるとか、排気ガスが出るとかいったことが起こります。また、不便だったからこの商売が成り立っていたが、道ができて便利になって、こういう商売が成り立たなくなるということもあります。たとえば旅館業であるとか、小さいエリアを守って来た専門店などは、その範囲で成立が難しくなってしまいます。
 必ずそのプラスとマイナス面が出て来るということでありますけれども、私たちはそうはいいながら、プラスの面を私たちの生活に、経済活動に、まだ行政の活動に取り入れることによって、生かしていかなくてはいけません。
 いまだに海の道が残っているということを申しましたけれども、今、この陸の道は、四国については、道路公団の予算の10%を超えるものが傾斜配分されています。ですから、四国の陸の道は、見違えるように大きく変わりつつあります。
 佐藤先生には歩く道のお話をいただきましたので、私はどちらかというと、経済の道というふうなことで、お話をさせていただきました。このあとは、佐藤先生と二人で、いろいろな話を交えながら続けていきたいと思います。

佐藤
 今の正岡先生のお話に関連して、先程は歩く道のことしか言いませんでしたので、私も経済の道というようなことで、お話させてもらいたいと思います。
 まずこれからの道づくりで一番重要なことは、自動車のための幹線道路や地域道路と、それから自転車や歩く人のための道路というものを、完全に違う機能を持っているわけですから、体系的にも分離して造っていくということだと思います。
 先程、正岡先生から、海の道や鉄の道も含めて道の変遷や意義のようなものの説明がありましたが、私も同感です。全国的な平均値ですけれども、貨物輸送のだいたい50%を道路が分担しているのです。日本は島国ですから、愛媛は特にそうですけれども、まだまだ海運によるシェアは多いのですが、全体では徐々に減ってきて半分が道路になりました。
 それから人間の輸送は65%を自動車が分担しているということですので、自動車の道の整備というのは、当然必要なのですが、それとバランスを取りながら、人の道、自転車の道も造っていくべきだということです。