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わがふるさとと愛媛学Ⅶ ~平成11年度 愛媛学セミナー集録~

◇5万点の民具たち

石原
 わたしの仕事は、「博物館屋」です。では、博物館とは何をしているのかと言いますと、物を集めているのですね。何でもいいから、やたらと物を集めている。わたしは、博物館という施設を「物の図書館」と考えています。どんどんと物を集め、それについて皆さん方にいかに興味を持っていただくかということに、30年間ほど取り組んでおります。
 わたしどもの海の博物館は、昭和46年(1971年)に開館いたしました。その前年に、大阪で万国博覧会がありました。そしてこの時期には、全国各地で万博をまねた博物館が作られていました。わたしたちも、かっこいいものを作ったつもりでいまして、年間に10万人くらいの来館者はあるだろうと思っておりました。しかし、それはとんでもない話で、7、8千人しかお客さんがおいでにならない。途端に経営危機になりました。さて、どうしたらいいのだろうと迷っていたときに、民俗学者で、日本の島々をすべて自分の足で歩かれたという宮本常一先生(故人)と出会いました。そして、先生がわたしたちに教えてくださったのは、民具という視点でした。つまり、そこら辺りにある物は何でもみんな、庶民、すなわちわたしたちの歴史の資料であるという考え方です。
 歴史の資料というと、わたしたちは文字に書かれたものを考えがちですが、それは言ってみれば、武士や政治家など、ある特定の世界の人々のことを語っている場合が多いのです。これに対して、わたしたち庶民の歴史を語るものの一つには、民具というわたしたちが日常何気なく使っているものがあります。この民具にわたしたちの歴史を語らせることを盛んに唱えておられた宮本常一先生から、「とにかくモノを集めなさい。どんなモノでもいい。同じモノが幾つあってもいい。5万点くらいまで集まると、見えてくるものがありますよ。」と教えていただきました。モノがたくさんあるといろいろなことが分かってきます。例えば、家にお皿がたくさんある。2枚や3枚のお皿では比較することはできませんが、それが30枚、40枚となれば、この皿はこういうときに使ったらいいとか、これはいい皿だなあとか、自分の好き嫌いや使い分けなどに広がりが出てきます。
 宮本先生との出会い以後、わたしたちは、「博物館は、モノ集めの施設だ。」と腹を決め、今まで30年間かかってモノを集め、実は今年(平成11年)の8月の終わりに5万点に達しました。現実に5万点のモノというのは、大変な量です。皆さんの家にある民具の量は、衣類も何もひっくるめて、だいたい2千点くらいですからね。しかし、実はここからが大事なのです。それは、集めたモノに何を語らせるかということです。