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えひめ、昭和の街かど-生活を支えたあの店、あの仕事-(平成21年度)

(4)鉄を鍛える技と心②

 イ 鍛冶屋の習俗-打ち初め・ふいご祭り-

 「打ち初めは、新年の初打ちの儀式のことです。父親の代から毎年行っています。やれる間はやろうと思っています。正月の2日の朝に、打ち初めで鎌と槍(やり)と鍵(かぎ)の3つを作って神棚に供えます(写真1-1-9参照)。槍は武士、鎌は農民、鍵は工・商人を表し、世の中を象徴していると聞いています。毎年作っているのでどんどんたまっています。神棚には火の神さまを祀っています。ふいご祭りもやっていました。ふいご祭りは火や鉄、道具に感謝し、火の用心や商売繁盛を祈願する特別な日です。『八日(ようか)ぶき』といって12月8日に行っていました。その日は、神棚にお供え物をして、仕事を休んでお寿司などのご馳走(ちそう)を食べ、一杯飲んでいました。父親が生きている間はやっていましたが、最近はしていません。」

 ウ 使えるものを作る

 「鍛冶屋に設計図やひな形などはありません。全て経験と勘で行います。勘というのはすごいもので、温度や焼き時間を測ってやっているわけではないのですが、出来上がったものは同じになります。鍬を作っても鍛冶屋ごとに形や個性があります。父親が作ったものと自分が作ったものを見分けるのは似ているので難しいのですが、うちでつくった物は見ればすぐにわかります。
 昔は鍛冶屋の組合がありました。河辺村と肱川(ひじかわ)町で作っていました。郡の組合と県の組合がありました。総会もあり、年に何回か集まっていました。値段も組合で申し合わせて統一していました。値段表を『鍬新調はなんぼ、修理はなんぼ。』というように鍛冶場に貼(は)っていました。昭和30年代ころの価格は安いものでした。修理なら鍬の種類によって違いますが、1本100~300円まででした。新調の鍬で500~600円ぐらいでした。今は三鍬(みつくわ)(3本の刃のある鍬)や四鍬(よつくわ)(4本の刃のある鍬)なら新しいもので2,000~3,500円、平鍬(ひらくわ)(平らな一枚刃の鍬)は手間がかかるので少し高くて5,000~6,000円ぐらいです。ホームセンターや量販店などでも鍬は売っていますが、うちらがやる仕事は責任を持ってやる仕事です。自分の作ったものには責任があるので、例えば鍬を作っても使えない鍬やすぐ駄目になるものを作るわけにはいかないのです。いつも『使えるものを作らないかん。』という思いで仕事をしています。今、組合はありません。鍛冶屋の数がだんだん少なくなって自然に消滅してしまいました。」
 かつて、鍛冶屋は村の産業や生活を支え、村の人々にとってなくてはならない職業の一つであった。しかし、現在は鍛冶職人が鉄を打つ姿はほとんど見ることができない。赤い鉄をたたいて道具を作る仕事は、日本では2,000年の歴史があるが、昭和30年代後半から進んだ農業の機械化と村の変貌により、長い時間と経験に培われた鉄を鍛える技は消えようとしている。

写真1-1-9 打ち初めで作る鎌・槍・鍵

写真1-1-9 打ち初めで作る鎌・槍・鍵

大洲市河辺町。平成21年6月撮影