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臨海都市圏の生活文化(平成7年度)

(2)「カツオパック」新発売

 **さん(伊予市下吾川 昭和9年生まれ 61歳)
 **さん(伊予市尾崎  昭和12年生まれ 58歳)
 **さん(伊予市米湊  昭和31年生まれ 39歳)
 削り節の需要は、インスタントラーメンの登場(昭和33年〔1958年〕)を契機とする即席食品ブームによって伸びたものの、短期的なものであった。このような状況の中で「カツオパック」の登場が削り節業界に与えた影響は、「革命的」とも言えるものであった。ここでは、その「カツオパック」を中心とした新製品開発の苦労や、消費者の嗜好(しこう)とのかかわりなどについて探ってみることにするが、その前にまず、「カツオ節」とはどのようなものなのかについて、簡単にまとめてみたい。
                
 ア カツオ節の起源とその製法(①)

 カツオ節は、だしとして広く調味に使われる日本独特の水産製品で、その風味は日本の味の根幹(こんかん)になっていると言える。
 カツオは、春から秋にかけて大量に獲れる回遊魚(かいゆうぎょ)(*4)であり、節を作るのに適した魚体をもつ。そのため、煮たり焼いたりして干すというような、さまざまな方法による「堅魚(かつお)」が、古くから各地で作られていた。そしてカツオ節は、「松魚節」、「勝男武士」などとも書かれ、祝儀の贈答用としても広く使われてきた。
 カツオ節が全国に広まったのは、戦国時代に梅干しとともに大切な兵糧(ひょうろう)(戦時における兵士の食料)となり、また旅行者の道中必携食(どうちゅうひっけいしょく)ともなったからと考えられる。
 作り方は、新鮮なカツオを3枚におろし、大形のもの(3kg以上)はさらに背と腹に分け(*5)、約1時間煮た後、洗ってせいろ(くん蒸器)に並べ、薪(まき)でいぶす。一晩おいて水分の浸出したものを翌日再びいぶし、これを十数回くり返して十分に乾燥させたものが荒節である(口絵参照)。
 これを1、2日間、天日に干した後、箱に密閉して約2週間放置すると、節全体がカビにおおわれる。このカビを一番カビといい、この表面のカビを払い落とし、再びカビを発生させる。これが二番カビ。というように、カビつけから天日干しの作業を4、5回くり返して熟成させ、本枯節(ほんかれぶし)が出来上がる。この本枯節を原料として作られるのが、「カツオパック」である。

 イ 削りたての風味を生かす

 以下、「カツオパック」の誕生にかかわる話や削り節の将来像を、現在、企業の第一線で活躍している**さん、**さん、**さんに話をうかがった。

 (ア)「カツオパック」の誕生

 「『カツオパック』がどうして開発できたかといいますと、カツオ節は、東京など関東方面でよく使われるんですが、従来は各家庭で手で削っていたわけで、なかなか面倒なものだったんです。それで、もっと簡単で便利な方法はないか、ということで昭和44年(1969年)に、関東地方の業者が手始めに『パック』をやりだしたんですが、これが好評で、大々的な生産へと拡大していったんです。
 『カツオパック』の開発において、『革命的』とも言えることは、包装用材、つまりパックの袋ですが、これに通気性のないものができたことなんです。どういうことかと言いますと、削り節というのは表面積が広いでしょう。ということは、それだけ空気に当たる面積が広いということですから、酸化しやすいんです。つまり時間がたてばたつほど、削りたての香りやうま味がどんどんと失われていくわけです。『花かつお』の削りたてのピンク色などは、もう2、3時間もすればさめてくるわけです。だから、大きな袋にはいった『花かつお』というのは以前からあったんですが、やはり『花かつお』の風味とか味とかにこだわる人は、面倒でも必要なたびごとに、その都度、節を削っておったんです。この酸化を防止するためには、袋の中の酸素を窒素に入れ替えればいいことは分がっておったんです。でも、普通の袋だと通気性がありますからこれができません。そこで、どうしても通気性のない袋が必要となってくるわけで、通気性のない材質を主とした包装用材ができたこと、これが『カツオパック』作りには、不可欠だったんです。
 『パック』一袋の容量は、5gぐらいが適当だろうということになったんですが、この5gの包装をするのは大変なんです。はじめは一袋一袋『花かつお』を手で入れて計量して、そしてそのあと袋の中の酸素を窒素に入れ替えていました。それには『チャンバー』という機械を使いました。機械に10袋ぐらいを並べてふたをします。そして、真空ポンプで機械の中の空気を完全に抜いてしまい、その後、窒素を送り込むと同時に袋の口を閉じるんです。これで酸素と窒素の置換(ちかん)の出来上がりなんです。でも、こんな手間のかかることでは生産の数量が間に合わない。そこで次には、『チャンバー』の部分をベルトコンベアー式にして、1回に30袋ぐらいの処理ができる。その間に、手前で次の30袋を手で並べておいてベルトコンベアーで『チャンバー』に送っていくやり方に変わりました。その後、さらに袋詰めの計量の段階から酸素と窒素の置換までを一貫してできないか、ということになったんです。包装機械メーカーと何度も何度も検討・協議して、失敗を繰(く)り返しながら数か月かかってその工程が完成しました。この段階に至るまでに3年ぐらいはかかったでしょうか。これ以後、製品の量産ができるようになりました。これが昭和47年(1972年)ごろのことで、現在に至っています。
 『カツオパック』の最近の傾向としては、一袋の容量が5gから3gになって、今は3gの方がよく売れます。5gのパックも作ってはいますが、3gの方が比率が高いです。
 平成2、3年ぐらいからは3gの需要が多いですね。5gも3gも袋の大きさはいっしょなんです。ですから、そのままで袋にいれると、3gの方が量的に少ないですから見劣りしますね。袋の大きさは変えずに容量を3gにするのにどういう工夫をしたかというと、『花』(削ったもののこと)の厚さを薄くするんです。約20~30μm(1μm=0.001mm)の厚さでしょうか。そうしたら体積は増えるでしょう。見た目でも5gのパックよりも3gのパックの方が量的に多く見えます。ボリューム感がでるんですね。
 5gから3gに変わっていったのは、3gの方が安いということと、使いきりのよさじゃないでしょうか。家族も核家族化し、一世帯あたりの人数も少なくなってきておりますので、5gより3gの需要が多くなるというのは時代の流れから考えたらうなずけることと思います。」

 (イ)「カツオパック」の反響

 「『カツオパック』は、売り出したら消費者の評判はよかったですよ。大阪や東京のデパートの売場に行列ができるほどでした。会社の生産部と営業部がもめるぐらいでしたよ。営業部からは、『注文しても商品が来ないが、いつ来るんぞ。』とか、『お客さんが来とん(来ている)のに、こんなぜいたくな商売はなかろが、品物をきらしてどうするんや。』言うてね。怒られるいうたらそれだけでした。いくら作っても間に合わないんですから。まだ袋を手で並べて機械に送りよった時分は、毎日徹夜です。徹夜せんと間に合わん。そのうちに、一貫生産の機械ができて、これ以後人間の手が必要でない、つまり無人で作れるようになった。この時は、うれしかったですよ。
 『カツオパック』の登場によって、従来のカツオ節がほとんどその姿を消してしまったんじゃないですか。『カツオパック』は、消費者の、『香りのいい、味のよい、削りたての花かつおが食べたい。でも、カツオ節を削るのは面倒。どうにかならないか。』というニーズとまさにうまくマッチした商品と言えると思いますよ。カツオの削り節の方がイワシよりも、削りたての香りが断然にいいんですよ。しかし、カツオの削り節の方がイワシよりも酸化しやすい、つまり香りやうま味がなくなりやすいんです。イワシよりも格段にいい香りやうま味でありながら、それがイワシよりも早く失われてしまう。ここにこそ、カツオの削り節の、高級品としての値打ちがあり、消費者が『削りたての花かつお』を求めた理由、それと『カツオパック』が消費者に大歓迎されたわけがあるんじゃないですか。
 時代が移り変わるとともに、食生活もいろいろと変化してきていますけれども、和食の基本の味、日本の味として、やはりカツオの削り節はあると思うんですね。それを家庭に広めた、伝統の和食の味を守るというところに、〝『カツオパック』新発売〟の意味があったんじゃないでしょうか。」

 ウ 削り節の将来

 **さん、**さん、**さんの話を続ける。
 「商品に対する消費者の声はこちらへ全部入ってきますし、わたしたちはこれを非常に重視しています。どういうふうに消費者の反応が返ってくるかといいますと、例えばうま味の量が多くなった商品については、『今までだしをとるのに30gの花かつおを入れていたのが、20gですむ。』とかね。『同じ量を使ったら、うま味が増しておいしくなった。』とかね。『直接食べてもおいしい。』そういう評価が、消費者から直接手紙で来たり、電話で来たり、また営業段階の得意先の声としても入ってきます。
 『カツオパック』の登場によって生産が拡大してきた削り節も、ギフト商品やブライダル商品などの新商品の開発や自然食品ブームで、一時生産は盛り返しはしましたが、『カツオパック』が登場した時のような生産の拡大というのは、もうあまり期待できないのではないでしょうか。その原因の一つには、日本人の食生活の洋風化があると思いますね。
 これからも、削り節の日本での消費量は横ばいじゃないかと思いますよ。この最近7、8年間は、国内の消費量は伸びてないんじゃないでしょうか。爆発的な伝統食品ブームでも起これば話は別ですけども、それもちょっと考えにくいでしょうね。一般家庭において、毎日の料理の中で削り節でだしをとる人は、そうはおらんと思います。さすがに12月は、お節料理や贈答用などのために購入数量は増えていますけどね。少しは輸出をしていますが、海外に住んでいる日本人が使用するだけですから。外国人はまず使用しません。中国でもだめで、台湾でもだめなようです。その中でもアメリカへの輸出は比較的多いのですが、それは日系人が多いからでしょう。おそらく削り節という食品は、それが誕生してからの年月の間に、日本人の嗜好(しこう)に合うように作られ続けている、いわゆる『日本の伝統食品』だからじゃないでしょうか。こういう状況の中でやっていかないといけないわけですから、新商品の開発はどうしても必要になってくると思います。今までとは違った観点、セールスポイントを持つことが大切になってきていると思います。」


*4:カツオは、各大洋の表面水温がほぼ20℃以上の熱帯から温帯(およそ北緯45度から南緯40度)の海域に広く分布する。
  熱帯、亜熱帯の海域にはカツオは一年中生息するが、日本近海のような温帯地域には季節的に回遊する。日本近海には2月
  下旬に九州南方海域に出現し、一部は対馬暖流に乗り九州西方に行くが、主力は黒潮に乗って日本の太平洋岸を北上する。
  この群れは、3月下旬に四国へ、5月から6月には伊豆や房総沖に達する。さらに三陸沖へ移動して、10月ころに南下し
  始め、11月ころには日本近海から姿を消す。
*5:3枚におろした後の左右両側の身から作った節を亀節(かめぶし)、また、おろした身の背肉から作る節を雄節(おぶし)
  (または背節(せぶし))、腹肉から作る節を雌節(めぶし)(または腹節(はらぶし))と言う。この雄節・雌節は、亀節に対
  して本節(ほんぶし)と言われる。