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愛媛県史 地誌Ⅰ(総論)(昭和58年3月31日発行)

一 愛媛の気候概観

 日本の気候

 日本列島は中緯度にあり、地球上最大の大陸であるユーラシア大陸を西に、最大の海洋である太平洋を東に配した大陸東岸に位置している。このため冬は寒冷な大陸性寒帯気団に支配され、緯度のわりにはかなり寒冷な気候となり、一方夏は海洋性熱帯気団に支配されるので、熱帯なみの高温多湿の気候となる。その結果、寒暑の差が大きく年較差は二〇度Cにもなり大陸西岸の一〇度Cと比べると、きわめて大きい。このように季節によって大きく風系が交代する気候を季節風気候といい、季節風の交代期には梅雨・秋雨などの雨期があり、季節変化に富み天気は変わりやすい。そのうえ夏から秋にかけては台風が襲来する。また日本列島をとり囲む黒潮・対馬海流は気団の変質を促す。さらに地形が複雑で起伏が大きいので、気候は小規模な分布をし、地域性が大きい。
 愛媛県は西南日本にあり、北部は燧灘・伊予灘の瀬戸内海に面し、南部は宇和海に面し気候は海洋的性格をもつ。一方、四国山地は二〇〇〇m近い高度で東西方向に走り、瀬戸内海型気候と南海型気候に区分している。表2―3に日本列島に影響を与えるおもな気団を示す。四季おりおりにさまざまな気団が日本列島をおおい、一層多様な変化に富んだ気候となる。

 瀬戸内海型気候

 瀬戸内海は北部に中国山地、南部に四国山地、東西にはそれぞれ本州・九州があり、周囲が山地や陸地に囲まれているので、夏冬の季節風に対し常に風下側にあたり西南日本でも独特の瀬戸内式気候を形成する。中国山地は四国山地に比較して高度が低く、低平な高原状の山地である。一方の四国山地は、瀬戸内海から中央構造線に沿う大断層崖によって急激に高度をまし、南側は壮年期の谷や断層があり起伏は大きいが、一般に傾斜はゆるやかである。北斜面が急峻で南斜面が緩斜面であるのは、愛媛県の瀬戸内海側全域にあてはまる。
 図2―18は日本海側の松江市から瀬戸内海を横切り、太平洋側の高知県須崎市に至る地形断面と、一月および八月の月平均降水量を示した。冬には北西季節風の風上側である日本海側で降水が最も多く、一五〇から二五〇㎜に達するが、瀬戸内海では五〇㎜内外で日本海側の三分の一から五分の一にすぎない。中国地方の山地は高度が低く高原状であることから吹き越し現象となり、多降水域は山脈の尾根から風下側にややはみだし、雲は風下側にまで広がる。冬期降水の極大値がわずかではあるが背稜山地の南側にのびている。また松山などの瀬戸内海地域で初冬の頃冬型気圧配置の強い日には、北から積雲系の雲が次々に南下して、時に冷たい雨や雪を間欠的に降らせるいわゆる「しぐれ現象」がよく見られ、山陰地方の冬の天気と似た変わりやすい天気になる。
 瀬戸内海を吹送してきた北西風は四国山地で再び地形性上昇をおこし降水量を増し七〇㎜から八〇㎜になる。東予の四国山地の風上側より中予の方が冬の降水が多く、久万では一〇〇㎜に達する。これは季節風の海上吹送距離が後者でより長く、西よりの季節風の場合には、周防灘や伊予灘からより多くの水分供給をうけた東予とは異なる季節風が、四国山地にぶつかるからである。さらに四国山地の太平洋側斜面における降水は、おもに冬から春にかけてよく発生する南岸低気圧によるもので、一月よりも。二月・三月により多くの雨または雪をもたらす。
 一方、夏の降水量の分布は冬のそれ以上に対照的な差異を示している。四国山脈がニ〇〇〇m近くの高度で夏の南東季節風の風上斜面となり、五〇〇㎜以上の降水量があるのに対して、風下側の瀬戸内海では一〇〇㎜前後で、前者のわずか五分の一程度である。このように見ると前線、低気圧、台風などの原因による降水でも地形の制約を大きくうけていることがわかる。さらに日本海側や四国山地の瀬戸内海側斜面での降水の多くは、夏に現れる北高型気圧配置の際の降水も含まれている。つまり北高南低型気圧配置は一般に西南日本に悪天候をもたらすが、頻度は少ないとはいえ冬の降水ににた分布がみられる。なお四国東部の八月の降水分布ではさらに夏の季節風による風上の多雨、風下の少雨現象が顕著で、四国の南東部では月平均降水量が六〇〇㎜に達する。
 このような夏冬の降水分布に対する地形の影響は他の気候要素にもおよぶ。とくに瀬戸内海では一般に風がよわく、沿岸部では海陸風が発達し海岸線にほぼ直角な風が吹くのに対し、内海中央部では瀬戸内海の形に応じた東西風が多い。このように風がよわく、内海で水分の供給が多いので霧がよく発生する。この霧は瀬戸内海の水温がまだ低い春から初夏にかけよく発現し、南から移流してきた暖湿気塊が瀬戸内海域に滞留し、低海水温で下層から冷却されて発生する移流霧を主な発生原因とした霧である。瀬戸内海の年間の平均霧日数は海上ではおよそ二〇日から三〇日で、とくに鳴門海峡から淡路島の海域に多く、ついで燧灘・伊予灘に多い。霧については後節で詳述する。
 季節風の風下側にあたり降水量が少ないことは晴天が多く、日照時間が多いことを意味する。年間の日照時間は二二〇〇時間から二三〇〇時間に達し、わが国では最も多照の気候で、この多照気候を利用した製塩業をはじめ、造船工業、柑橘栽培などの産業がさかんで、最近では太陽エネルギー開発も進められている(写真2-36)。

 南海型気候

 四国山地の南斜面、太平洋側の気候は瀬戸内海のおだやかな気候とは異なる。梅雨期には熱帯なみの激しくつよい雨が降り、台風期には太平洋からの強力な暴風の上陸地にあたるので、四国山地の南側は全国でも豪雨の最も多い地方の一つである。従来の雨量観測資料から大雨の規準とされる日降水量三〇〇㎜の再現期間(何年に一回三〇〇㎜の降水量があるか)を計算してみると、瀬戸内気候地域では一〇〇年以上である、南四国では二〇年から三〇年で、仁淀川・四万十川の上流では二年~五年である。つまり数年に一回は日降水量三〇〇㎜をこえる豪雨があることを意味する。
 冬の季節風も南予や四国山地により多くの雪や寒冷な気候をもたらすことは前にのべた。県内の南部では山地や谷が複雑に入りくみ、起伏が大きいので気候環境も瀬戸内側に比較しよりきびしい。しかし、豪雨や降雪も水資源としては重要で、恒常的に水不足である瀬戸内海沿岸地域にとっては貴重な水資源供給地である。

表2-3 日本列島に影響を与える気団

表2-3 日本列島に影響を与える気団


図2-18 島根県松江市-愛媛県今治市-高知県須崎市を通る南北断面に沿う1月と8月の月平均降水量(深石原図)

図2-18 島根県松江市-愛媛県今治市-高知県須崎市を通る南北断面に沿う1月と8月の月平均降水量(深石原図)