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愛媛県史 地誌Ⅰ(総論)(昭和58年3月31日発行)

1 気温

 気温の気候要素

 気温は人々の日常生活や生産活動と直接関連し、重要な気候要素の一つである。ただし暑さ寒さを示す体感気温は、湿度や風も関係する。農林業などでは気温に加え日射量・日照時間も重要な気候要素で、生育期間の積算気温が作物の収量や栽培限界をきめる要素となる。
       
 日最低気温

 日最低気温月平均分布のうち、冬の寒さの極値的性格をもつものとして一月、暑さの極値的性格をもつものとして八月の月平均気温分布をとりあげてみる。一月の分布図(図2―31)で〇度Cの等温線は、南予では海岸から内陸二〇㎞にある。ただし宇和盆地は寒冷で氷点下一・一度Cにも達する。東・中予では〇度Cの等温線は地形の影響もあり海岸線から五㎞から一〇㎞にある。この相違は冬の季節風の卓越風向と風上側の燧灘、伊予灘、宇和海の海水温、南北の日射量の差などにもとめられよう。岬、半島、島し上部は、海上からの移流と季節風が強いので放射冷却の影響がよわく、二度C内外であるが、南予海岸では二・五度C以上に達し、無霜地帯となっている。南予の盆地では氷点下一度C内外、久万盆地では氷点下三度C、大野ヶ原(一二九五m)では氷点下五・五度C、石鎚山(一九五八m)では氷点下一〇・三度Cで、一〇〇〇m以上の山地では氷点下五度Cから一〇度Cに達する。一般にシベリア気団の卓越する冬には気温低減率が大きく、平地と山地との気温差は大きくなるが、県内の冬の気温分布もこの特徴を示している。
 日最低気温の最寒月は東・中予の瀬戸内海沿岸では二月に現れ、その他の地域では一月であるのは興味深い。とくに南予南部では二月の気温上昇が大きく、御荘では〇・五度Cにもなる。二月になると日が長くなり日射量も増えるが、低緯度ほどいちじるしい。さらに相対的に高温な宇和海からの移流が南予ではあり、東・中予では北向き斜面が多く、海水温や北西季節風の吹送距離が関連している。高縄半島北部や佐田岬半島では三度Cから五度Cで最も高温になっているが、これは強風のため夜間の放射冷却による気温低下がさまたげられるためで、体感気候からみるとかならずしも温暖な気候とはいえない。
 次に暑さの指標として八月の日最低気温分布をみてみよう。海岸地帯は全体にわたって二三度C前後であるが、伊予灘沿岸がやや低く、燧灘沿岸が二四度Cに達しやや高い。日最低気温か二五度C以上になると熱帯夜という。年間の熱帯夜は松山では六・五日、宇和島では四・八日だが、東予の海岸地帯では一〇日から一五日になる。前項で指摘したように日最低気温には都市の影響が大きく加わり、東・中予海岸地帯では都市による高温化がある。半島、島しょ部でも越智諸島では二三度C以上で、忽那諸島や佐田岬半島ではやや低く二二であるが、熱帯夜は二日から三日である。
 内陸盆地では海岸よりやや低温で、夜間の放射冷却の影響がすでに現れている。盆地の日最低気温は海岸より次第に低くなり、一〇月・一一月には二度Cから三度Cに達し盆地霧の発生の原因となる。久万盆地では二〇度C以下、大野ヶ原一五・五度、石鎚山一三・三度で、冬に比較すると平地との気温差は小さく、夏の気温低減率が小さいことを示している。東・中予の都市から二〇㎞たらずのわずかな距離のなかに、こうした冷涼な気候があることは、将来保養地などの開発が期待され、気候資源の一つである。
       
 日最高気温

 ここでも寒さ・暑さの指標として一月と八月の日最高気温月平均をみてみよう。一月の日最高気温が一〇度C以上になるのは佐田岬半島と南予海岸地帯で、東・中予九度C、内陸盆地八度C、久万盆地六度C、大野ヶ原三・三度C、石鎚山氷点下二・九度Cで、最低気温の場合と同様に高度による気温差が大きい。二月の各地の気温上昇量をみると、東・中予では約〇・六度Cであるが、南予では大きく宇和島、岩松一・三度C、松野一・七度Cなどの上昇である。
 八月の日最高気温分布(図2ー32)の高温域は、南予内陸盆地と東予海岸地帯はいずれも三二度以上に達し、冬の分布パターンと全く反対になる。とくに内陸盆地の高温域は等温線が閉曲線となって現れ、四月から一〇月までの暖候期全体に認められる。この現象は盆地気候による日最高気温の上昇と、海岸地帯では海風による日最高気温の頭打ちによって説明される。なお一一月・一二月には盆地に発生する盆地霧または低い層雲により日射がさえぎられ、盆地での気温上昇が少ない。東予海岸地帯の高温は松山と同様に都市気候がその原因であるが、夏の最高気温の起時には都市気候の影響は比較的小さい。

 年平均気温 

 図2ー33に年平均気温分布を示す。年平均気温は最も基本的な気候指数の一つである。最も高い地域は南予海岸地帯で一六・五度C以上、ついで東・中予海岸が約一六度Cでやや東予海岸が高い。島しよ、半島は一五度Cから一六度Cで海岸から一〇㎞から二〇㎞離れた内陸や盆地とほぼ同じ気温である。ただし宇和・野村盆地は標高が高いため一五度C以下になる。標高が五〇〇m以上になると、一二度Cから一四度C、一〇〇〇m以上では五度Cから一〇度Cになる。

図2-31 1月の日最低気温分布図(度C)

図2-31 1月の日最低気温分布図(度C)


図2-32 8月の日最高気温分布図(度C)

図2-32 8月の日最高気温分布図(度C)


図2-33 年平均気温分布図(度C)

図2-33 年平均気温分布図(度C)