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愛媛県史 地誌Ⅰ(総論)(昭和58年3月31日発行)

三 気象災害のいろいろ

 気象災害の種類をみると、県内に発生するそれは多岐にわたっているが、程度の差こそあれここにあげたすべての災害をみることができる(表2―8)。県内で頻発する主要な気象災害について、その発生時の気象条件や被害状況、被害の地域性などについてみてみよう。   

 水害

 大雨や強雨によって生じる災害を水害という。水害は梅雨や台風期に最も多い。水害は県内の気象災害のうちで最も大きな被害をもたらし、その型態から洪水・浸水・湛水などの害や土石流・山崩れ・がけ崩れなどに区分できる。
 最近一〇年間の二四時間降水量の極値一〇位までを、松山市と宇和島市についてみる(表2―9)。月別にみると、松山市は六月、宇和島市では八月に大雨が多い。また、昭和五四年と五五年には大雨が多かった。このように大雨は局地性が大きく、年による変動も大きい。最も多い日降水量は台風期に多いが、伊予灘・斎灘沿岸では梅雨期に多い。
 県内での水害発生時の日降水量をみると、七〇㎜が一つの境界となっていて、県内のどこかで七〇㎜をこえる大雨があると水害の発生をみる。また地域的にみると、八幡浜・大洲・久万の各警察署管内を結ぶ線上に多い。この水害多発地帯は、壮年期地形で起伏が大きい四国山地南斜面の多雨域を流域にもつことが関係している。もちろん水害には大雨以前の土壌水分、潮汐・波浪など他の要素も関連し、土地利用・河川工作物・河川の改修などの土地改変が災害発生や規模に関係していることはいうまでもない。
        
 雪害・低温害

 雪害は、前掲表2―8にあげた災害のうち、県内でよく発生するのは電線着雪害・積雪害・海や陸上の視程不良による交通まひ、低温と重なり植物凍害による柑橘類の被害、林業被害などにわけられる。
 県内の積雪地域は四国山地以南から高知県境、宇和島市を結ぶ地域で、久万地方や大洲盆地、肱川上流域にとくに多く、冬型の北西季節風が強まった時に降雪があり、雪害が頻発する。そのほか晩冬から早春にかけてよくあるニッ玉低気圧・南岸低気圧による降雪による雪害があり、前者に比べて広域におよぶ。春の大雪は南からの湿った気塊が低気圧に吹き込み、気温条件がみたされたとき大雪になるもので、季節風時の降雪に比べて水分が多く、湿性の雪で重い。このためビニールハウスや樹木の折損などの農業関係の被害や交通機関・通信施設・送電線の着雪などの被害が各地で発生する。
 冬型気圧配置が持続し強い寒気の南下があると、大雪とならんで異常低温が記録され、低温害が発生する。最近では昭和五二年二月一五日から一六日と五六年二月二五日から二八日にそれぞれ異常低温災害が発生した。この例では各地で水道管凍結破裂による断水、晩柑類などの凍害、さらには路面凍結による交通事故まで発生し、このような異常低温やその対応になれていないために被害が大きくなる。
 とくに五六年の低温害の発生時には丹原町で永点下七・七度C、西条市で同五・九度C、今治市で同六・五度Cなど東予の風のよわい地域でこれまでにない最低気温を記録し、晩柑類に大きな被害をもたらした。
    
 風害

 風害は気象災害のなかで最も一般的で、そのうえ頻発する災害である。図2―62にも示したように県内でも風害は四季を通じて多く、地域的にも偏ることなく風害が生じている。風害は風圧による強風害と、強風が間接的に作用し発生する災害、たとえば塩害・火災・乾風害・風食・波浪などに分けられる。県内でもやまじ風で知られる宇摩地方、肱川あらしの長浜町、その他半島や島しょでは、北西季節風の吹きだしのときや台風の接近したときに強風域が現れる。これらの地域では建造物の破損をはじめ倒壊、車両の転覆や暴走、運転不能、送電線の切断、農作物の折損や倒伏、果樹の落果、海上では船舶の流失をはじめ転覆・沈没、破損などの被害が発生する。また海上からの強風は塩風害を起こし、農作物や森林、電力施設などに損傷を与える。
 日最大瞬間最大風速の極値を松山市と宇和島市についてみてみよう(表2―10)。強風の現われる時期は台風期が圧倒的に多いが、松山市では二・三月の低気圧による強風がある。また強風の風向は松山市では春先を除けば南から東よりの風が多いのに対し、宇和島市では北寄りの強風が少ない。このように強風は地形の影響をうけやすく局地性が強く現われ、地域の人々によって語りつがれている場合が多い。中予地域の山村で台風時に強風が吹くのは、一に古床(美川村)、二に長瀬(同)、三に土泥(面河村)などと言い伝えている。これらの集落を地形図でみると、南側に谷が開け、南からの強風が入りやすい条件にある。
 島しょや半島では冬の北西季節風をさけて、港がつくられている。それは船舶の波浪災害が寒侯斯に比較的多く、冬の海は荒れやすいことによる。高潮は強風による吹きよせ効果が大きいので、天潮、低圧による海面の上昇と重なると大災害の原因ともなるが、台風にともなって発生する場合が多い。季節による局地的強風のある地域では、強風に対する対応がなされ、宇摩地方では鉄筋構造の建物が多く、半島の強風域では平屋に防風石垣を設けているところが多い(写真2―63)。
          
 雷害とひょう害

 雷は積乱雲(または雷雲)にともなって発生し、積乱雲は日射による地表面の加熱、あるいは前線や上空への寒気の移流などによってひきおこされる不安定な大気中にできる。雷雲の活動は雷鳴・電光・落雷・強雨・降ひょう・突風などを発生させ雷害をもたらす。県内での雷害は梅雨末期から盛夏にかけて多発し、発生原因でいえば界雷・熱雷に分類できる。県下のおもな雷害は落雷害とひょう害である。落雷は積乱雲からの放電で、その対象物である人間や家畜の死傷、建造物の損壊や焼失、電力施設の損壊と停電、交通通信などの妨害をひきおこす。
 降ひょうは雷雨にともなうことが多く、積乱雲の上昇流で氷晶から氷あられ、氷塊に成長した場合に生じ、五・六月の初夏に多発する(図2―63)。昭和五五年六月二八日に大洲・野村地方に降ったひょうは、直径七~八㎝のこぶし大の、かつて県内で観測されたことのない巨大なもので、水稲・野菜・栗・桑・たばこなどが全滅し、被害金額は一億円に達した。寒冷前線の通過で大気が不安定になっていた時のひょうで、短時間の局地的な現象であった。
    
 霧害

 霧は視程不良が原因で発生する交通障害や事故、山岳遭難などをひきおこす。視程不良は霧のほか雨・雪・煙霧・風じんなどによっても生じ、陸上で視程一〇〇m以下、海上で五〇〇m以下になると障害が発生するので、陸上・海上の濃霧注意報もこの基準による(図2―63)。
 瀬戸内海は海上交通が過密で複雑に変化する潮流があり、そのうえ視程不良ともなると船舶の衝突接触、座礁などの海難事故やフェリーや水中翼船などの欠航、航空機の離着陸不能などの霧災害がおこる。霧害発生時期は春から増えはじめ梅雨期に最高になり、瀬戸内海の海水温が上昇する八月以降は少ない。瀬戸内海ではでは暖湿な気流が冷海水面で冷やされて発生する移流霧、夜間の放射冷却による放射霧が多い。この種の霧は局地的で継続時間も短く、日中の昇温で消散する。しかし停滞前線にともなって発生する前線霧は厚く長時間にわたり、時に大雨や突風の悪天と重なるので、大きな被害が発生しやすい。この前線霧は梅雨期に多い。霧はまた大気汚染と結びつき、酸性雨などになりやすい。  

 霜害

 夜間の放射冷却で地表付近の気温が低下し、地表面で降霜することにより農作物の細胞が凍死して生ずる被害を霜害という゜県内では四月から五月にかけて発生する晩霜害が多い。晩春近くになると日中の気温はかなり上昇し、新緑の季節となる。この頃移動性高気圧におおわれ風がよわく晴天で低温になると、夜間の放射冷却で降霜がおこる。昭和五五年五月二日はこのような状態で県内の山沿い地方に霜害が発生し、桑・たばこ・茶などが被害をうけ、被害金額は一億五〇〇〇万円にのぼった。この時の久万町の日最低気温は氷点下〇・六度Cであった。近隣の観測地で最低気温が四度C以下になると霜の危険がある。霜は接地層の現象なので〇度C以上でも発生する。
 霜は局地性が大きく、「霜穴」とか「霜道」といわれる所は冷気のたまり場や通り道で霜害をうけやすい。また斜面の中腹や水辺、風の強いところなどは霜害をうけにくい。表2―11に県内各地の霜の初終日を示す。

 異常乾燥害・干害

 相対湿度がいちじるしく低下した状態が続くと異常乾燥といい、火災や植物の枯死、呼吸器疾患の急増などの異常乾燥害となる・県内の異常乾燥害の大部分は火災であって、瀬戸内海気候の特色から四季を通じて現われているが、春の異常乾燥害が最も被害が大きい。数日前からの湿度に経過日数による重みをつけ湿度の積算値を算出できる。この値を実効湿度といい、木材の乾燥の度合いを示し、火災発生の危険を示す重要な指標の一つである。
 春に雨が少なく帯状高気圧などで乾燥した日が続くと、実効湿度は低くなり火災が多発し、山林火災などは広くひろがる。昭和五三年四月八日から一一日には帯状高気圧による異常乾燥があり、新居浜市や西条市で二件の大規模な山林火災が発生し、焼失面積は八〇〇ha、被害額一億六〇〇〇万円におよんだ。図2―64に県内の火災件数を月別に示した。春は異常乾燥と強風が火災発生を多くしている。
 空梅雨または入梅がおそかったり、出梅が早かったりして、梅雨時の降水が少ないと干害になる。最近では昭和四八年と五三年の七・八月が少雨で、東予や南予地域での農作物の干害や島しょでの給水制限などがあった。いずれの場合も北太平洋高気圧のはりだしが強く高温少雨が続き、降水量は平年の二分の一以下であった。後者の場合、果樹園被害一万ha、二七億円をはじめ、農業被害一・二万ha、三二億円、水道被害は最もひどいときで一六市町村におよび七二施設と、その給水人口四・六万人に達した。被害の中心は佐田岬半島、瀬戸内海と宇和海の島しょであった。ダム建設、用水路の整備などで干害は最近減少しているが、半島平島しょでは依然として水不足は深刻である。

 光化学スモッグ

 県内には大都市や大工業都市がないので、大気汚染害は少ない。しかし東予地域の北部では、東西約六五㎞におよぶ海岸線で瀬戸内海に接し、南は海抜高度一五〇〇m以上の法皇山脈に囲まれた細長い平野とっていることから、ときにオキシダントが高濃度になる。オキシダントとは、高温燃焼にともない発生する窒素酸化物と炭化水素に紫外線が光化学反応をおこしてできるオゾン・アルデヒド類・PANなどの酸化力の強い総酸化物の総称で、光化学スモッグの元凶である。その発生原因は日射が強いこと、風がよわく海陸風などの局地的収束が存在すること、気温が高いことなどで、東予では典型的な瀬戸内気候であるからオキシダント濃度が高くなる。オキシダントの環境基準は一時間値が〇・〇六ppm以下であるが、濃度が〇・〇八〇ppmが三時間以上あった日を高濃度日とし、過去五年間の経年変化を示しだのが図2―65である。東予市を除く四市では、この五年間に高濃度汚染日が二分の一から三分の一に減少している(写真2―64)。
 その他の大気汚染物質についてみてみよう。二酸化イオウは各観測地(県内三五地点)で減少し年平均値で一〇ppmから一五ppmで、東予地域でも昭和五二年度以降環境基準適合となっている。窒素酸化物は燃焼によって発生する。東予の各都市では〇・一六ppmから〇・三七ppmで基準には適合しているが、経年変化では横ばいか微増傾向で、大気汚染の中心はNOXの時代になったことを示している。一酸化炭素・浮遊粉じん・降下げいじんなどの汚染物質も測定しているが、いずれも微量である。浮遊粉じんは東予の一部で基準適合でない測定地点がある。

表2-8 気象災害の種類

表2-8 気象災害の種類


表2-9 松山市と宇和島市の24時間降水の極値(1971~1980)

表2-9 松山市と宇和島市の24時間降水の極値(1971~1980)


表2-10 松山市と宇和島市の日最大瞬間最大風速の極値(1937~1939)

表2-10 松山市と宇和島市の日最大瞬間最大風速の極値(1937~1939)


表2-11 愛媛県内の霜の初終日(月/日)

表2-11 愛媛県内の霜の初終日(月/日)


図2-64 愛媛県内火災件数(昭和51~56年平均)と相対湿度

図2-64 愛媛県内火災件数(昭和51~56年平均)と相対湿度


図2-65 東予地域の高濃度日出現日数(4~9月)

図2-65 東予地域の高濃度日出現日数(4~9月)