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愛媛県史 地誌Ⅰ(総論)(昭和58年3月31日発行)

2 需要の変化

 需要の急増

 経済の高度成長をとげつつあった時期の昭和四〇年度の愛媛県内のエネルギー需要の総計は、約一七・七兆キロcal(石油換算約一八八万キロリットル)であったといわれる。それは全国の需要総計の約一・二%に相当していた。四五年度になると約三八・一兆キロcalへと四〇年度に比べて二・二倍にもなった。これは、県内における工業発展がエネルギー需要を急増させた結果であった。しかし、その後のエネルギー危機による石油供給の減少と価額の高騰によって、県内の産業用をはじめ民生用などの需要の減退から、五〇年度では、約四四兆キロcalと四五年度に比ベ一・一五倍にとどまった。その後の五年間の増加は一・二倍で、産業の景気回復が充分でないこともあって、エネルギー需要もわずかな増加をみせたにすぎない。

 電力需要の増加

 紙の消費量は「文化のバロメーター」といわれるが、エネルギー消費量の増加は、さしずめ「近代化のバロメーター」といえよう。県内の需要増加は、工業における基幹資源型の素材生産をはじめ重化学工業の発達が拍車をかけ、これらはエネルギー多消費型の工業化でもあった。「電気の缶詰」といわれるアルミナの生産は新居浜市の住友金属工業が有名であったし、また、石油製品需要でも農業における畜舎や養蚕の加温用、ハウス栽培でのA重油の増加、漁船の高速化でも同じくA重油の需要増加が著しかった。家庭用では、電化生活の普及による電力需要と暖房や厨房に灯油をはじめ液化天然ガス使用が増加し、自家用車の急速な普及もガソリン消費に拍車をかけることとなった。
 このようなエネルギー需要の増加を供給源の種別からみると、たしかに愛媛県は、石油を主に電力を従とした「石主電従」の単純な構成になっているが、電力の占める割合がしだいに増加してきたことが注目される。
 すなわち、昭和四〇年度では、電力の占める割合が三分の一程度であったのに、五〇年度は四〇%、五五年度には四二%へと少しずつ増加をしてきた。これに対して石油製品の割合は漸滅傾向にある。とくに石油製品では、ガソリンの割合が低下して、最近の五二年度から五五年度の間をみても一九・八%から一五・四%へと減少を示している。そのほかの石油製品の割合は余り変化がないのに、ガソリンの減少は鉱工業や運輸における省エネルギー化が浸透してきたものとみてよい。

 需要の地域的特性

 県内のエネルギー需要の地域構成では、需要総計の六三%を占める鉱工業が、東予地域と中予地域に偏って立地しているため、これら二つの地域が主たる需要地域であることは容易に想像できる。
同じく運輸用の需要も産業活動が活発で、人口が多く自家用車の多い中予や東予地域が主となっている。
 これらに対して、地域特性をよりいっそう示す需要部門としての第一次産業および民生用について、その現状をみてみよう。
 昭和五五年度には、農畜産と水産部門は総計の四・六%、民生用は家庭・業務を合わせて二二%を占めていた。この両部門の需要を愛媛県が策定した六つの地方生活経済圏別に、それぞれの割合についてみることとする(図5-10)。まず、農畜産部門は、一・一兆キロcalの需要のうち八幡浜・大洲圏が最も多くて三分の二を占め、ついで宇和島と松山の両圏域がそれぞれ二〇%以上を占め、これら南予と中予地域が県内の八四%と圧倒的に多い。これは、この地域が、農業粗生産額でも七二%を占める農業地域であることと対応している。しかし、エネルギー需要の内訳では、県内全体でハウス栽培が四〇%と最も多く、ついで畜舎や養蚕用の加温が同じく二八%占めていることからすると、八幡浜・大洲と宇和島の両圏では加温用が多いことが特色である。ハウス栽培用では、松山圏が約三分の一を占めて最も多く、南予の二つの圏域はそれぞれ二〇%前後で、今治圏も一六%を占めている。とくに今治圏ではハウス栽培が七〇%も占めて、県内でも最も割合が高い。新居浜や宇摩の両圏は、農業生産における地位が低く、エネルギー需要も決して多くはないが、それぞれハウス栽培用が多いことに特色がある。
 水産部門では、漁船用の軽油やA重油が需要の対象となっているが、その県内総計の四五%が宇和島圏である。ついで八幡浜・大洲圏と今治圏が多いが、この地域別の割合は水産業の盛んな地域とほぼ対応する。宇和島圏は水産業の県内純生産額の四七%を占めているが、それは水産養殖をはじめ沿岸漁業が盛んなことによっている。
 民生用では家庭用・業部用ともに松山圏が四〇%前後を占めて圧倒的に多い。家庭用は人口分布に対応しているが、業務用は飲食・サービス業(ホテル・旅館を除く)を除いた官公庁や学校・病院などの需要によっているため、これら公共サービス機能の分布と対応している。松山圏は県都松山市に機能集積が著しいことによるもので、宇和島圏が家庭用の割合に比べて業務用の割合が相対的に低いのは、公共サービス機能の集積が低位にあることを示している。

図5-10 愛媛県の地方生活経済圏域別農水産用・民生用エネルギー需要の割合(昭和55年度、%)

図5-10 愛媛県の地方生活経済圏域別農水産用・民生用エネルギー需要の割合(昭和55年度、%)