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愛媛県史 地誌Ⅰ(総論)(昭和58年3月31日発行)

1 業種とその分布

 伝統に生きる産地企業

 四国のなかで、愛媛県は工業生産が最も多く、しかも全国的に名を知られた地場産業が立地していることでも有名である。今治市のタオル生産をはじめ、伊予三島市や川之江市などに集中している紙の生産、伊予市の削りぶし、さらには砥部町の砥部焼、菊間町の菊間瓦など、その販路が全国的に広がっていて、輸出品としてもシェア(市場占有率)が高いものもある。
 地場産業には、いろいろな定義がある。産地企業とか地場工業とかの別名があるように、比較的限られた市場をもって、原材料や水利など工業立地の自然的条件の有利さと、伝統的な加工技術などによって成りたっている「地域的特産品」を生産する企業だといえる。そして多くの場合、同種の企業が集団となっていて、互いに原材料や水利、技術、販売などについての協同組織をつくっている。また、経営の規模は小さく、いわゆる中小企業(従業員二九九人以下)で、家族労働のほかに雇用者を地元に求めている。経営は独立性が強くて、資本も地元に依存し、外部資本になじむことには積極的でない。
 その生産の多くは消費財で、労働集約的な色あいが濃く、なかには農家の副業として営まれているものさえある。業種も極めて多様性にとみ、製品の販売では問屋や商社に依存しているものが多い。
 愛媛県では、県政の重要な施策の一つとして「キー産業」の振興をはかっているが、その産業とは、地域の発展に先導的役割を果たしうるものとしている。キー産業を選ぶに当たっては、(一)地域社会に密着し住民ニーズと調和すること、(二)地域の安定的な雇用と生活の向上に貢献すること、(三)地域の自立的な発展に寄与すること、(四)地域経済に対する波及効果が高いこと、(五)環境に対する負荷が低いこと、などが基準となっている。このような産業は、地域の風土環境を発展の基礎としてきたもので、地場産業のもっている経営上の特色を指摘したことにもなる。つまり、地場産業とは、その経営と企業の社会性が著しく地域と密着したもので、適地適産の特色を最も効果的に発揮してきた産業といえる。
 とくに、経済の高度成長を経て、地域の復権とか地域主義による経済社会の発展が叫ばれている今日、地場産業の発展は新しい意義をもつに至った。その技術の伝統性は産業文化として見直されているし、また技術の革新は、地域の知的生産の水準を高めるものとしても期待されている。

 業種とその分布

 通産省が地場産業の振興を目的として、昭和五四年に制定した産地企業振興法による愛媛県内の対象業種は、今治市を中心としたタオル、同じく縫製業、新居浜市や西条市の機械器具部品である。中小企業庁による地場産業県別実態調査(五五・五六年度)では、県内の業種は、食料品をはじめ繊維、衣服その他繊維製品、家具・装備品、パルプ・紙・紙加工品、窯業・土石製品、一般機械器具、輸送用機械器具の八業種があげられている。また、愛媛県による地場産業実態調査(五五年度)では、さきの八業種のほかに鉄鋼と「その他」を加えて一〇業種としている。これらの業種は、いずれも工業統計の産業中分類によってあげられたもので、より細かく製品別にみると、削りぶし、珍味加工、かん詰、びん詰、清酒、タオル、広巾織物、伊予かすり、縫製、染色・捺染、木製家具、紙加工、機械製紙、砥部焼、瓦、石材加工、鉄工業(下請)、銑鉄鋳物、造船の一九業種となっている。このほか、伝統的工芸品としては、今治市桜井の漆器、松山市の竹工芸品、大洲市の竹細工、宇和島市の鯉のぼりなどがあり、通産省の伝統的工芸品の指定産地には、砥部焼と五十崎町の大洲和紙がある。
 地場産業の分布には、原料や水利そのほかの立地条件の特殊性によって、特定の地域にのみ企業集積をみせているものと、歴史的には特定地域に立地したことを発達の起源としてきたものの、技術の近代化や流通の変化によって立地が分散をみせてきたものとの二つがある。
 県内の主な地場産業の立地を、業界の協同組合に加入している企業数からみてみよう(図5-12)。まず、いぜんとして特定地域に集積をみせている業種に、川之江市と伊予三島市の製紙業・紙加工がある。ここには、近代的なパルプ工業も集中立地をしている。同じく東予市国安の和紙(色紙・短冊)、五十崎町の大洲和紙、松山市の伊予かすり、砥部町の砥部焼、桜井の漆器などもこの例である。
 特定地域に発達の起源をもつものの、周辺地域に立地の拡大をみせたものにタオル工業がある。三五〇近い企業が今治市に集中しているが、周辺の東予市・波方町・大西町、さらには松山市にまで二〇を超える企
業が分散している。タオル工業は、県内最大の繊維工業であって、関連業種の染色業も今治市に集中している。菊間町は菊間瓦の産地であるが、同じ瓦でも真空瓦は北条市に集まっている。宮窪町や吉海町は大島石の産地で石材業が盛んであるが、石材加工は今治市にも立地し、原産地への立地が変わりつつある。
 食品工業のなかで、酒造業は原料の水の質と量とによって県内各地に分散しているが、削りぶし製造では伊予市が全国的にも有名な産地であるものの、松山市にも企業が分散している。同じく水産練製品の代表であるかまぼこ製造業は、消費市場である松山市への立地のほかに原料の得やすい八幡浜市・宇和島市などにも集中している。珍味加工も松前町を主に八幡浜市にも立地している。
 縫製業では、例えば伝統的な八幡浜市の五反田縞の織物に起源をもち衣服生産へと発展したものがある。今治市でもタオル地による衣服生産のほか輸出縫製の集中さえみるようになった。これら縫製業のなかには、農村地域の工業化政策によって安い労働力を求めて県内各地に分散立地したものもある。新居浜市をはじめ西条市・土居町・丹原町などに多い鉄工業や鋳物生産は、新居浜市に立地している住友系重化学工業との関連や下請企業で、松山市の鉄工業には、井関農機との関連部品生産が多い。同じ例は造船業である。これは今治市や大西町・宇和島市などに立地している中型の造船所に関連して多数の船舶部品生産の企業が地域的に集中している。このほか木材加工業は、小田町や久万町・宇和町・一本松町のように林業地に立地する原料指向の産業であるが、松山市や伊予市・宇和島市などは消費地に立地したもので、とくに輸入木材の製材加工が多くなったことがこの傾向を強めている。

図5-12 愛媛県における地場産業の集積(昭和57年)

図5-12 愛媛県における地場産業の集積(昭和57年)