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愛媛県史 地誌Ⅱ(東予東部)(昭和63年2月29日発行)

四 中小鉄工業の発達

 中小鉄工業の類型

 新居浜市を中心に西条・東予の両市と周桑郡丹原町などには県下でも有数の中小鉄工業の立地がみられる。この中小鉄工業は工業統計の業種分類上、一般機械器具製造、金属製品製造業、鉄鋼業の三種を含み、従業員三〇〇人未満の地場中小企業で、ほとんど自社完成品を持たず、主として大手企業発注を受ける下請け性の強いもので、部品、付属品の生産や機械設備の据え付けや保守点検などを行う。
 県内の中小鉄工業を地域的にみると、次の五つに分類できる。

 ① 川之江・伊予三島地区の製紙機械中心の鉄工業
 ② 新居浜・西条両市とその周辺の一般機械を中心とする鉄工業
 ③ 今治市の輸送機械、繊維機械を中心とする鉄工業
 ④ 松山市の農業機械、ボイラーを中心とする鉄工業
 ⑤ 八幡浜・宇和島両市の輸送機械関連の鉄工業

この中で当地域の②は県の中心で、住友金属鉱山・住友化学・住友重機械など住友系大企業中心の工業都市として発展してきた。そしてその下請け企業として多数の中小企業が集積し、住友各社と共に成長してきたものである。

 中小鉄工業の現況と問題点

 新居浜市における中小鉄工業のこの一〇年間の推移と現況を示したのが表4-18である。統計は従業員三名以下の企業が省略してあるので実数は更に多くなる。石油危機を経て製造品出荷額こそ伸びているが、新居浜市全体の工業に占める割合は相対的に低下している。特に雇用面での低下がめだつが、なお新居浜の中での中小鉄工業のはたす役割が大きいこともまちがいない。住友各社と共に工業都市新居浜を支える一つに成長した鉄工業も、その出発点は住友との関係から出発している。住友各社で働き、技術を学び、設備を整え、いわば住友の軒下を借りて成立したものが多い。また、住友と直接かかわりのなかった中小鉄工業者の中にも、戦時体制下の物資統制令などで好むと好まざるとにかかわらず住友の下請けに入らざるをえなかったものもある。
 これら下請けの中小鉄工業は次第に業種ごとに下請け業者を系列化し、系列ごとに協同組合をつくった。その新居浜関係分を示したのが表4-19である。西条の二組合(三章三節四項「新しい工業の進出」項参照)を含めて七組合あるが、主なものは表4-19中の上段に示す三組合である。新居浜鉄工業(協)、新居浜機工(協)、新居浜工業(協)の三組合はそれぞれ住友各社を主要受注先とする同業者組合で、組合事業として金融事業、雇用保険などの代理業務、共同施設の設置、鋼材の共同購入などの共同事業や、共同受注、共同技術開発、共同設計なども行っている。他の四組合が集団化移転を目的として組織化されたものに対し、この三組合は住友各社の発展と共に歩んだ共通の歴史をもっている。
 まず、新居浜鉄工業(協)は住友重機械の下請け企業を中心に昭和一一年に設立され当時の組合員企業は一三社で二二年に再発足し、六一年現在で四六社になっている。また、住友化学系列の下請け企業で組織したのが新居浜機工(協)で二五年に九社で設立し、表4-19(五八年)には二六社になっているが、六一年には二一社になった。その他の企業で組織する新居浜工業(協)は三六年に二六社で設立したが、六一年には五社減って二一社になっている。組合員企業数は結成が一番古いため、周辺市町村にも広がり、企業数も最も多いのが新居浜鉄工業(協)で、従業員や資本金による会社規模でみれば住友化学と共に発展してきた新居浜機工(協)の方が大きい(表4-20)。
 これは新居浜鉄工業(協)が、親企業である住友重機械が経済変動に左右されやすい産業機械中心の体質のため設備投資などが抑えられてきた為と考えられる。各組合共当初は一〇〇%住友依存であったが、組合員の企業規模の拡大と石油危機以後の産業構造の変化により、親企業への一〇〇%受注依存に限界があり収益面でも不安定なため、特に安定操業維持のため住友以外の複数企業からの受注に努力している。新居浜鉄工業(協)の場合、住友重機械からの受注が四九年をピークに減少し、近年は四九年比の五〇%減くらいまで低下している。これに対し小松製作所(大阪)や三菱重工業(三原)の建設機械部品などが増えている。その他県内では大王製紙、クラレ、県外では先述の二社の他石川島播磨重工業、日揮、神戸製鋼などが主な納入先である。
 次に新居浜機工(協)の場合、住友化学の石油化学の不振に加え、五二年に分離独立した住友アルミが不振で石油危機後操業を休止し、六〇年に再び住友化学に吸収合併された状況を反映し、受注の割合が四〇%程度まで低下している。新居浜工業(協)も同様な傾向である。もう一つ(協)新居浜重機械工業団地がある。これは住友重機械のクレーン、バケットなどの輸出用製品のユニット加工を主体とする八社が同社の直接的な支援の下に多喜浜に立地したものである。団地の特徴は、組合員企業が完全な分業体制を組み、機械加工、電気装備、組み立ての各工程を団地内企業で流れ作業方式で生産している点てある。しかも輸出向けのため多数の部品の梱包、チェック体制も整えているという住友重機械の分工場的性格を持っている新しい下請け形態となっている。
 高度成長から安定成長への移行に伴い、もはや特定の親企業の傘下に安住することは許されなくなってきている。しかも今後、需要の伸びも必ずしも楽観できず、競争は一段と激しくなる中で住友各社との特色ある連携を強化すると共に、人材の養成、新製品、技術の開発、市場開拓、設備の合理化など取り組まなければならない課題は多い。





表4-18 新居浜市鉄工業の概要

表4-18 新居浜市鉄工業の概要


表4-19 新居浜地区中小鉄工業の主要組合

表4-19 新居浜地区中小鉄工業の主要組合


表4-20 一組合平均規模

表4-20 一組合平均規模