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愛媛県史 地誌Ⅱ(東予西部)(昭和61年12月31日発行)

二 今治平野の水利(2)

 溜池の分布と溜池灌漑

 農業用水の主体が河川表流水であるとはいえ、農業用水の絶対量の不足はいかんともしがたく、農民は更に豊水期に水を一か所に貯え、必要に応じて使うことを考えた。溜池は河川の表流水の引用方法としては、井堰と並んで用水獲得の最も重要な引水施設である。
 溜池は、土地が高くて河川水を用水に引き揚げ難いところや、表流水だけでは灌漑用水の絶対量の確保が不可能な地域にもうけられた。

明和八年(一七七一)三月、古谷村(現朝倉村)鹿児池普請始め、寛政一二年(一八〇〇)六月落成、積功二十九年凡周囲一里二十丁也。寛政七年(一七九五)三月、別所村(現玉川町)犬塚池積功二十三年凡周囲一里也。

と古くから溜池の築造に努力を重ねてきた。
 溜池は表2―8のように、乃万地区が最も多く清水地区と波止浜地区がこれに次ぎ、この三地区で溜池灌漑依存の七一・四%を占める。これらの地区の用水の殆どは、溜池で賄われている。需要水量よりみて、溜池の水は一期間(水稲作付期間)におおむね二回転している。


 泉堀の分布と地下水揚水施設

 泉堀は蒼社川の表流水が地下に伏没して砂礫層の中に滞水し、徐々に下流部に流下して、地盤の低いところに湧出して泉をなしたものである。清水地区の弁天泉・中井手泉・御宝などの池泉、郷本村の付属寺境内の池泉・泉堀などいずれも良質の湧出泉であった。弁天泉・中井手泉などは、現在もなお重要な水源の役割を果たしている。御物川自体もまた大きな泉河川である。
 自然湧泉の他に、蒼社川水系の地下水・伏流水の揚水設備は上水道施設・工業用水道施設・農業用水施設に分けられる。その分布はおおむね本流を中心に、御物川・名切川に沿い、また下流に近づくほど揚水施設の規模が小さくなっている。
 蒼社川水系(龍登川以北)では、農業用水に三二灌漑井、工業用水に四井(うち一井は農業用水と併用)工業用自家用水に約二〇井、上水道に五井、計七〇井の多きを数える。一方、頓田川水系では農業用水に二二灌漑井が設備されている(表2―9)。
 農業用潅漑井のうち、灌漑期に常用されるのは蒼社川水系が二二灌漑井、頓田川水系では二〇井である。昭和三九年のような日照続きは一井も残さずフル運転され、蒼社川水系では日量六万八〇〇〇トン、頓田川水系では日量四万六〇〇〇トンの地下水が揚水され、連日の干天時には自家井戸にモーターを据えつけて揚水するなど相当多量の地下水・伏流水が汲み出されている(写真2―4)。
 農業用灌漑井の揚水施設は、明治年代のものが一三井、大正のものが七井、昭和のものが三四井となって、特に昭和九年の大干ばつに設けられたものが二五井もある。水系別にみると、蒼社川水系は昭和九年のものが多く、三二井のうち二〇井を数え、頓田川水系は特に富田地区が、明治から大正期のものが大半である(表2―10)。川をへだてた桜井地区は、昭和九年以後に設けられたものが多い。


 頓田川水系の水資源開発

 頓田川は、流路延長約一六㎞・集水面積三九・一平方㎞、その水源を高縄山塊五葉森(八四〇m)に発し、北流して朝倉村で黒谷川・高大寺川などを合わせて今治平野北東部を貫流し、燧灘に注ぐ。小河川でありながら土砂の運搬力は大きく、天井川化した水無し川である(写真2―5)。愛媛大学工学部松岡教授はその地下水総量を次のように推計している。

頓田川により涵養される地下水の主流は、頓田川に沿って下流し、上徳より喜田村に進むものと思われる。これに次ぐものとして、右岸側は沖より中土井に向うものが考えられ、なお上流においては、高市より沖の窪に向うものもある。集水面積四〇平方㎞で、これより算定される地下水総量は年間一五〇〇トンと推定される(図2―4)。

 現在、頓田川の地下水に依存しているのは、農業用水が大半を占めるが、今治の主要産業であるタオルおよび関連産業のこの地域への進出、住宅団地の造成による人口増加など用水需要の要素が高まるなかで、頓田川の伏流水利用の依存度はますます重要性をおびてくる。


 今治市の水資源開発

 人口増加、市民生活の向上にともなう生活用水量の需要増加、今治市と東予新産業都市の将来性、産業の発達などの諸要因にともなう産業用水の需要量の増加に対する抜本的対策は、必然的に蒼社川・頓田川の表流水の有効利用に求められる。
 そこで、蒼社川の無効放流五八五〇トンを上流のダムで貯水し、有効利用しようという蒼社川総合開発計画が、昭和三七年一二月にたてられた。それが、越智郡玉川町鍛治屋付近に、昭和四五年一二月竣工した玉川ダムである。
 玉川ダムによって、工業用水・飲料水さらに水利慣行権をもっていた一三の水利組合を統合して、二二〇〇余戸の農家が一体化した玉川ダム水利協議会を結成した。
 こうして、表流水・地下水を含む水資源の総合調整を図るという水利史上画期的な新土地改良区の「蒼社川土地改良区」が誕生し、その管理運営に当たっている。


表2-8 今治市の地区別溜池貯水量

表2-8 今治市の地区別溜池貯水量


表2-9 蒼社川流域(龍登川以北)揚水施設現況調査表

表2-9 蒼社川流域(龍登川以北)揚水施設現況調査表


表2-9 頓田川流域(龍登川以南)揚水施設現況調査表

表2-9 頓田川流域(龍登川以南)揚水施設現況調査表


表2-10 今治市の用水掘竣工状況

表2-10 今治市の用水掘竣工状況


図2-4 頓田川流域の地下水の水比抵抗等値線図

図2-4 頓田川流域の地下水の水比抵抗等値線図