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愛媛県史 地誌Ⅱ(南予)(昭和60年3月31日発行)

四 伊方の原子力発電


 原主火従型発電へ

 県内の電力生産は、年間発電電力量九〇七・六万MWHのうち原子力が五八%を占め、ついで火力発電が三五%、水力発電は僅かに七%程度にすぎない(昭和五六年度)。四国電力の原子力による伊方発電所の一号機が運転開始をみた昭和五二年以前には、火力発電の占める地位は圧倒的に大きかった。すなわち、昭和二〇年代から三〇年代の初めにかけては、戦後の経済復興で国土総合開発法の下、電源開発は水力発電に重点がおかれていたため、電力生産でも水力の占める割合が高かった。県内のそれでも、三〇年には発電電力量七七・六万MWHのうち水力が六二%も占めていた。しかし、三五年になると電力量が一七四万MWHへと著しく増加するとともに、火力が六五%を占めた。以後は電力量の増加は、松山火力(昭和三五年、一四・一万キロワット)、西条火力(四五年、四〇・六万キロワット)、壬生川火力一号(五〇年、二五万キロワット)などの大型火力発電所の建設によったもので、火力の比重も大きくなって「火主水従型」をとることとなった。
 「火主水従型」の電力生産は、最近、「原子の火」といわれる伊方発電所の稼動と、大型火力発電所の休止ならびに水力発電の見なおしなどから「原主火従型」へと変わってきた。昭和五七年三月に二号機が運転を開始したことにより、四国の全発電電力量の約三分の一が原子力によっている。六五年度には四〇%に達する予定である。また、火力発電も重油や原油を燃料としていたものが、石炭との混焼へと燃料転換をみせている。

 原子の火

 西宇和郡伊方町九町越で、昭和五二年一月二九日に全国で一三番目、四国では最初の電子炉が初臨界に達した。これは、四国電力が建設した原子力発電所(伊方発電所)の一号機であって、同年九月末に営業運転を開始した。ついで同発電所二号機が五六年七月に初臨界に達して、五七年三月から営業運転に入った。この発電所の最大出力は、一、二号機ともに五六・六万キロワットで、一号機はすでに五六年度中に三七億キロワット/hの電力を生産し、愛媛県のみならず四国の電力生産は「原主火従型」へ移行しつつある。日本全体でも、五七年現在、二四基の原子力発電所が運転していて、その合計出力は一七一七・七万キロワット(アメリカの六〇九〇万キロワット、フランスの二三〇二万キロワットにつぎ世界第三位)、全発電設備の約一二%に相当し、さらに一九基、一八〇七万キロワットが建設中または計画中である。
 原子力発電は、原子力利用のもつ平和的利用と軍事的利用の二面性のうち、全く前者に属するもので、日本では昭和三〇年に原子力基本法が制定されて、原子力の平和的利用についての研究と実用化が本格的に進められてきた。電力生産に原子力を利用することは、原子力の核分裂によって得られる大量のエネルギーを「熱」として利用し、これを蒸気にかえて発電する方法によっている。日本で最初の原子力発電所は、茨城県の東海村にある日本原子力発電の東海発電所で、一六・六万キロワットの出力によって四一年七月から運転を開始した。四国電力も三一年から原子力技術の調査に入り、三五年から原子力担当による具体的な技術研究や電源立地調査を進めてきた。
 原子力発電が最も期待される理由は、その巨大な発熱量を得るのに、わずかな量の燃料(ウラン)しか必要とせず、石油・石炭などの化石燃料の消費に比べて、はるかに燃料供給が安定的である。国際的にも化石燃料の輪入依存度が高い日本にとって、政治的にも戦略的にも安定がはかれることにある。とくに、「火主水従型」をとってきた日本の電力生産は、石油のほとんどを輸入し、しかもその価格は変動している。発電コストに占める燃料費の割合は、石油系火力発電が平均して約八〇%、石炭火力発電が約五五%であるのに対して、原子力発電のそれは約二五%だといわれ、経済的にも原子力発電がはるかに有利である。しかし、原子力発電に全く問題がないわけではない。燃料のウランの多くをオーストラリアその他海外から輸入していることから、その供給の安定のための国際協力が必要である。また、煤煙(ばいえん)もないクリーンな発電ではあるが温排水をはじめ、放射能の周辺への影響の監視、使用ずみ燃料の再処理や廃棄処理などに伴う安全性の確立である。

 伊方発電所

 佐田岬半島の伊予灘側、伊方町九町越の海岸に原子力発電所を誘致することが伊方町議会で決議されたのが昭和四四年七月で、土地売買や漁業補償、環境影響調査などが進んで、内閣総理大臣の伊方一号炉の原子炉設置許可がおりたのが四七年一一月、その後、建設着工で一号炉の初臨界が五二年一月であった。四国電力は、伊方町に先だって四一年に津島町大浜海岸を候補地としていたが、事前調査で不適とみなされたために伊方町からの誘致に応じたものであった。発電所の用地は、海面埋め立ての一〇万㎡をふくむ約七五万㎡で、一号機の工期は四八年六月から五二年九月まで、二号機は同じく五三年二月から五七年三月までで、それぞれ約四年を要した(表3―26)。
 原子炉の型は、加圧水型軽水炉で、関西電力の美浜・高浜・大飯や九州電力の玄海などの発電所と同型であり、沸騰水型軽水炉とともに世界でも数多く採用されている。軽水炉は燃料に濃縮ウランを使い、減速材や冷却材に普通の水(軽水)を用いるもので、炉の中に圧力を加えて蒸気の温度をあげ、蒸気発生器を通して、そこに生じた蒸気でタービンを回して電気を起こす仕組みになっている。この蒸気は、原子炉の冷却用とは別の水であり、燃料はウラン二三八が大部分で、燃えるウラン二三五は約三%と低い(図3―12)。
 伊方発電所の立地は、他の二二基の原子力発電所と同じように、海岸のしかも人口の少ない辺地にある。これは、用地を広く必要とすることや、大量の冷却用の水を海水からとること、またその温排水の放流を必要とすることなどから立地に制約があることによる。もちろん、地震国日本では、安全性のうえから地盤の固いところが絶対的条件となる。伊方発電所では、冷却水として水深一七mからの低温海水を毎秒約七六トン取って、排水は水深八mから放射状に放流することによって、周囲の海水と混合させて温度を下げている。このほか、気象条件も考慮され、周辺への放射能の影響も常時監視されている。

 伊方の電力四国縦断へ

 伊方発電所が立地したことによって、県内の電力地図は大きく変わった。それは、立地条件からして電力を必要とする都市や工業地域と遠く離れていることから、七三㎞の二本の幹線送電線が、大洲変電所を経て松山市の東の川内変電所まで走った。この間に鉄塔は合計四一二基を数える。さらに川内から西条変電所までの幹線が建設され、長さ三五㎞、鉄塔は八七基もあって、ともに県内のみならず四国の電力供給の大動脈となっている。なお、四国電力は、伊方発電所と結び四国を縦断する五〇万ボルト超高圧送電線「四国中央幹線」計画を進めているが、このうち東予開閉所(宇摩郡土居町上野)と讃岐開閉所(香川県綾上町)との間の東幹線が完成した(五九年六月)。四国中央幹線は六〇年代前半に完成の予定で、伊方三号機(六四年一〇月運転開始予定)に照準を合わせた将来の送電系統の大動脈とする計画である。
 最近の電源は大容量化、遠隔地化の傾向にある。四国電力ではこれに対応して効率よく安定した電力輸送を行なうため、送電容量が飛躍的に大きい五〇万ボルト超高圧送電線を計画したものである。伊方発電所から香川県まで、四国山脈の瀬戸内側沿いに四国を縦断する四国中央幹線(一九〇㎞、二回線)の建設に着手した。その第一段階として五七年一月讃岐―東予間の四国中央東幹線(六二㎞)新設工事に本格的に着工した。この東幹線は、五九年六月、とりあえず現在の基幹送電容量の一八・七万ボルトで運用を開始した。四国電力ではさらに東予―川内変電所の四国中央幹線、(五〇㎞)、川内―伊方発電所の四国中央西幹線(七五㎞)を計画、ルート選定のための調査などを行なっている。

 電源三法の効果

 原子力発電所の建設は、一基で二〇〇〇億円から三〇〇〇億円の投資が行なわれる。伊方町でも建設工事などで最高四一〇人ほどの雇用が確保され、また、四九年に公布された電源開発促進税法・電源開発促進対策特別会計法・発電用施設周辺地域整備法の、いわゆる電源三法によって、一号・二号機の建設にかかわる二二・四億円か四九年度から八年間にわたって立地町の伊方町に交付された。これは、とかく難航しがちな立地確保の促進と地元への利益還元をねらったもので、販売電力量一〇〇〇キロワット/hにつき八五円の電源開発促進税を電力会社に課して、これを収入源として特別会計を設け、原発立地と周辺の市町村に交付するものである。また、隣接町の保内・瀬戸両町には一一・二億円かそれぞれ交付され、地域振興や社会福祉向上のための事業に投資された。伊方町では、この間電源立地促進対策交付金により、町民会館はじめ町見体育館、町道・農道など、公共施設の充実と産業基盤の整備を行なった。一方、隣接町の保内町では母子健康センター・宮内保育園・喜須来保育園の各新築工事、磯崎小・喜須来小の各増築工事など教育、社会福祉の充実を行なうことができた。また瀬戸町では、三机・四ッ浜地区にそれぞれ体育館・文化センターを建設し、町道整備を積極的に進めてきた。










表3-26 伊方原子力発電所建設のあゆみ(№1)

表3-26 伊方原子力発電所建設のあゆみ(№1)


表3-26 伊方原子力発電所建設のあゆみ(№2)

表3-26 伊方原子力発電所建設のあゆみ(№2)


表3-26 伊方原子力発電所建設のあゆみ(№3)

表3-26 伊方原子力発電所建設のあゆみ(№3)


表3-26 伊方原子力発電所建設のあゆみ(№4)

表3-26 伊方原子力発電所建設のあゆみ(№4)


図3-12 原子力発電のしくみ(加圧水型)

図3-12 原子力発電のしくみ(加圧水型)