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愛媛県史 地誌Ⅱ(中予)(昭和59年3月31日発行)

四 砥部焼(2)


 立地条件とその変化

 砥部焼の立地条件としては、次の諸点があげられる。まず、自然的資源的要因として、①原料陶石の産地であったこと(現在は広田村との境の上尾峠付近が中心)、②砥部川の本支流の水流を引水した水車動力の利用が可能であったこと、③周辺山地からの燃料薪の確保が容易であったこと、④登窯の構築に必要な緩傾斜地が随所にみられたことなどである。このうち、現在にもあてはまる条件は①の原料陶石の存在のみである。また、大洲藩の保護奨励や多くの先覚者の研究努力、生活の苦しさから脱皮しようとする先人の努力などの伝統的歴史的要因も考えられる。そして、社会的経済的要因としては、①盆地で小農家が多く、余剰労働力があり、臨時工として低賃金で労働力を供給したこと、②零細規模経営のため、多品種少量生産方式となり、このことが時勢変化にうまく対応し得たこと、③砥部町域を出ない立地移動や後継者の存在、経営者の企業心などにみられる在地性、④採石・製土・鋳型の製造・陶磁器の製造・販売などの各工程の分業化という生産構造に基づく要因などである。


 生産構造

 五七年の調査による六四の窯元のうち、家族従業者を含めた従業員五人以下の窯元が七八%も占め、また生産額でも年産一〇〇〇万円以下の窯元が七一%もあり、きわめて零細規模の企業集団である。従業員一〇人以上の企業は、梅野製陶所・愛媛碍子・砥部焼観光センター・長岡製陶所の四つにすぎない(表3-54参照)。
 各窯元の創業年代をみると、六〇%は四五年以後の民芸ブームに乗って独立創業した新しい窯元で、それを可能にしたのは小型のLPG窯・電気窯の普及であった。また、零細な窯元の中には、果樹園芸や農業、その他との兼業経営者もみられる。製造品目の中心は、花器類(四四%)と飲食器類(三四%)で、その他には水盤・置物・装飾品・みやげ品・碍子・タイルなど多品種に及ぶが、生産量はあまり多くなく、いわゆる多品種少量生産方式により、流行変化に対応しつつ生きのびてきた。生産額は年産一二~一三億円といわれている。
 陶磁器生産に最も重要な役割をになう焼成窯と燃料の変化をみると、昭和二六年に重油使用の倒焔式窯が導入され、三八年に完全に切り替わるまでの間は薪使用の登窯が主流であった。その後、四〇年に電気窯が、四三年にLPG窯が導入され、今日ではこのガス窯が主流をなし、六〇基あり、電気窯の四六基をしのいでいる。今なお、重油窯が四基残り、愛媛碍子にはトンネル窯がみられる。


 生産工程と窯元の分布

 砥部焼は生産工程に下請制度は持たず、採石・製土・製造・販売の分業が明瞭である(図3-30)。
 採石は名古屋資本の共立窯業が上尾峠で大規模に稼行している。地元資本の業者は満穂で宇都宮陶石、万年で大森陶石が小規模に稼行するのみである。中心をなす共立窯業は、年産約六〇〇〇トンでその九〇%を愛知県へ出荷している。地元への供給状況は、砥部陶磁器原料へ六〇%、伊予陶磁器協同組合へ四〇%、佐川製陶所へ少々となっている。製土施設を持つのは、坏土製造専業の砥部陶磁器原料と伊予陶磁器協同組合、それに自家消費用坏土や釉薬製造を行っている佐川製陶所・愛媛碍子・梅野製陶所の五企業にすぎない。したがって、佐川・梅野両製陶所と愛媛碍子以外は組合または砥部陶磁器原料から坏土・釉薬の供給を受けているのである。
 焼物といえば、ろくろ成形と焼成技術にその生産の特殊性があった。しかし、このろくろ成形も生産性向上のため蹴ろくろや手ろくろから電動ろくろ、機械ろくろ、さらに自動機械ろくろの導入もみられ、鋳込成形法とともに手づくりの幅をせばめている。焼成技術も前述のような燃料および窯の変化で特殊性を出しにくくなり製品の均質化が進んできた。
 販売において最も重要な役割をになっているのは産地問屋である。つまり、単に受注・発送の販売機能ばかりでなく、デザイン・色彩等の品質管理にまで影響力をもっており、多くの窯元は産地問屋からの注文生産に頼っているのである。換言すれば、砥部焼生産を左右しているのはこうした機能をもつ産地問屋であり、この力が強いことが零細規模経営存続の一条件とも考えられる。なお、四〇年代後半からの民芸ブーム・手作りブームにのって国道三三号沿線に砥部焼観光センターをはじめ、宮内商会・陶鶴・大窯・陶正堂などの窯元直販店が開店した。その他、零細窯元で組織した陶芸館、梅野製陶所の直売店である砥部焼館などの立地が続いている(表3-54)。
 窯元の分布は、砥部町内の大南(二〇)、五本松(一八)、北川毛(一一)、川登(四)を中心に六四業者がみられる(図3-31)。

表3-54 砥部焼の窯元と販売店 1

表3-54 砥部焼の窯元と販売店 1


表3-54 砥部焼の窯元と販売店 2

表3-54 砥部焼の窯元と販売店 2


表3-54 砥部焼の窯元と販売店 3

表3-54 砥部焼の窯元と販売店 3


図3-30 砥部焼の生産工程と販売経路

図3-30 砥部焼の生産工程と販売経路


図3-31(A)砥部焼の窯元と販売店の分布(昭和57年)

図3-31(A)砥部焼の窯元と販売店の分布(昭和57年)


図3-31(B)砥部焼の窯元と販売店の分布(昭和57年)

図3-31(B)砥部焼の窯元と販売店の分布(昭和57年)