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愛媛県史 地誌Ⅱ(中予)(昭和59年3月31日発行)

三 皿ヶ峰連峰県立自然公園


 観光資源

 松山平野の南方にそびえる皿ケ嶺は、その名のように皿のように平坦な嶺が松山市街から望まれる。この皿ケ嶺を中心に、東は石墨山から黒森峠、西は障子山から谷上山に至る間は、その周辺の塩ケ森・滑川渓谷・面河ダムを含めて、昭和四二年皿ケ嶺連峰県立自然公園に指定された。その領域は伊予市・重信町・川内町・松山市・久万町・面河村・砥部町・中山町にわたり、その面積は三〇九五haに及ぶ。うち特別地域が九六七ha(三一・二%)、普通地域が二一二八ha(六八・八%)となっている(図3-52)。
 この自然公園は皿ケ嶺の隆起準平原、皿ケ嶺から黒森峠にかけての定高性をもつ分水嶺ぞいの自然林、その分水嶺の北側の中央構造線の走る大断層崖にかかる瀑布、皿ケ嶺をはじめ塩ケ森・障子山・谷上山からの松山平野の眺望、面河ダムの人造湖の湖水美などにすぐれている。
 皿ケ嶺は第三紀中新世に噴出したサヌキ岩質安山岩の硬岩が侵食からとり残されて形成された山頂の平坦面で、地形上は隆起準平原といわれる。一二七一mの山頂の北側には三方を山で囲まれた龍神平といわれるささ原の平坦面があり、龍神を祀っていた湧水があり、絶好のキャソプ場となっている。付近にはぶなの天然林もあり、深山性の珍花や昆虫の豊庫としても知られる。
 皿ケ嶺から黒森峠にかけての分水嶺に沿っては、つくししゃくなげが多く、五月の開花時にはその妍を競う。またほうのき・みずならなどの広葉樹のなかに、もみ・つがなどの針葉樹を混じえ、自然林がよく保存されている。この分水嶺の北側の斜面は中央構造線の走る大断層崖で、ここに唐岬ノ滝・白猪ノ滝・白糸ノ滝がかかっている。唐岬ノ滝は五段で七三m、白猪ノ滝は二股で八七m、白糸の滝は三〇mの高さを誇る。滝の付近にはかえでなどが多く、秋の紅葉は見事である。白猪ノ滝は厳冬期には滝全体が凍結し壮観である。
 塩ケ森・障子山・谷上山も、皿ケ嶺同様安山岩が侵食から取り残された残丘であり、周囲の山地よりひときわ高くそびえているので眺望にすぐれている。塩ケ森の頂上には第二次世界大戦中航空燈台があった。現在はNHKの中継放送塔があり、山頂までドライブウェーが通じる。谷上山は頂上付近に聖徳太子の開基と伝えられる宝珠寺があり、ここまでドライブウェーがある。
 中山川の上流滑川渓谷は、久万層群の礫岩層の中を流れる渓谷で、「なべら」とよばれる長大な河床や滝と甌穴などが二・五kmにもわたって連続し、美事な渓谷美をなす。河ぞいにはかえでの自然林もあり、夏に涼を求めての散策と秋の紅葉の深勝にすぐれている。


 観光開発

 皿ケ嶺連峰県立自然公園は県都の松山市から一日行程の距離にあるので、週末利用のハイキングコースや家族旅行、あるいは夏のキャンプ場としてにぎわっている。
 皿ケ嶺へは国道三三号ぞいの久万町六部堂から登るコースと、重信町の上林から登るコースがある。前者は一時間半程度、後者は三時間半程度で山頂に達することができる。山頂付近の龍神平はキャンプ場であり、愛媛大学山岳部の山小屋・給水施設・公衆便所などがある。夏季のキャンプや、秋季のハイキングに松山市方面から訪れるものが多い。
 唐岬ノ滝・白猪ノ滝も松山方面からのマイカーで訪れるものが多い。唐岬ノ滝は松山市から約二時間も要するので、黒森峠経由で面河方面を訪れるものが、途中で探勝するものが多い。秋の紅葉季に見どころがある。白猪ノ滝は夏に涼を求めて訪れるものと、厳冬季にその結氷した景観を探勝に来るものが多い。滑川渓谷も松山市方面の者が夏季涼を求めてマイカーで訪れるものが多い。観光施設としては公衆便所と駐車場があるのみである。
 塩ケ森・谷上山は共にドライブウェーが通じ、眺望にすぐれた山頂まで容易に登ることができる。このうち谷上山は昭和四六年以降都市計画公園に指定され、展望台・遊歩道・休憩所・公衆便所などの建設がなされた。週末に伊予市・松山市方面からマイカーで訪れる者が多い。

図3-52 皿ヶ峰連峰県立自然公園の区域

図3-52 皿ヶ峰連峰県立自然公園の区域