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愛媛県史 社会経済1 農林水産(昭和61年1月31日発行)

第八節 安定成長期


 畜産経営危機突破から需給均衡畜産経営ヘ

 昭和三〇年代なかば以降の生産格差インフレに対し、昭和四七年秋以降の過剰流動性インフレはまず卸売物価が高騰し、消費者物価がその後を追うパターンとなり物価上昇は全面化、加速化を示し高度成長も終わりを告げることになり、こうした情勢の激変に伴う肉畜をはじめ畜産物の価格安定と安定供給を目的として同四七年七月国、県および経済連などの出資による愛媛県肉畜価格安定基金協会が設立されて先ず乳雄並びに子豚の価格安定事業が取り上げられた。その後四八年後半から四九年にかけて、いわゆる石油ショックにより日本経済は全治三年の重症を背負うことになった。この荒波に畜産部門も大きくゆさぶられて畜産農家は重大な危機に直面した。
 特に、従来過剰基調に推移してきた世界の穀物需給が逼迫基調に転じたことなどによる輸入飼料価格の高騰は輸入飼料依存度の高い畜産業にとっては容易ならざる事態となってきた。
 さらに加えて生産資材の高騰、畜産適地の確保難、土地利用型畜産の停滞、環境汚染問題など激変の続く社会経済状勢の中に赤字経営が続き、多くの倒産する畜産農家を出すかつてない厳しい事態となり、新たな課題を背負うことになった。
 このような緊迫した情勢の中で、県でも四九年に配合飼料の再三にわたる異常値上がりと肉牛価格の暴落のための緊急対策がとられると共に酪農緊急対策協議会が設置された。また四九年二月一四日には全中による「畜産危機突破大会」が開催され、これに対応して五月二一日愛媛県肉牛生産危機突破大会が、また一〇月二四日には大洲市において愛媛県畜産危機突破大会が開催されるなど対策要請の活動が展開された。また、こうした時代を背景とする基本的な考えのもとに策定された「愛媛県新農業政策」による新しい愛媛の農業の方向を志向し、畜産では一二の広域営農圏のもとに高能率安定成長畜産の確立による畜産農家の所得と生活の安定的向上を図るべく、肉牛価格暴落に対する緊急避難的調整保管対策、肉用牛肥育経営に対する低利資金融通制度の発足、配合飼料価格安定基金の設置などの回復策を多額の財政投融資や民間資金も活用して解決に努めた。その結果、四七年には養豚を除く各家畜がマイナスに転落した畜産経営も昭和五〇年になると飼料価格も幾分落ちつきをみせ、五二年後半から数次にわたり値下げが続き、五三年には対前年同月比一〇~一六%も値下げをしたことなどから、減速成長ながらも五二年より上昇に転じ、五三年では養豚、養鶏を中心に全家畜が対前年を大きく上回るまでに復元した。
 しかし、畜産農家にとって、この痛手は余りにも大きく、加えて畜産物消費の停滞、供給過剰による価格の低迷で畜産をとりまく諸情勢は誠に厳しく、さきに述べたように経営規模の小さい農家の脱落は依然と続き、飼育戸数は引き続き減少する中で、飼養頭羽数は横這い気味で一戸当たりの飼養頭羽数はさらに増加し、専業化が進んだ。