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愛媛県史 社会経済1 農林水産(昭和61年1月31日発行)

第二節 後期(組織育成期)


 本県の養蚕は、明治の終わりから大正にかけて急速に増加し、大正一五年には桑園面積一万四八五町歩、養蚕農家四万九、八六七戸、繭生産量二四五万四、八二七貫となり、昭和初期の全盛期(昭和五年五万五、八四六戸、一万四、七二八町歩、三〇七万五、七四五貫)へと躍進してゆくが、養蚕農家の増加や繭生産量の増大は、蚕種製造業者・繭仲買人・製糸業者・製糸工女・蚕具商などを通して、農村に夥しい就業機会を与え、地域に活況をもたらしたことはいうまでもない。

 稚蚕用共同桑園設置

 大正一〇年三月一日県令第八号で、「稚蚕用共同桑園設置補助規程」が定められ、養蚕組合において栽桑の改良並びに組合の基礎を固めるために、稚蚕用共同桑園を設置した場合には、補助金を交付することが定められた。本来養蚕の営みは、養蚕農家各戸が取り組むものであるが、最終的には、養蚕農家各戸が加入している組合の名において、蚕の品種にふさわしい斉一な良繭を作り、より有利に出荷販売され、より多くの収益をあげることが組合の目的である。
 稚蚕用共同桑園は、適良な桑品種(春・夏秋蚕別)を共同桑園に栽植して、適当な肥培管理をして稚蚕用桑を作る。その目的は蚕作の安定と養蚕(飼育)の共同化(稚蚕一~二令)を期待するものである。
 養蚕の三原則――蚕種・桑・飼育――この三要件が正三角形を描き、申し分のない円の中におさまり、良繭として出荷される。(稚蚕用共同桑園設置補助規程は、資料編『社会経済上』三三五頁参照)

 愛媛県蚕種同業組合

 蚕種製造業が発達すると共に、明治四二年以降重要物産同業組合法により、蚕種同業組合が一郡あるいは数郡を区域として組織せられ、明治四四年愛媛県蚕種同業組合連合会の組織ができた。しかし、組合相互に連繋がなく、ほとんど有名無実の状況であった。大正一二年二月一日北宇和郡蚕種同業組合を除く各組合を解散し、新たに愛媛県蚕種同業組合を組織して支部組織とした。
 後に大正一五年一月北宇和郡蚕種同業組合が加入し、県下一円の組織組合となり、同時に蚕糸同業組合中央会に加入し、事務所を県庁内に置いた。かくて各支部と相呼応して蚕糸業改善のため諸種の事業を開始していたが、昭和六年蚕糸業組合法の制定を見るに及び、翌七年蚕糸業組合の創設を見るに至った。
 このようにして、組合員は県下の蚕種製造家全てを網羅し、それ以来蚕糸業講習会の開催、先進地の蚕糸業視察、県下数か所で研究会開催、その他経営改善など各方面に活躍し蚕糸業の発展に努めた。

  ○大正一二年六月一二日県告示第三六五号
    「発起人総代新居郡高津村小野寅吉より申請に係る愛媛県蚕種同業組合設置の件」本月一日付を以て農商務大臣よ
    り認可せらる其の地区、事務所々在地等左の如し   愛媛県知事 宮崎通之助

   組合の名称         組合の地区                        事務所所在   組合員たる営業種類
   愛媛県蚕種同業組合   愛媛県一円(但し、北宇和郡宇和島市を除く)   愛媛県庁内   蚕種製造業者

  ○大正一二年一一月一三日県告示第六四六号
    「大正一二年度配付すへき原蚕種の化性品種名配付予定数量価格並に請求書」提出期日左の如し

              記
    一、原蚕種の化性品種名・配布予定数量

   秋 蚕                         秋 蚕
   化性   品種名      配布予定数量     化性   品種名        配布予定数量
   一化性 国蚕日一号   八、五〇〇蛾     二化性 国蚕日一〇六号    四、三〇〇蛾
   一化性 国蚕支四号   八、〇〇〇〃     二化性 国蚕日一〇七号  一三、〇〇〇〃
   一化性 国蚕支七号   三、七〇〇〃     一化性 国蚕支九号     一四、〇〇〇〃
   一化性 国蚕欧七号   六、〇〇〇〃     二化性 国蚕支一〇一号    八、七〇〇〃

    一、価格  一蛾に付金四銭とす。
    一、請求書提出期日  大正一二年一一月二〇日限り愛媛県蚕業試験場長へ提出す可し
  ○大正一一年四月 愛媛県蚕種製造所久万夏秋蚕飼育所を開設。
  ○大正一四年四月 久万夏秋蚕飼育所を廃止、温泉郡湯山村(現松山市)に原蚕種製造所を開設。


 関東大震災と蚕糸業

 大正一二年九月一日神奈川・東京をはじめとする関東大震災が起こり、ついで大火災に見舞われた。このため横浜市場の生糸はほとんど焼失し、同時に貿易関係の諸機関も全滅した。その主なものをあげると、横浜市内の生糸検査所・同取引所・生糸問屋・輸出商・仲次商・倉庫などであって、そこに集められていた生糸約五万六千梱(一梱は五五斤)が灰儘となった。この生糸の損失は、製糸家、問屋、輸出商に関係のあるものが、もろに被った。その莫大な損失額分担のため、関係業者・銀行側も頭を痛め、官民共に検討を重ね解決策を練った。
 一方、養蚕農家としては、大正一三年度の繭取り引きは、製糸資金のひっ迫で、先行き不安であった上に、糸価の低落、製糸工場の操業短縮などによって、繭の取り引きは不安は倍加した。
 全国養蚕組合連合会においては、一三年二月九日全国組合大会を主催して時局対策につき協議した。その日の参加者は一道二府一七県の組合代表者約一五〇名、議題は次の事項が上程された。その討議の決定事項も記す。

  ① 養蚕業者の金融に関する件
     (決定事項) 一、養蚕低利資金の貸付斡施を政府に要請する。
              二、養蚕業者を株主に加えた信託会社をつくり、永久の金融機関とする。
  ② 現下における養蚕業者の採るべき方針
     (決定事項) 一、蚕糸業組合に関する単行法制定を政府に建議する。
              二、帝国養蚕組合の完成を期すること。
              三、右組合の活動を期するため政府に助成金の交付を請願する。


 帝国養蚕組合の誕生

 前項の組合大会の翌一〇日全国養蚕組合連合会は総会を開き、まず、名称を帝国養蚕組合と改め、新しい組合規約によって力強く前進すること、及び今後の活動方針について決議を行った。
 帝国養蚕組合の規約は、一四条からなっていたが、その大筋は以前の全国養蚕組合連合会の規約を踏襲しているが、新たに加えられた事項を次に掲げる。

  第三条 前条の目的を達せんが為、左の事業を行う。
    一、蚕業の発達に必要なる方策を調査し、之の実行を期すること
    二、蚕業に関する法規の制定、改廃、施行に関する調査を為し、其意見を発表すること
    三、蚕業に関する統計調査を発表すること
    四、蚕業に関係ある団体と気脈を通ずること
    五、組織組合を指導し、其発達を図ること
    六、前各号の外、蚕業の改良発達上必要と認むる事項

 この第三条の項目で帝国養蚕組合の当面の目的と事業が、極めて明らかになった。この事業は当時の環境を見れば当然・適切であったことが理解できる。この日の総会では、この事業方針に基づいて、実行委員をあげて、左記の運動を始めることを決定し、その後もこの運動に専念して、ほぼその目的を達成することができた。

        建議事項
      一、養蚕組合法制定に関する件 二、蚕糸局設置に関する件 三、養蚕業金融に関する件
        請願事項
      一、帝国養蚕組合助成金交付の儀に就き請願


 蚕糸業改善助長の訓令

 愛媛県では蚕糸業改善助長のため大正一五年六月特に左記のような県訓令を出している。(愛媛県訓令第一三号)

   郡市役所   町村役場
   蚕業試験場 蚕業取締所

 蚕糸業は本県に於ける重要産業にして之が消長は実に県民福利の増進上至大の関係を有し今や益々之が改善助長を期すへき秋なるを憶い期業の現状に鑑みて茲に訓令する所あらんとす
 惟うに本県の蚕糸業は最近異数の発達を遂げ、今や関西の雄として其の地歩を穫得しつつもりと雖も徐に斯業の実態を顧れば養蚕に蚕種製造に製糸に幾多改善を要すべきものあり。殊に生糸は優良品の産出を以て其の名斯界に冠たりしに拘らず、近時品質低下の声頻りにして伊予糸の声価漸く地に墜んとせり、其の因たるや或は桑園の荒廃或は養蚕、蚕種製造及製糸技術の欠陥等種々あるべしと雖も、就中至大の関係を有するは、蚕品種の多種に因る原料繭の雑駁是なり。即ち本県の蚕品種は最近に於て春秋を通じ約四百種の多きに達し、加うるに飼育及び桑園の欠陥は益々原料繭を混乱せしむるの状況にあるを以て、鋭意養蚕・蚕種製造ならびに製糸三業者の協調を図り、以て品種統一整理の実を挙ぐるにあらざれば、後日挽回すべからざるの悲境に遭遇するや実に火を見るよりも明なり。茲に於てか左記の通り蚕品種を限定し之を指定品種として統一し、明大正一六年より之が普及徹底に努力し、一方各種関係団体をして夫々自制の方策を講ぜしめ、以て三業者相互の利益を確立し、延て斯業永遠の策を講ぜんとす仍て原蚕種の製造配付に、蚕業取締に、補助金の交付に、将又斯業奨励に関する万般の指導督励に当り、常に改善の基調を茲に置き、以て斯業の円満なる発達を遂げしめ、苟も所期の目的を達成するに於て遺漏なきを期せらるべし。
    大正一五年六月二二日     愛媛県知事  香坂昌康

         記
  指定品種
春蚕種   白繭   国蚕日一号 × 国蚕支四号   黄繭  国蚕支七号 × 国蚕欧七号
夏秋蚕種 白繭  国蚕日一〇七号×国蚕支四号又は国蚕支九号
            国蚕日一〇九号×国蚕支四号
            国蚕日一〇七号 × 国蚕支四号又は(国蚕支九号 国蚕支一〇一号)                  
            国蚕日一〇九号 ×   (国蚕支九号 国蚕支一〇一号)


 蚕業講習会

 蚕糸業に関する指導方針の周知徹底と指導者の知識の向上を図るため、町村産業技術員及び大正一五年四月県令第二一万養蚕教師規程により認定を受けようとする者のために、高等蚕業講習会を開催した。
 会場は温泉郡役所で、日程は、七月一八日(蚕病・製糸・蚕種人工孵化法)、一九日(栽桑・蚕品種・養蚕組合)、二○日(夏秋蚕飼育・蚕業奨励方針)以上の通りで実施した。
 また、大正一五年七月一二日(小冨士村宇摩実業学校)、一六日(宇和島市公会堂)、一八日(旧温泉郡役所)で、それぞれ秋蚕飼育と蚕病に関する講演会を開催した。(講師は東京高等蚕糸学校教授・岩渕平介)

 乾繭講習会

 農林省助成による共同繭倉庫及び共同乾繭装置を運用して、乾繭取引をすることに伴い、乾繭技術者及び出荷団体の訓練その他乾繭取引実施に伴う各種の知識を修得させる目的で、農林省より本県に依頼して、乾繭講習会が開催された。期日は大正一五年一二月五日~一一日、講習科目は乾繭取引論・乾繭法・繭格付法、会場は松山市愛媛県立松山農業学校で行われた。講習生の資格は、高等小学校卒業以上の者で二か年以上実地乾繭に従事した者である。なお募集人員は百名以内ということであった。




表2-1 自大正五年至大正一五年蚕糸業推移

表2-1 自大正五年至大正一五年蚕糸業推移


表2-2 自大正五年至同一五年 蚕糸類生産額 1

表2-2 自大正五年至同一五年 蚕糸類生産額 1


表2-2 自大正五年至同一五年 蚕糸類生産額 2

表2-2 自大正五年至同一五年 蚕糸類生産額 2


表2-3 (イ)都市別蚕種製造額(春蚕)大正15年

表2-3 (イ)都市別蚕種製造額(春蚕)大正15年


表2-4 (ロ)都市別蚕種製造額(夏秋蚕)大正15年

表2-4 (ロ)都市別蚕種製造額(夏秋蚕)大正15年