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愛媛県史 社会経済2 農林水産(昭和60年3月31日発行)

はじめに

 部門史の農林水産業は『社会経済1』『社会経済2』の二巻で、本巻は林業・水産業・開拓を扱っている。
 第一次産業は、近世以前はもちろん明治以降も常に県産業の首位にあり、大正時代の中期まで全産業所得の四割、就労人口の六割を占めていた。昭和三五年(一九六〇)以降の高度経済成長政策による急激な経済変動と、これに伴う産業構造の変化で、第一次産業の比率は相対的に低下したとはいえ、食糧供給という大切な使命を持つ基幹産業として、現在においてもきわめて重要であることは言うまでもない。
 農林水産業のこうした激しい起伏消長に関する史料や断片的な研究は少なくないが、県下全域にわたり総合的にまとめられたものが無く、農業史・林業史・水産業史の編さんは、関係者の多年にもたる念願であったが、今回の県史編さんにより願いの一端を果たすことができた。
 編集に当たっては、既存の史料・典籍を基礎にして、これに執筆者らの蓄積した研究、行政・教育などの諸機関で得た識見を加え、また各方面の現地踏査により、可能な限り史実の確認に努めた。
 森林の多い本県は、藩政時代から山林を重視し、各藩とも林業政策は藩政の重要な施策になっていた。林業史の前半では、近世におけるこうした各藩の林政の概要を収録し、明治以降は公有林・保安林・治山・官行造林並びに一般造林事業など、各制度の展開とこれに伴う林業の発展過程を記述している。広大な本県の林業地を大別すると、代表地の久万地域及び加茂川流域をはじめ六地区に分けられるが、それぞれ異なる特徴と発展の跡があり、これら主要地の地区別考察をしている。後半では愛媛県林政課・市町村の森林組合・営林署など林政の行政機関について述べている。
 水産業史の前半においては、漁村の成立と特徴、近世から現代に至る漁業制度、沿岸・沖合・遠洋の各漁業の変遷をたどり、後半では、一九六〇年代以降、特に二〇〇カイリ時代を迎えての漁業を取り巻く諸環境の急激な変化と発展の概要を述べている。本県は一、六二三㎞にも及ぶ長い海岸線を有し、水産業の生産額総合では全国第五位、このうち養殖漁業は第一位にあるが、今日の隆盛がもたらされたのは一九六〇年代後半の高度経済成長下で、昭和三八年に発足した第一次沿岸漁業構造改善事業により、本格的な振興対策が樹立され、特に沿岸漁業の不振打開策として、「とる漁業」から「つくる漁業」へと、水産政策の基本的な方向が大きく打ち出され、これが軌道に乗った一九七〇年代の後半からである。こうした業界の急速な変化と発展には、水産試験場の充実のほか、有能な人材育成の教育機関としての水産補習学校・水産学校の設置、さらには栽培漁業センター・魚病指導センターの新設によって、研究・栽培・指導・教育の体制が整備充実されたことが大きく寄与している。
 開拓史では、近世における各藩で実施した開墾干拓の概要と、明治以降における県内外での愛媛県人による開拓事例を収録しているが、記述の中心は太平洋戦争後に国策として実施された、いわゆる「戦後開拓」に置いている。
 農林水産業は歴史が古いが、各部門とも中世以前の史料が乏しく、古い時代にさかのぼることができなかったことと、近世以降は舞台が広いため題材は豊富であるが、紙面の制約により記述を簡略にした部分があり、十分に意を尽くすことができなかったことをおことわりしておく。記述にあたっては、親しみやすく読みやすいように努め、また、写真・図表を可能な限り多く載せ、理解を深めるとともに、稿末に年表を掲げ、業界の歩みを明らかにしている。