データベース『えひめの記憶』

えひめの記憶 キーワード検索

愛媛県史 社会経済2 農林水産(昭和60年3月31日発行)

四 昭和漁業法施行より現在までの漁業制度①


  1 昭和漁業法と漁業改革

 新漁業法の特色

 太平洋戦争終了後、当時の連合軍最高司令部による日本の民主化政策の一環として、いわゆる羽織漁師を排し、自ら働く漁業者に権利を与える新しい漁業法の立法化を進めるべく、その第一次案が政府から昭和二二年一月にGHQに提出された。この骨子は①漁業権はすべて漁業組合有とし、個人有のものは二年以内に無補償で移行させる。②漁業権を私的財産権の考え方から公的管理権とする。③民主的な漁業調整を図るため漁業調整委員会制度を設け、漁民による管理運営を行なっていくというものであったが、この案は結局GHQに受入られなかった。その後第二次案、第三次案、第四次案を経て、国会に提出されたのである。昭和二三年一二月には漁業制度改革に備えて漁業権の譲渡や新規免許などを制限する「漁業権等臨時措置法」が公布され、即日施行された。また同年前述したとおり「水産業協同組合法」が公布され、翌二四年に施行となったが、これにつづいて同二四年一二月にいわゆる「昭和漁業法」が制定せられ、翌二五年三月施行となり、ここに民主的な新しい漁業制度が発足することになったのである。
 この漁業法のねらいは、その第一条の目的にうたわれている。「第一条 この法律は、漁業生産に関する基本的制度を定め、漁業者及び漁業従事者を主体とする漁業調整機構の運用によって水面を総合的に利用し、もって漁業生産力を発展させ、あわせて漁業の民主化を図ることを目的とする」のとおり、水面の高度利用と民主化が最大の目的となっている。

 新漁業法の概要

 新しい漁業法の内容はどうなっているかを次に列記する。
 ① 水面の高度利用を図るため既存の漁業権を白紙とし二か年以内に再割当を行なう。
 ② 漁業権の内容を左のとおり大幅に組み替えた。
  浮魚を漁業権対象から除外し自由漁業としたほか、専用漁業権と特別漁業権を廃して、おおむね共同漁業権に移行させたが、特別漁業権のうち第一種及び第二種を許可又は自由漁業とした。そして従来慣行、地先によって固定化されていた漁業権漁場を漁業者自らの漁場行使計画を充分反映させるものとした。
 ③ 免許にあたり適格性・優先順位を定め、これに基づいて漁業権を与えることとした。例えば共同漁業権及びヒビ建養殖・貝類養殖などの区画漁業権は漁業協同組合に免許してこの統制のもとに漁業者が漁業を行なうこととし、他の漁業権については自ら漁業を営む者に免許して賃貸は禁止した。
 ④ 漁業調整委員会制度を設け、免許、許可などに際して意見をきくこととしたほか漁業調整上の必要な指示をすることができるようにした。
 ⑤ 旧漁業権の白紙化に伴う漁業権補償に際しては、その補償財源には将来の免許料、許可料をもってこれにあてる。(この措置は後で中止された)
 ⑥ 許可漁業については従前と同様国又は県で取締りできるよう根拠規定を設けた。指定遠洋漁業については定数を決めること、適格性や優先順位を法律で規定した。
 ⑦ 内水面漁業については海面と異なり増殖する場合でなければ共同漁業権を免許しないこととし、漁業調整機構として内水面漁場管理委員会を設けた。
 この漁業改革の第一歩として明治三四年制定の旧漁業法に萎づいて免許されている全国の漁業権をすべていったん国が補償金を交付して一斉に消滅させることになったのである。このような措置がとられたのは、明治漁業法によって既に免許されている旧漁業権の失効に伴う損失補償として行なうものであった。

  2 旧漁業権の消滅補償と漁業権証券の資金化

 移行措置

 旧漁業権は旧漁業法によって免許されているわけであるので、本来ならば新しい漁業法が施行される昭和二五年三月で消滅することになるが、新しい漁業権の免許を計画的に実施するためには、二年間の準備期間を必要とすることから、この間は経過措置として従前同様の漁業権や入漁権が認められた。
 そして消滅する漁業権・入漁権・賃借権者に対しては、その補償金を一定の算式に従って交付することとしたのである。ただこの際は、これらの権利は登録せられたものに限定することではなく、実際の権利が証明できれば補償の対象となり、補償金の算定は次の算式にもとづいて実施されることになった。

A 算 式         
1 基準年度に於て貸付けられていた漁業権  
 (イ) 定置、區画及特別の各漁業権賃貸料の十一倍 
 (ロ) 専用漁業権、賃貸料の十六倍       
2 基準年度に於て貸付けていなかった漁業権
 (イ) 定置、區画及特別の各漁業権推定賃貸料の十三倍
 (ロ) 専用漁業権一年分の漁獲金額
3 入漁権、一年分の漁獲金額
4 賃貸権又は使用貸借による権利、本権の補償金額の二割
B 基準年度は昭和二十二年七月一日から昭和二十三年六月三
  十日までの一か年とする
C 賃貸料及漁獲金額は昭和二十三年七月一日現在で行なっ
  た、漁業権調査規則に基づいて報告した額による。但し特別
  の事由によってこれによることが不適当であるときは、漁業
  権補償委員会が近傍類似漁業権の賃貸料又は漁獲金額を参酌
  して定める額とする
D 実際の方法としては点数制による。

 水産庁は昭和二五年一〇月、二五第五三一三号により、漁業権等補償金第一次仮割当として全国総額約一二七億円を示した。このときの本県の割当は二億六千二百九万円であった。
 しかしこの補償算定方法は漁業センサスによる漁獲高を基礎として、昭和二三年六月漁業権調査規則を制定して行なわれることとなったが、この水産庁の数字の把握の仕方は県毎の魚種別単価の違いもあって県が信じる把握数字との間に大幅な相違がみられたので、各漁業権の種類毎に詳細に比較検討を加え補正することとなった。
 そして昭和二六年五月二六水第二七八三号より、各県に対し漁業権等補償金額割当の第一次案として総額一七八億円を割当てたうえ、その後若干の手直しをして最終的に表2-1のとおり総額一八一億円強の割当てを行なったが、本県への割当は四億八千二百七四万六〇〇〇円であった。
 次に漁業権等補償金の資金化の方法についてであるが、漁業権証券を交付することとし当初は年々徴収する免許料・許可料の支払能力を考慮に入れて、二五年元利均等年賦償還方式で利率は年四分五厘ないし五分が考えられ、総額約三〇〇億円(元本一七〇億円、金利一三〇億円)を年々一二億円づつ償還してゆく考えであった。そしてこの財源は毎年漁業者等から徴収する免許料・許可料によってまかなうというにしていた。しかしその後検討の結果、利付証券(五分五厘)とし元本は五年償還とする旨、二六年八月に漁業権証券交付規程が公布された。一方免許料・許可料徴収期間は二五年、利率を約二分と定めた。
 なお第一次仮割当時の漁業権種類別補償金額・比率は表2-2に示したとおりである。

 漁業権証券の資金化

 次の大きい問題は漁業権証券をどのようにして資金化するかであった。政府はこの補償金が農地改革の場合と異なり、その大部分が個人でなく漁業組合に支払われるので、この資金を分散することなく、できるだけ組合に留保し漁村経済基盤の強化を図るよう各都道府県に対し証券資金化協議会を設置せしめた。
 そしてこの資金需要に対応するため国債整理基金でこれを昭和二六年度と二七年度で、三回に分けて買上げられることとなり、漁業経営の合理化や貯蓄の増強、漁業信用基金協会への出資、漁連への増資等に充てられた。
 このほか、当初予想もしなかった問題が起こった。それはこの漁業補償金に対する課税問題であった。税法上の考えと補償金支出の主旨との間に大きな距りがあった。かくしてその後いろいろと調整せられた結果、租税特別措置法の改正によって漁業権証券の特例が設けられ、納税分が買上償還の対象とされたのである。
 さて、免許料と許可料であるが、当初はこれをもって漁業権の買収財源に当てる考え方であったことは前記のとおりであるが、これに対してはもともと反対が強く、これを撤廃すべきとの反対運動が全国的に展開された結果、昭和二八年八月議員提案による漁業法の一部改正がなされ、免許料、許可料徴収の規定条文を削除し、二八年度以降は徴収されないことで結着した。
 漁業権補償額の種類別の比較を第一次仮割当表からみると、全国の総額では専用漁業権が最も多く、次いで定置漁業権、区画漁業権、特別漁業権、入漁権の順であるが、本県では専用漁業権が最多であることは同様であるが、次いで特別漁業権、入漁権、定置漁業権、区馬漁業権の順となっており、特別漁業権と入漁権の比率が全国平均に比べ非常に高くなっている。
 本県における昭和二六年一二月一三日現在の補償権利者別の内訳は漁業会が約八二%を占め、残りが個人または法人等である。なお内水面関係の補償は全体に対して件数では約三%、金額ではわずかに〇・二%程度であった。

  3 漁業調整委員会の発足

 漁業調整委員会

 漁業制度の民主化の一環として海域における漁業事項を処理するため、新しく海区漁業調整委員会が発足することになった。この委員会は全国で一七九海区に設置することにし、このうち本県は燧灘・伊予灘・宇和海の三海区に設けられることになった。委員の構成は各海区一〇名とし、その内訳は漁民代表七名(漁民の一般選挙によって選出される)、学識経験者二名及び公益代表一名(知事の選任による)である。この第一回の選挙は全国一斉に昭和二五年八月一五日に実施された。この結果はおおむね漁業協同組合の組合長などの代表者が大部分を占めることとなり、地区漁協の利益代表という性格が強いものとなった。その後、知事選任委員も決定され同年から発足することとなったが、第一期海区漁業調整委員は表2-3のとおりである。
 その後、昭和三七年に漁業法の改正により、従来の燧灘・伊予灘・宇和海の三海区を愛媛海区の一海区に統合し、調整委員の定数を一五名として新発足し現在に至っている。

  4 愛媛県漁業取締規則の改正と漁業調整規則の制定

 漁業法公布と愛媛県の動き

 昭和二四年一二月法律第二六七号により公布された昭和の漁業法第六五条の規定によって、知事は漁業取締その他漁業調整のため水産動植物の採捕または処理に関する制限または禁止や、漁船漁具に関する制限または禁止などにつき主として許可漁業に関する規則を定めることができることになっている。そこで県ではその経過措置としてとりあえず昭和二五年四月、県規則第一九号により昭和二年一月県令第二号で定められている愛媛県漁業取締規則を前述の漁業法にもとづく規則として準用することとした。そして同日付で県規則第二〇号によってその一部改正を行ない、知事許可の漁業種類に藻手繰網・藻漕網・藻打瀬網・藻曳網・潜水器・空釣縄などを新たに追加したほか、許可した漁業を制限し、停止し、取消すことができるようにした。このほか瀬戸内海において機船により操業する漁業の許可期間を従来の一〇年から五年以内に短縮し、二2艘五智網漁業の新規出願を認めることとしたなどが主な改正点であった。
 しかし、これら漁業についても新しい漁業法の立法主旨に沿った県規則の制定が急務となり、従来海面漁業と内水面漁業とは同一規則で規定していたのを分離し、昭和二六年九月県規則第五四号によって「愛媛県海面漁業調整規則」をまた同第五五号で「愛媛県内水面漁業調整規則」を定めたのである。
 規定内容で従来と異なった主な点をあげると前者では、① 目的に繁殖保護、漁業調整、漁業秩序の確立をうたった。② 知事許可漁業に新たにいわし船びさ網・ぼら囲刺網・いわし、いかなご焚寄・いか玉・空釣こぎ・延なわ(はも、あなご、たいを目的とするもの)を新たに追加した。③ 許可漁業に定数を設けることができる。④ 定数許可に優先順位制を導入した。⑤ 有害物の遺棄漏せつの禁止。⑥ 宇和海での火光制限。⑦ 魚探の漁船への取付に知事の許可を要することとした(但し瀬戸内海は禁止)などである。後者では、① 知事許可漁業として新たにまき網・鵜飼網・食用かえる漁・空釣なわ漁業などを加えた。② 許可期間を三年とした。③ 許可の定数制。④ 体長制限にマス、ボラを追加した。⑤ 広見川、肱川、仁淀川における潜水してのヤス使用禁止、四ツ手網の網目制限などである。
 翌昭和二七年三月県規則第一一号によって「愛媛県小型機船底びき網漁業調整規則」を制定し、漁業法第六六条の規定に基づき、沿岸漁業のうち基幹的漁業としての小型機船底びき網漁業の調整と漁業秩序の確立を図ることとした。この規則の要点は① 昭和二七年農林省令第六号によって定められた「小型機船底びき網漁業取締規則第一条第一項に掲げる漁業種類の地方名称を定めた。② 許可の有効期間を三年とした(他の漁業は五年)。③適格性を有しないものは許可または起業認可をしない。④ 使用する船舶の総トン数及び馬力数は下のとおりとする。
 ⑤ 手繰二種漁業及び打瀬第二種漁業については同時に使用する漁具の数は三統以下とし、網目は一五cmにつき一六節以下とする。⑥ 特に定めた禁止海域における操業を禁止するなどであった。

  5 愛媛県漁業調整規則の改正

 改正の特色と変革

 昭和二七年三月県規則第一五号によって前年に制定した「愛媛県海面漁業調整規則」の一部を改正し、① あじ、さば・たい、さわら・このしろ・いわしをそれぞれ漁獲対象とする大型及び中型まき網漁業を知事許可より除外した。② 禁止区域、夜間操業の禁止、火光利用の制限などの各規定にそれぞれ(中型まき網漁業を含む。)を追加した。
 昭和二八年七月三一日県規則第四五号により「愛媛県海面漁業調整規則」の一部改正を行ない、① ほこ突漁業(火光利用するもの)を許可漁業に加えた。② 従来禁止漁業であった五智網漁業のうち二艘ローラー五智網漁業のみ禁止とした。③ 塑戸内海におけるいわし機船船びき網漁業のトン数・馬力数を一〇t・二五馬力以下に規制した。
 昭和三二年二月一五日県規則第五号にて「愛媛県海面漁業調整規則の一部を改正し、第四〇条の表一の二中袋待網漁業の禁止区域を削り、また一艘ローラー五智網の禁止区域の一部を改正した。
 昭和三三年一二月県規則第六二号により「愛媛県内水面漁業調整規則の一部改正を行なって肱川の下宇和、貝吹、横林の禁止区域を削除した。
 昭和三四年五月県規則第二八号にて、「愛媛県小型機船底びき網漁業調整規則」の一部改正を行ない、第四条の小型機船底びき網漁業の地方名称のうち手繰第一種漁業にはも五智網を、第三種漁業にえび桁網漁業をそれぞれ追加した。
 さらに同月県規則第四一一号によって同規則を改正し、小型機船底びき網漁業の禁止海域の一部(香川県との県境から西条市と周桑郡との境界)並びに(温泉郡北条町から松山市大可賀に至る海域)と、漁業種類を指定した禁止海域を改正した。
 昭和三七年六月県規則第二九号により「内水面漁業調整規則」の一部を改正し、禁止区域として新たに蒼社川筋の一部を追加した。


昭和漁業法

昭和漁業法


表2-1 漁業権等補償金額 (最終)

表2-1 漁業権等補償金額 (最終)


表2-2 漁業権種類別補償金額 (海面) (第1次仮割当)

表2-2 漁業権種類別補償金額 (海面) (第1次仮割当)


表2-3 愛媛県第1期海区漁業調整委員

表2-3 愛媛県第1期海区漁業調整委員


表2-4 第12期愛媛海区漁業調整委員

表2-4 第12期愛媛海区漁業調整委員


愛媛県漁業調整規則

愛媛県漁業調整規則