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愛媛県史 社会経済2 農林水産(昭和60年3月31日発行)

二 水産業改良普及事業


 水産普及事業の動向

 明治時代は主に水産試験場が中心となって試験研究と漁業者への指導を行なったのであるが、その後大正時代から太平洋戦争終結までは水産試験場に加え、大正一〇年制定の水産会法に基づき、翌一一年より新たに設立された郡市毎の水産会が指導事業の一翼を担ったのである。当時の水産会の主な事業は品評会・講習・講話・製品検査・共販購買事業のあっせんと各種の試験調査、奨励などであったが、特に煮干鰮の製品検査は県下を一元的に実施していたもので絶大な成果をあげていた。
 太平洋戦争終結直後の日本は極端な物資不足にあえいでおり、中でも食糧難は非常に深刻なものがあった。そこでこれを打開すべく水産業に対しても抜本策が不可欠となり、漁業制度と漁業団体の改革が実行に移されたのである。このような情勢の中にあって昭和二五年一月日本学術会議会長から総理大臣に対して「水産科学技術普及体制の急速な確立について」の勧告がなされた。さらに翌二六年五月連合軍司令部より「日本沿岸漁業が直面している経済的危機とその解決策としての五ポイント計画」が農林大臣に対して勧告され、翌月政府は正式承諾し、この勧告に沿って施策を強力に進めることとなったのである。その第四ポイントに、漁民収益の増加をはかることが明記されており、この基本指針を実現化するため水産業改良普及事業が昭和二八年度より新しく発足することとなったのである。農業の改良普及事業はすでに昭和二三年制定の農業改良助長法にもとづいて同年から制度化されているが、水産業の場合はこれから五年も遅れて発足したのである。これは水産業の改良普及の伸展は即乱獲につながることなどから見送られていたのであるが、単なる漁労技術の普及以外にも、水産増殖・加工・流通経済その他で資源保護に留意しつつ技術改良を導入すべき余地が多々ありとして発足されたことによる。発足してしばらくは専門技術員のみで、普及員の任務も兼ねていた。当初の事業内容は① 専門技術員の設置 ②先達漁船による漁法の技術改良普及 ③ 養殖生産技術改良 ④ 水産機械取り扱いの巡回技術改良などであった。
 全国で専門技術員が養殖(ノリ一二名、カキ九名、淡水五名)二六名、機械二六名、電気一七名の合計六九名であり、本県は養殖・機械各一名の計二名が設置されたのである。しかしながら沿岸漁業改良普及員が全国的に設置されたのは昭和三四年からで、専門技術員の設置からさらに六年もおくれてからである。本県における改良普及員の年次別配屋数を表11-20に示したが、改良普及員一人あたりの担当範囲は五組合を包含する地域で漁家数はおおむね五〇〇戸を標準においていた。昭和三六年以降順次増員し、四〇年度で一七名の整備計画が完了するとともに普及職員に対して普及手当が支給されるようになった。また県水産課内に初めて普及係が新設せられ普及事業に対する指導体制の強化がはかられたのである。しかしながら四三年度以降国の財政事情などもあって若干減員となり五八年現在一五名である。専門技術員については発足以来二名で推移してきたが、昭和五八年は増殖一名のみである。
 昭和三四年の改良普及員の新設にあたり、国は「水産業改良普及事業実施要領」を制定し、これにもとづいて事業を実施してきたが、昭和四〇年普及体制の整備完了とともに従来の諸要領を統合して新たに「水産業改良普及事業推進要綱」を制定し事業の基本方針と普及職員の任用資格や農林大臣が実施する専門技術員資格試験などの基礎的事項を規定した。そして四七年度に普及員の複数配置制の導入などの一部改正を行なって現在に至っている。普及事業が発足した当時はノリ養殖が天然採苗から人工採苗へ、スダレ・竹ヒビから網ヒビヘの移行期であった。昭和三〇年代半ばからは沖合・遠洋から沿岸重視へと水産振興方向の転換が行なわれ、ここに生産性の高い浅海養殖業、特にハマチなどの魚類養殖業や真珠養殖業が急速な発展を示すこととなったことはすでに「水産増養殖の発展」の項で記述したとおりである。また三八年ころから注目され始めた栽培漁業の推進や、漁場改良造成事業、増殖振興事業、沿岸漁業構造改善事業の調査、実施並びに漁業権の切り替えなどについて、普及員の技術指導と行政指導の庭先または集団指導が積極的に展開された。さらに昭和四〇年代の高度経済成長の過程において生じた漁場環境の悪化や、養殖漁業の急伸による漁場生産力の低下、生産過剰による価格の低迷に加え、燃油をはじめとする諸資材の高騰問題など沿岸漁業をとりまく社会情勢は非常な困難に遭遇しつつあるので、今後における水産業改良普及職員の技術指導と併せ行政面での積極的な活躍が一層期待されている。

表11-19 昭和40年度全国水産業普及職員設置状況

表11-19 昭和40年度全国水産業普及職員設置状況


表11-20 愛媛県水産業改良普及員の配置

表11-20 愛媛県水産業改良普及員の配置


表11-21 愛媛県水産業改良普及職員年次別配置数(昭和35年~58年)

表11-21 愛媛県水産業改良普及職員年次別配置数(昭和35年~58年)