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愛媛県史 社会経済2 農林水産(昭和60年3月31日発行)

二 県関係職員


 開拓関係職員の活躍

 県職員は、未墾地の買収及び移管の促進実施について、農林省当局より再三再四にわたり督励を受けた。その一端を、昭和二三年四月二日付け二三開第八九〇号農林事務次官通達により引用すると次のとおりである。
 「開拓用地の急速な取得の趣旨は、一には、未墾地の開放は農地開放と併行して急速に実施さるべきものであり、そのことによって既存農業経営面積の拡大、引揚海外農業移民、農家二・三男の就業などを通じて、農地改革の成果を全うせしむる意義を有するものである。しかも農地改革は、昭和二三年度末までに完了することになっているから、その一環たる未墾地開放もまた、これに準じて推進されねばならない。二には、開拓事業の本旨は、国土の農業上の利用を増進するのに在り、しかも山林・畜産・その他国土利用に関するすべての面を併せて総合的に実施されなければならない。従ってなるべく速やかに国土全体にわたって、その利用区分を明らかにし、開拓の用に供するを相当とする土地などは、速やかにこれを開拓財産に編入し、将来の入植、開墾が円滑に実施され得るように、これを管理するのが必要であると共に、この措置によって、一面山林経営その他における今後の事業推進上の障害を除去するのが適当である。」
 他方、昭和二三年四月二日付け二三開局第六〇二号農林省開拓局長通達「開拓用地の急速取得目標面積に関する件」により、二三年度末までに取得すべき目標面積が、各都道府県に割り当てられた。本県は次のとおりである。
     割当面積    九、〇〇〇町歩
     うち
      民有地     六、八一四町歩
      国有林     一、八四三町歩
      旧軍用地      三四三町歩
 占領下においてこのような割り当てまで受けて実施する未墾地取得は、一方、地主側からすれば、法令によって強制的に私有財産を買収されることであり、有形無形の抵抗があり、関係県職員も各種の圧迫を受け、看過できない状態となった。そこで農林省では二四年一月一八日付け二四開第六三号農林事務次官通達「開拓適地選定の基準に関する件」により次のとおり都道府県知事に職員の身分保証について指示した(第三節の一の5関連)。即ち、「適地調査に従事する技術員は、如何なる場合でも政治的な圧迫を受けるようなことがあってはならない。従って、その職務上行なった正当な行為について調査者をして、その身分に危険を感じさせてはならない。若し調査者に対して不当な圧迫や要求又は強迫が加えられた場合は、調査者又はその所属する課の長をして、都道府県知事及び所管農地事務局長に報告させなければならない。」である。
 以上のように、開拓関係職員は、用地の取得に始まり、入植営農業務でも開拓者と一体となり労苦を共にした。また、親子兄弟のような親しみをもって接してはいたが、農地法第七一条の成功検査の結果によっては、泣いて馬謖を斬る思いで不合格の土地などを買い戻さなければならなかった。あるいは、償還金の滞納があれば、何時でも貸付金の全部又は一部につき一時償還を請求することができる強い権限もあった。事実それをやってきた。
 開拓課職員の苦労話は尽きるところがないが、みんな強制的なものではなく職員の開拓者を思う自発的な行為であった。
 資金係担当の中川友忠氏は当時の苦労を次のように話していた。
 「歩いたのは、よう歩いた。ある台風明けの日、旧四ツ浜村大久から繁久丸に乗船のため、黒牛の群がる浜に出たが、船は沖を素通りして岸へは寄らなかった。どうしても帰庁しなければならず、困り果て、瀬戸内海側は運航しているかどうか、三机方面に山越えして行って見たが、欠航である。やむを得ず大・小二~三の峠を越え、海岸沿いの道路を雨に打たれながら伊方町・保内町を通り、とうとう八幡浜まで歩いた。朝七時頃四ツ浜を立ったが、八幡浜へ着いたのは夜であった。台風で旅のお客もないのか旅館の女中さんは寝入りばなで起こすのに難儀した。
 また、旧清満村山財大道の南予高原開拓地から、夜道をタイマツをつけて御槙村の役場まで歩いたのも思い出である。役場の人も熟睡していて起きてくれず困っていたところ、戸をたたく音に偶然通行人が気付き、休んでいる旅館を世話して呉れた。
 危ない出張もした。旧日振島村御五神島開拓地に行ったときである。自家発電装置も止まる程の台風で定期船は欠航である。やむを得ず肉豚運搬船に乗せて貰ったが『いのちの保証はせん』と言われた。別子山村開拓地へ行くときも、新居浜市の端出場から鉱山業務用の周りに囲いのないエレベーターに乗せて貰い、垂直七〇〇m位を上下した。目を閉じて神仏に手を合わせていた。」と。
 しかしながら、開拓に従事した職員も、苦しいことばかりではなかった。
 四月の現地指導ともなれば、ひなびた旧街道の桜並木のトンネルをくぐり抜け、足元には、清冽な雪融け水が音を立てて流れている。梅も杏も菜の花も水仙もきれいに咲き、百花繚乱である。昼は、開拓者は農作業のため会合は殆ど夜間である。夜道を歩いていると、梅が馥郁と香り、沈丁花が香り、ときには辛夷が香る。紅梅の香は濃密に甘く、辛夷の香は淡く、まさに値千金であり、生きがいを感じる。一般行政職員には味わえない大自然の中での幸福感が沸いてきた。
 夏の登坂は、周囲に木立があるとはいえ汗だくである。やっとの思いで峠にたどり着き、向こうに開拓地が見える。岩に腰を下ろし、防風垣に囲まれた一軒一軒の住宅を目で追い、その入植者を思い起こし、苦労の末にようやく、あれ程までの農地を開墾し終えたかと、人間の力について思考を巡らす。そのしばしの休息は、山野を吹き渡る風とともに汗を吹き飛ばし、科学文明では律することのできない爽快な気分にさせる。
 秋の山は、また格別である。収穫の歓びを新米の五目飯に託し、老若男女を問わず一堂に会し味わうときは、これまでの苦労という字を幸福に一変させるのである。
 ともあれ、荒仕事をした開拓行政に従事した人々に対し、中傷誹膀・毀誉褒貶まちまちであるが、みんなヒューマニストであったことは知る人ぞ知るである。ここにその労の一端に酬ゆる意味で本史に名をとどめておくこととした。

 本県開拓行政に従事した人々(勤務の変更などによる重複記載はしなかった。また、耕地課関係職員は除外)
歴代知事    青木 重臣  久松 定武  白石 春樹
歴代部長    玉柳  実   野村  馬  諫山 忠幸  黒河内 修
 (次長)     厚味荘之助  中島  厚  塩見  博   毛利 正光
          今村 一夫  旅井理喜男  高市 義治  宮本 俊一
          (結城 庄吉)(松山 良三)(永根 宏基)(佐伯修三郎)(曽我 時康)
          (斎藤 哲夫)(森元 光保)(山下 十平)
歴代課長
  (開拓課)    福田 祐一  野村  馬  松木 健夫  中村謙十郎
   昭二一~   野中 藤太  宮崎 義幸  新井 一夫
  (農地開拓課) 野中 藤太  毛利 正光  須田  透
   昭二九~
  (農地拓植課) 尾崎 一水  清家  璋  野村 時忠
   昭三〇~   日吉 忠明  津野 正和  伊藤 一夫
            菅  俊夫   藤本 豊三
  (農地計画課) 藤本 豊三  古川 敏也  渡部 宗清
            渡辺 久夫
   昭四六~五五 三月(課廃止)
歴代課長補佐
  (開拓課)    村上福十郎  松野 競朗
   昭二一~
  (農地開拓課) 由井 富彌
   昭二九~
  (農地拓植課) 二宮 又三  西山 又一  伊藤 一夫  川端 裕臣  坂本  裕  藤田  龍
   昭三〇~
  (農地計画課) 宮内  勇  渡部 宗清  矢野 勝人  宮岡  久  森田 義雄  白戸  洋
   昭四六~五五
関係職員(順不同)
  本庁関係  加藤 賢吉  長井 義明  河野 勝彌  徳永 金正  久米 準一  西山  優  仙波 武男
         〇田中 藤信  二之宮 良  高橋 敏則  郷田 正孝  明神 孝純  橘   譲  多田 義満
           大西 保己 ○足立小夜子  木下 重友  佐伯 正光  永井 方良  新野 三男  中川 友忠
          戸井田多喜男 大西  博  後藤 泰巳  大岡 正明  土居 清志  甲斐 義隆  宮崎 清行
          山内如世夫  重松 信雄  矢野 晴子  田中  等  森  茂秋  好永 道正  野本 牧夫
          平井 一幸  松岡 政行  西田 春善 ○竹政 俊郎  塩見 忠臣  佐々木正明  斉藤  修
          今井  勝  加藤 良雄  安藤 公夫  神野 重雄  竹田 賢一  稲葉  彰
          山之内清弘  松田 春茂  森   茂  河野 栄吉  井関  覚  清水  近  内海 輝夫
          一色 昇市  川本 久計  後藤 芳夫  宮内 恒夫  脇家 満義  大立  勝  稲田加寿夫
          矢野 輝雄  重松 照美  沖野 修一  丹原 一寛  藤本 義則  河原 左内  渡部 鷹夫
          小笠原 明  河野 幸治  正岡 末善  武田 武典  政木 浅夫  別宮 政義  井場木元啓
          渡部 悦夫  武智 政市  相原 政夫  相原 正人  野本  勉  森貞  昇  野口  勲
          造田 武則  村岡 則章  近藤 一夫  高橋 儀行  和田 恭一  栗田  旭  渡部 綏彦
          真鍋 忠士  真鍋 徳男  大塚  豊  山田  明  武田  寛  曽根  清  隅田 文博
          荒木 貞光  尾野 里志  松本  清  桧垣  茂  小林 栄城  久万 房子  北尾 直是
          宇都宮時子  田中美智恵  篠原 広子  玉井トミカ  須賀 歌子  村上 澤子  玉井 収蔵
          綿谷  礼  一色 藤子  倉田 有光  秀野 正篤  忽那 愛朝  金子  博  宮城 松實
          兼久 幸子  小田 久子  片岡彌智代  上田登茂強  名田富美子  菅原 タケ  友石 忠繁
          大上サイコ  石山 彌生  高須賀栄子  宮崎ヤヨイ  岩井 博子  元岡 圭子  矢野  保
          田中 桂子  山本 光子  渡部 雅美  吉田  満  重川トク子  仙波 貞子  郷田 良夫
          土居  光  村上 節子  一色 玲子  尾川ミル子  北村 芳子  道土井嘉子  鶴原 慎一
          八木 照義  重松 竜彦  堀本 次男  篠崎 宏子  川口 義光  東  庸一  三木 秀文
          河野源太郎  河原  豊  八塚  弘  井手  正  武田 幸一  菅野 玲子  堤 茂登子
          天地 計延  玉井 三郎  田尻 治幹  矢野  尚  稲沢 淳一  松友 直行  後藤 房子
          岡本 広司  菅  雅子  渡部 俊三  森本 安一  曽我部宜章  内宮 節子
          馬嶋 聖啓  村田 雅代  穴山 千秋  榎本 重義  大原 篤民  松崎  稔
          米田ヒサコ  松木 義文  藤野寿太郎  向井 守正  井伊豊次郎  田中 和子

地方局関係
(西条)      河渕 敏夫  坂上 正憲  山内 謙一  秋山 次男  曽我部種繁  井上 清美
          鳥山 岑樹  大西 洋平  古川  幸  横内 繁正  立石  葆  小野 義数
          石井 光義  河上 松次  宮内 幸三  白石 哲郎  加地  勤  山上  勝
          塩崎 英美  岡崎 敏継  朝野 武敏  村上雄之助  山下 重吉  山中甚之助
          星加 照雄  田中  雅  青野 達夫  永井 政陳  塩見 敏明  好井 道昌
          高橋 熊次  河上  進  秦   舜  岡本千代一  石原 政利  谷  清近
          近藤  実  高橋 邦子
(今治)      矢野 輝夫  山本 義雄  瀬野  忍  渡部  満  石丸 清志  鳥山 五雄
          渡部  臻  矢野 英夫  菅  清志  柚山 克文  阿部美恵子  佐野 妙子
          越智 正夫
(松山)      武田 喜夫  白石 益夫  尾崎 保行  上田 賢雄  三好 義徳  加藤 正利
          怒和 秀雄  御堂 守正  乙井 政雄  山本  進  丸山  厳  宮平 達治
          大野  功  山本 春清  山田 正登  高橋 正二  大野  正  武智  顕
          水口 和美  佐伯 敦子  永岡  弘  門田舜一郎  菊池  勝  岡本カオル
          佐藤林五郎  渡部  湊  長尾 孝弘  清水三千夫  武智みづえ  井上 和子
          近藤 純子  加藤 清志
(八幡浜)    国次 徳蔵  河野 道夫  松崎 宗光  滝本 貞光  永見 元一  田口 嘉一  竹本 晴親
          中島 和子  一宮ツヤ子  兵頭  敢  得能 頼照  井上 次夫  武田 朝則
          畑本 直隆  済川 太郎  菊川又一郎  井上 重昌  和気ミサ子  中口 慎三
          中村 重雄  森川  久  河野 治郎  二宮  勤  兵頭 健一  笹田 恭子
(宇和島)    赤松  弘  角田紋太郎  岩倉 光夫  稲葉 利夫  丸川 広祐  笹田寅之助
          薬師寺善一  渡部 高夫  田中 幹夫  井出 貞雄  有馬 義幸  森藤  務
          梁瀬  勲  中野 弘道  岩倉  博  山本  力  赤岡 雅美  蓮田 栄三
          井場木信夫  山下 照三  加藤 政子  尾崎  弘
(開拓地保健婦)
          久枝テルコ  藤原 千鶴  堀川 秀子  松本 貞子  増田ヤスコ  山口みえの