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愛媛県史 社会経済4 商 工(昭和62年3月31日発行)

四 農村地域工業導入

 愛媛県農村地域工業導入基本計画

 昭和四六年(一九七一)六月二一日、「農村地域工業導入促進法」が公布され、愛媛県でも同法の第四条の規定に基づき、昭和四七年三月、最初の「愛媛県農村地域工業導入計画」が策定された。その後、昭和五二年三月に第二回、昭和五七年七月に第三回目の「愛媛県農村地域工業導入計画」が策定された。
 昭和三五年以降、愛媛県の経済成長をリードしてきた工業は、東予新産業都市地区及び中予松山周辺地区の瀬戸内海地域に集中しており、内陸地域、特に県総面積の四割以上を占める南予の農村地域への工業立地は極めて乏しかった。その結果、農村地域では、潜在的失業者が多く、特に南予では新規学卒就業者の約八割が地域外に就職し、県内出稼ぎ者の八割以上がこの地域から出ているという状況であった。
 昭和四七年三月に策定された第一回目の「愛媛県農村地域工業導入基本計画」は、農業構造の改善と相まってすすめる農村地域への計画的な工業導入によって、農村地域、特に南予の潜在的労働力の円滑な雇用をはかり、就業構造の高度化を推進することを意図したものであった。この基本計画は、昭和五〇年を目標年次とし、対象とする市町村の区域を選定し、東予地区、東予島しょ地区、中予地区、南予地区の地区ごとに導入業種を想定している。農村工業導入のための工場用地は、昭和五〇年までに導入すべき工業の規模に対応して確保をはかるものとし、可能な限り、農村地域工業導入関連基盤整備事業、農業構造改善事業あるいは、ほ場整備事業などをあわせ行うことに配慮して、工場用地の創設、団地化を促進するものとしている。
 昭和五二年三月に策定された第二回目の「愛媛県農村地域工業導入基本計画」では、昭和四六年以降の農村工業の導入が、非用水型、土地集約型の弱電、衣服縫製など女子雇用を主とするものであり、また、第一次石油ショックの影響により、昭和四九年以降、農村工業の導入が激減しているという状況のもとで、南予を中心とする農村地域へ男子雇用型工業を重点的に導入することを主要な課題としていた。
 昭和五七年三月に策定された第三回目の「愛媛県農村地域工業導入基本計画」は、八〇年代という経済構造変化の時代を展望し、昭和六〇年を目標年次とする農村地域への工業導入の基本方向として、(一)広域的観点に立つ企業立地の推進、(二)農村の構造変化に即した就業機会の確保、(三)農業と工業の連帯の緊密化と機能分担の強化、(四)成長性・安定性のある内陸型工業の誘致活動の促進、(五)ローカル・エネルギーの活用と地域個性の重視の五原則を掲げている。導入すべき工業の業種については、各地方生活経済圏別に雇用吸収力が高く、農村に安定的に融合するとともに、地域農業との共存性が高く高齢化する労働力供給構造に対応する労働集約的内陸工業や、各地方生活圏発展の核となるようなキー産業関連工業が中心とされている。

 農村地域工業導入の状況

 農村地域工業導入促進法が制定された昭和四六年から、昭和六〇年三月末に至るまで一六市町村の二八団地について、市町村別農村地域工業導入実施計画が策定された。これは、愛媛県の農村地域に該当する五八の市町村に対して二八%の策定率となっており、全国平均の策定率四〇%よりもかなり低い策定率であった。
 実施計画を策定している一六市町村における策定の動機をみると、「若者層の定着等過疎化を防止するため」とするものが三七・五%と最も多く、次いで「農家所得の増加」と「農業構造の改善を促進するため」がともに一八・八%であった。
 農村地域工業導入促進法によって導入が決定された企業数は、昭和六〇年九月までに二七社であり、昭和六〇年九月現在でこのうち二二社が操業している。操業中の企業二二社を地域別でみると、南予が一七社(七七%)、中予が四社(一八%)、東予が一社(五%)であり、南予への企業立地の比率が高い。業種別でみると、電気機械器具製造業が五社(二三%)と最も多く、次いで金属製品製造業・食料品製造業・木材・木製品製造業がそれぞれ三社(一四%)となっている。
 操業企業二二社を資金別でみると、資本金一、〇〇〇万円から五、〇〇〇万円が一二社(五五%)と最も多く、次いで五〇〇万円以下と一〇億円を超える企業が三社(一四%)であり、中小企業法でいう資本金一億円以下の中小企業が八二%を占めている。従業員規模別でみると、従業員五〇人未満が一〇工場(四五%)と半数近くを占め、五〇人から一〇〇人未満が五工場(二三%)、一〇〇人から五〇〇人未満が六工場(二七%)、五〇〇人以上が一工場(五%)となっている。
 工業用地の状況をみると、実施計画を策定した一六市町村における農村地域工業導入地区面積は、九七・〇五ヘクタールで、このうち工業用地面積は九二・三六ヘクタール、公共施設用地面積は四・六九ヘクタールとなっている。工業用地面積のうち、実際に工業が導入されたのは、七〇・五三ヘクタールであり、立地率は七六%となっている。現在操業中企業の面積は五九・四一ヘクタールであり、操業率は六四%となっている。工業用地の残面積は、五市町村で二一・八三ヘクタールであり、このうち分譲可能面積は、五団地で三・七二ヘクタールである。なお、二市町村においては、企業の進出の断念、土地利用の変更等によって、実施計画の取り消しを含め、工業用地の取り扱いについて検討がなされている。
 昭和六〇年九月一日現在における一六市町村別実施計画の諸目標に対する達成状況をみると、概して言えば、達成率は低いと言える。具体的には、次のことが指摘できる。(一)工業用地面積は、九二・三六ヘクタールの計画面積に対して、導入済工業用地面積が七〇・五三ヘクタールであり、達成率は七六%となっている。工業用地面積の達成率については、市町村の差が大きく、一〇町村で一〇〇%の達成率であるが、土居町(○%)、城川町(四一%)、内子町(六一%)、広見町(六一%)では平均を大きく下回っている。(二)導入企業による工業出荷額は、目標の一、一九三億円に対して七三億円であり、達成率は六一%となっている。工業出荷額も達成率に大きな差があり、五市町村では目標を大きく上回っているが、他の町村では、逆に目標を大きく下回っている。(三)導入企業への雇用従業者数は、目標七、二二三人に対して、実績が二、五〇二人であり、達成率は三五%となっている。雇用従業者数については、砥部町が目標を上回っている他は、目標を大きく下回っている。(四)導入企業への農家世帯員からの就業者数は、目標四、五〇四人に対して、実績が一、〇四九人であり、達成率は二三%と目標値の四分の一にも達していない。

 農村地域工業導入の評価

 昭和四六年から昭和六〇年九月までに行われた農村地域工業導入の成果として評価できることは、農村地域における雇用機会の創出と地域の就業構造の改善に寄与したということである。昭和六〇年九月現在の操業企業二二社の雇用従業者は二、五〇二人であり、地元からの雇用者はその八三%を占めている。年齢階数別では、雇用従業者総数で二五~四四歳が五〇%と半数を占め、次いで二五歳未満が三〇%、四五歳以上が二〇%となっている。また、地元雇用者の五一%が農家世帯員からの雇用者であり、さらに、地元の農家世帯員からの雇用者のうち、六二%は中途採用者で中高年齢層で構成されている。地元雇用者の雇用形態をみると、本採用(常用)が九二%、臨時が三%、パートタイムが五%と九割以上が本採用となっている。
 しかし、愛媛県の農村地域工業導入は、次の点で問題点をもち、十分な成果をあげるまでには至っていない。ます第一に、市町村別実施計画の諸目標に対する達成率の低さである。特に、雇用については、雇用従業者の達成率三五%、農家世帯数からの就業者数の達成率二三%と著しく低い。第二は、導入企業の求める労働力と農村地域が希望する就職者との間にすれ違いが生じていることである。企業導入を行う農村地域の市町村では、男子雇用の確保が目的で工業を導入しても、雇用人数が少数であったり大きな雇用吸収力をもつ家題点をもち、十分な成果をあげるまでには至っていない。ます第一に、市町村別実施計画の諸目標に対する達成率の低さである。特に、雇用については、雇用従業者の達成率三五%、農家世帯数からの就業者数の達成率二三%と著しく低い。第二は、導入企業の求める労働力と農村地域が希望する就職者との間にすれ違いが生じていることである。企業導入を行う農村地域の市町村では、男子雇用の確保が目的で工業を導入しても、雇用人数が少数であったり大きな雇用吸収力をもつ家電組立工場の場合、女子雇用型で男子雇用が少ない等の問題点が残っている。雇用従業者総数でも男子四〇%に対して女子六〇%と女子雇用の比率が高く、農業世帯員からの雇用者では男子三五%に対して女子六五%とさらに女子雇用の比率が高くなっている。また、導入企業は、一般に新規学卒者や若い技術者を選択する場合が多く、農村地域の潜在的失業者である中高年齢者の就業希望者が就職できない等の状況をつくり出している。第三は、工業用地と優良農地との競合である。工業用地は交通の便等の立地条件から優良農地を希望する場合が多く、優良農地の確保との調整が問題どなる場合が多い。また、誘致企業の買収地価は、農業の収益還元地価を上回る場合が多く、そのことが周辺農地に波及して、規模拡大を志向する農家に対して不利に作用する場合がある。

表用1-32 農村地域市町村の地方生活経済圏別一覧

表用1-32 農村地域市町村の地方生活経済圏別一覧


表用1-33 農村地域工業導入実施計画の策定状況(昭和60年3月31日現在)

表用1-33 農村地域工業導入実施計画の策定状況(昭和60年3月31日現在)


表用1-34 農村地域工業導入実施計画策定の動機

表用1-34 農村地域工業導入実施計画策定の動機


表用1-35 農工法に基づく工業導入状況(昭和60年9月1日現在) 1

表用1-35 農工法に基づく工業導入状況(昭和60年9月1日現在) 1


表用1-35 農工法に基づく工業導入状況(昭和60年9月1日現在) 2

表用1-35 農工法に基づく工業導入状況(昭和60年9月1日現在) 2


表用1-36 市町村別実施計画の諸目標に対する実態(用地面積及び出荷額)

表用1-36 市町村別実施計画の諸目標に対する実態(用地面積及び出荷額)


表用1-37 市町村別実施計画の諸目標に対する事態(就業者数)

表用1-37 市町村別実施計画の諸目標に対する事態(就業者数)