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愛媛県史 民俗 上(昭和58年3月31日発行)

 現代はまさに転換期である。かつてない豊饒であるにもかかわらず不信と不安がつきまとい、新しい価値とヴィジョンが切に求められている時代である。
 「最良の予言者は、過去である」といわれるように、未来への道標は、歴史を探究することによってのみ、見出されるものである。とりわけ、転換期における新たな胎動は、常に地方から起こったという歴史的事実に鑑み、地域史こそ歴史の主軸であると言っても過言ではないと思う。
 われわれの伊予の国、愛媛は、古来我が国の文化と経済の動脈であった瀬戸内海と霊山として崇敬されてきた石鎚の山なみにいだかれ、独自性に満ちた歴史を展開してきた。この歩みと流れの跡をたどり、未来の可能性を見出すとともに、来るべき時代の個性ゆたかな発展のための新しい地図を描いてゆくことは、現在の愛媛に生きる者の責務ではないかと思う。
 昭和五四年の夏に着手した県史編さん事業は、県民の皆様をはじめ多くの方々の御協力を得て順調に進行し、昨年二巻を刊行したが、本年は部門史二巻(地誌I・民俗上)と、資料編二巻(古代中世・文化2)の計四巻を刊行する運びになった。
 本書は部門史民俗(上)で、衣食住、生業、交通、信仰など庶民生活の来し方を民俗学の面から取り上げた。ハレ(晴)とケ(褻)の生活、さまざまな農耕儀礼や漁法、むらのくらし、金毘羅道や遍路道、行商や市、祭祀や御霊信仰、憑きものなどに及んでいる。こうして現代生活の中で、忘れられようとしている祖先の生活のあとを読みとっていただければ幸いである。
 おわりに、執筆された部会長の野口光敏先生をはじめ委員の諸先生、また貴重な資料の御提供や有益な御教示をいただいた方々に心から謝意を表する次第である。
  昭和五八年三月
                          愛媛県知事 白 石 春 樹