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愛媛県史 民俗 上(昭和58年3月31日発行)

五 補説

 この節においては、褻の食事・晴の食事・祭りの食事をとりあげ、祝儀の食事にふれた。「食事」の記述事項としてこ のほかに、貯蔵「温・冷・乾・塩蔵、桶・樽・櫃・甕・叺・俵などの用具)、炊事(臼・杵など穀類精製、鍋・釜・甑・ 蒸籠・笊・籠・柄杓などの炊事用具)、醸造(酢・味噌・醤油など)、製造(豆腐・蒟蒻など)、調理(塩・砂糖・油・香辛料などの調味料、俎板・包丁・擂鉢・焙烙など調理用具)、食膳・食器などがある。加えて郷土料理や特産品としての伝統的な銘菓・銘酒などや、忘れられがちな駄菓子類にも目をそそがねばならないが紙幅の関係で略さざるをえない。
 日常の食事は文字どおり繰り返される茶飯事であるがゆえに特に記録されることが少なく、文書によって系統的に伝えられることはまれである。しかしながら散見点在する記事を集約することによりその姿をおぼろげながら想像することはできる。資料を集積分析することによって食事の変遷を確認し、その実態を再現することが必要である。例えば「旅の食事」もそのひとつである。二、三の断片的な資料をかかけてこの節のむすびとする。
 旅の食事〔大名巡視〕安政五(一八五八)三月一九日卯刻、松山藩主松平隠岐守勝重は領内巡視のため松山を発し、二三日夕刻御預所川之江に到着した。本陣郷士長野惣左衛は……一、おかまど一つ 但二升焚位二つほど  一、七輪二つ但瓦角適例物大寸  一、水溜桶一つ 但四升桶位  一、小判型半ふう一つ  一、水荷内二つ 蓋付  一、御膳台一脚伹机にて可然  一、檜大まな板一面 但堅三尺 横九寸五分程 足なし  一、炭薪 よく乾きいるもの  一、塩 二升程……を準備するよう指示を受けた。献立は下記のとおりであった。夕御膳…鱠 うを・かき和  汁 ふき火殿身  平 くずし・玉子・くわゐ・椎たけ・すだれふ  香のもの  朝御膳…中皿 前魚  汁 三つ葉・あられ豆腐  平 わらびな・椎たけ・さかな  香のもの 味噌漬  お昼弁当…いりつけ 玉子・干ぴょう・凍豆腐・くずし・粒椎たけ  香のもの   〔奉行御検分〕寛政三(一七九一)年、奉行伊藤重右衛門外二八人。十月三日夕食…一、平皿 たけ・牛旁・ねぶか  一、汁 水菜  一、香物 大根葉づけ  一、めし 四日朝食…一、平皿 京菜・にもも・人蓼  一、汁 牛蒡   一、香物 なすび  一、めし〔讃州金毘羅宮御参詣〕文久二(一八六二)戌年三月四日~二三日。(吉田藩町医者「岡太仲旅行手控」・吉田郷土史研究会芝 正一校訂)〈四日〉(東多田村古谷綱左衛門宅) 膳飯 平 肴切身につけ  汁 しゐ竹・かまぼこ  小皿 香のもの。五日、朝飯=飯 平山芋・人参かまぼこ・焼とふふ・椎茸  小皿 ならづけ、昼食=(大洲中村垂井様)膳飯 平 かまぼこ・つるし大根・とふふ・椎茸  小皿香のもの 御酒肴鉢 みかん・かまぼこ・焼いか・焼魚  鉢 すゞけ赤大根、夕膳(旅籠よしや)=飯 平 あぶらげ・こんにゃく・牛蒡・菜こぶ  汁 つミ入肴  小皿 香のもの。〈六日〉よしや朝飯=平 あぶらげ・推茸・しらがこぶ  汁身□も□  小皿 菜づけ  昼食(中山町島五宅)=飯 平 しらがこぶ・うつふ・椎茸  小皿 菜、夕膳=(郡中米屋伊介宅)飯 平 しらがこぶ・ふ・切身  汁 とふふ少々  小皿□□。〈七日〉郡中米井朝食=平 玉子とじ・椎茸・かつぶし  汁とふふ  猪口 よめな・はり  小皿 香のもの、昼膳=(田のくぼ村にし田屋)平 菜・ふ・大根・肴  小皿 香のもの、夕飯=(土谷村茶七宅)平 切こぶ・ふ・肴ぼら  猪口 よめなはり  汁 身なし  小皿 香のもの。〈八日〉(茶七)朝飯=平 菜つとう・づふ小皿 香のもの、昼食=(大頭村松岡屋)膳飯 平 ふ・つと菜・むすびこぶ  小皿 香のもの、夕飯=(大町田のや)平 ぼら・こんぶ・人参・かんぴよう・ふ  坪 こんにやく白あへ  汁 入ものしらず  小皿 香のもの。〈九日〉田のや朝飯=平 切こぶ・ぼら・茶椎茸  皿 に付・氷ごんにやく・こぶ  小皿 香のもの、関の戸辰巳屋、昼食 飯 平 ふ・つと・干大根  皿 こんにやく  小皿 香のもの、夕膳=(豊田の宿あづまや)飯 平 こぶ・肴切身・菜・にんじん  猪口 したし  汁とふふ  小皿 香のもの。〈十日〉朝吾妻屋=飯 平 こぶ・玉子・ふ  汁 とふふ  小皿 香のもの、昼食=(川之江かどや)膳飯 平な・かまぼこ・婦  皿 ねぎすあへ、夕膳=(和た浜あたらしや)飯 平 肴切身・ふ・こぶ  汁 身不分  小皿 香もの。〈十一日〉新屋朝膳=飯 平 ふ・こぶ・椎茸  汁 身なし  小皿 香もの、昼食=(長瀬米屋長兵衛宅)飯 平 ふ・菜・椎茸  皿口あへ  小皿 香もの、夕膳=(金毘羅町虎屋)飯 平 肴切身・椎茸・ふ  猪口 何やらわからず  汁 とふふ  小皿 香もの。〈十二日〉朝飯=(虎屋)飯 平 とふふ一しな  皿 なます  小皿 香もの、昼食=(善通寺町西内田屋仁右衛門宅)飯 弁当持参  平 大根・氷とふふ  猪口 なしたし  皿 イヽたこに付  小皿 香もの、(観音寺丁字屋)夕飯=平 かまぼこ・菜油あげ  皿 にまめ・す付  小皿 香もの。〈十三日〉朝膳=飯 平 八盃・とふふのりかけ  汁 わかめ  小皿 香もの、和田浜新屋昼=平 八盃・とふふ・しらす  小皿 香もの、夕膳=(関の戸あたらしや新左衛門宅)飯 平 肴切身・こんにやく・菜・里芋  汁 とふふ少々  小皿 香もの。〈十四日〉御飯=飯 平 牛旁・干大根・かまぼこ・油あげ  汁とふふ  小皿 香もの、(昼食記載なし)、夕膳=(大頭町大和屋豊八宅) 飯 平 つと菜・焼とふふ  汁 身なし  皿 肴に付  小皿 香もの。〈十五日〉朝飯=平 八はひ・とふふ  汁 身なし  小皿 香もの、昼食=(川上町志満屋喜十良宅)飯 平 ふつと・とふふ  小皿 香のもの、夕膳=(道後冨屋喜平宅)飯 平 汁 小皿 御精じん也。〈十六日〉(御逗留、尤十九日迄)飯 皿 にまめ  小皿 香もの 此日の九ツ時より手賄と相成ル。昼御飯=汁 とふふ  小皿 香もの 御滞留中膳部同断之事略之。〈十九日〉(郡中米屋伊助宅)夕=御膳 飯 平 ふ・切こぶ・肴切身  皿 わかめ・肴  小皿 葉付。〈廿日〉朝膳=飯 平 しゐ竹・竹の子・わらび・氷こんにゃく・かまぼこ  汁 とふふ  皿 よめな・はりはり  小皿香もの、昼食=(中山島五宅)弁当 平 新わらび・かまぼこ・油上  小皿 香もの、夕膳=(内の子よしゃ弥太郎泊)飯 平 てんぷら・わらび・干大根・椎茸・焼とふふ  汁 つるし大根  小皿 香もの。〈廿一日〉朝飯=平 干大根・とふふ・かまぼこ・竹わ  汁 とふふ  小皿 香もの、昼食=(大洲垂井にて酒宴)御馳走種々にてこれを略す、夕膳=(東多田村庄屋古谷綱左衛門宅)飯 平肴切身・午旁・椎茸  汁 とふふ・根深・かまぼこ  小皿 香もの  膳後御酒出ル 肴 ぬた・丸ずし・指身・盛合。〈廿二日〉古谷氏朝食=平 鯛に付一切  猪口 ちさしたし  小皿 香もの、卯の町塩屋昼食 飯=平 新わらび・竹の子・とふふ・肴切身  小皿香もの。