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愛媛県史 教 育(昭和61年3月31日発行)

解説

 愛媛の教育の伝統は、どのように形成されてきたか。明治の新教育制度下での推進の経緯、終戦後の民主教育への移行など、時代に即応して変遷を続けている。しかし、その根本理念においては、確たる不変の何かがあった。
 近世、伊予八藩においては、子弟の教育を重視して、各々藩校を設置した。今から二四〇年前の大洲をはじめ、宇和島・新谷・吉田・小松・松山・西条・今治の順で、一八〇余年前には各藩でその実績をあげるようになった。東から藩校名と設置年時をあげておこう。
西条択善堂        文化 二年(一八〇五)
小松培達校        享和 二年(一八〇二)
  養正館(改称)    享和 三年(一八〇三)
今治講書場(克明館)   文化 二年(一八〇五)
松山興徳館        文化 二年(一八〇五)
  明教館(改称)    文政一一年(一八二八)
大洲 止善書院 明倫堂  延享四年(一七四七)
新谷求道軒        天明三年(一七八三)
吉田時観堂        寛政六年(一七九四)
宇和島内徳館       寛延元年(一七四八)
  明倫館(改称)    文政二年(一八一九)
 近世中期から後期にかけて、各藩学は儒学を主として、武家の子弟の教学の中心となったし、明治五年の学制頒布によって、その後主として中学校設置の地となった。その他に国学・和歌・俳諧・洋学などがあり、庶民教育に心学が普及し、各町村においては寺子屋が教育の場となった。
 近世の教育については、大正一三年一〇月刊行の愛媛県教育会編『愛媛県教育史 前篇』に各藩の教育関係の史実を述べているが、明治以降の教育史を予定されていた後篇は終に陽の目を見なかった。
 愛媛県教育委員会は、学制頒布百年記念事業の一つとして、昭和四一年に着手し、同四六年三月『愛媛県教育史』四巻を出版した。各巻約一〇〇〇頁に及ぶもので、近世の藩政時代から、戦後昭和四〇年までの長期間にわたり、厖大な資料を綿密に検討し体系化した。各巻の内容は次のとおりである。
  第一巻 近世・近代(明治期)
  第二巻 近代の続篇(大正・昭和前後)
  第三巻 戦後(終戦時~昭和四〇年)
  第四巻 資料篇
 これら四巻は、愛媛教育の実態を知る上で、第一の基本資料となるもので、今後もこれを凌駕する著書は容易にできないであろう。しかし、本書は制度史中心に構成されており、教科関係については省筆されているので、今後補巻を必要としている。
 前年八月、玉川大学出版部から『日本新教育百年史7中国四国』が刊行された。愛媛県の部は、一章愛媛県の教育の伝統 二章愛媛県教育の基礎時代 三章大正・昭和前期の新教育 四章戦後の教育 補遺―落穂ひろい―として、各時期に活躍した教育者人物伝中心に構成している。
 その後、昭和五五年九月、『愛教研二十年のあゆみ』が出版され、各教科等の研究のあゆみとして、
一、国語 二、社会 三、数学 四、理科 五、音楽 六、美術 七、保健体育 八、技術家庭(中)九、家庭(小)一〇、英語 一一、道徳一二、特別活動 一三、学校図書館 一四、視聴覚教育 一五、特殊教育 一六、同和教育 一七、統計教育 一八、生徒指導 一九、進路指導  二〇、学校保健
に分類し、三八五ページに叙述しているが、戦後の二〇年間である。明治初期までさかのぼっていないし、教科においても、職業科その他追加すべきものがある。
 愛媛県における教育史についてまとまった著述としては、以上のようなものがある。その他、『鳴雪自叙伝』をはじめ諸家の伝記や思い出の記などには、聞くべき説が少なくない。
 さて、愛媛県史四〇巻のうち、部門史「教育」はわずかに一巻であるが、明治初期以降の教科史を中心にまとめることにした。教科ごとに探求するには、執筆適任者の選任とその教科等の調査に相当の時日を要した。審議の結果、各教科の変遷の基調となるような簡明な制度史で全体を概観し、各教科その他の項目を次のように設定した。

 第一章 教育制度史概要 一、募末・明治維新期の教育 二、近代学校制度の発足(明治五年~) 三、近代教育制度の確立(明治一九年~) 四、学校教育の整備(明治三三年~) 五、教育の拡充(大正初期~) 六、戦時体制下の教育(昭和六年~) 七、戦後の教育改革(昭和二〇年~) 八、新教育制度の進展(昭和三〇年代以降)
 第二章 教科等教育史
  第一節 教科教育 一、。国語科 二、書道 三、。社会科 四、。算数・数学科 五、理科 六、音楽科 七、美術(図画・工作)科 八、保健体育科 九、技術・家庭科 一〇、。家庭科 一一、農業科 一二、工業科 一三、商業科 一四、水産科 一五、看護科 一六、英語科 一七、修身・道徳 (右肩の。印は初等教育・中等教育にわかつ)
  第二節 教科外教育 一、特別活動・生徒指導 二、学校図書館 三、視聴覚教育 四、同和教育 五、進路指導 六、学校保健
  第三節 特殊教育
  第四節 幼児教育
 第三章 社会教育史 一、通俗教育期(啓蒙と社会教育) 二、自主化振興期(大正デモクラシーと社会教育)三、教化動員期(戦時下の社会教育) 四、戦後期(民主主義と社会教育)
 第四章 郷土教育史 一、郷土教育の動向 二、郷土教育の趨勢

 右のように、四章にわかち、それぞれの内容を細分し、新しい体系のもとに構成することとした。
 更に「付録」として、各市町村に最初に設置された小学校、戦後の中学校・高等学校などは、市町村の文化の源泉となるものなので、当時の状況のままに表示し、教育団体の機関誌などの一覧を添え、教育史略年表で締めくくった。右の構想にも多少の新風があるし、従来の著書の誤りも訂正した。なお、愛媛県の教育文化遺産である「開明学校」の項も設けた。
 本書の特色は、第一章の時期分類に応じて、第二章以下各項について主として叙述し、三〇余人の執筆者が、それぞれの専門分野について、資料を博捜し、初めて各教科史などをまとめたことである。しかし、紙幅の制限のため、十分論述しえなかった憾がある。ただ、それぞれの歴史を跡づけたことから、本書を起点として、更にすばらしい成果となることに期待し、各教科の将来への指向にも役立てて頂ければと願っている。
 東宇和郡宇和町の開明学校には、明治以降終戦時までの小学校教材の掛図・教科書を多数収蔵している。昨年暮、国立教育研究所教育史料調査室長佐藤秀夫氏によって、掛図の蒐集は「日本一」との折紙をつけられ複製が企画されている。本書の巻頭や文中に随時挿入しているので、活用されたい。
(文化部会長 和 田 茂 樹)