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愛媛県史 教 育(昭和61年3月31日発行)

九 技術・家庭科

 実業教育の創始

明治一九年(一八八六)に小学令が制定され、それに基づいて小学校の学科やその程度が定められたが、それは高等小学校の学科としてその土地の情況によっては英語・農業・商業の一科もしくは二科を加えることができるようになっていた。同二三年の改正では実業関係の科目が提示され、尋常小学校でもこの時から手工を課することができるようになった。
 その後「小学校教則大綱」が定められ、尋常小学校の教科に手工を加えるときには、紙・糸・粘土・麦藁等を用いた簡易な細工とか、高等小学校の教科に手工を加えるときは、紙・粘土・木・竹・銅線・鉛等を用いた簡易な細工とか、更に農業を加えるとき、商業を加えるときなどの教科目の大綱が示された。
 同四四年の改正では、加えることを本体としながらも随意科目になっていた実業教育関係の教科目の手工・農業・商業を必修科目に改め、しかも配当時間を増加して高等小学校本来の目的を貫徹しようとしたが、大正八年の改正によって再び実業教育関係の教科目が随意科目、選択科目になった。
 ところが大正一五年には高等小学校における実業教育の発展を意図し九大改正が行われたが、このことは大変重要な意義を持つものであった。そのことの第一は、実生活に一層適切なものにしようとした点で、算術において珠算を必修にしたこと。第二は、従来の必修の外に、図画・手工および実業を必修とし、更に家事も必修にしたり、手工で女子には簡単な手芸を加えるようにしたこと。第三には、これまで小学校では実業という言葉を使わないで、手工・農業・商業というように並列させていた教科目を一つにまとめて実業と呼び、手工は実業の外に出して一応共通に学ばせることにし、実業の中には手工の代わりに新しく工業を設けたことである。
 その後国民学校の高等科では、必修としての実業科を置いたが、注目されることの第一は、実業科工業を課する場合には、芸能科工作は適宜これを併せて課することができるようになっていたこと。また実業科農業を課さない場合には、毎週適当な時数を農耕的戸外作業にあてることになっていた点てある。従って国民学校高等科の実業科の内容は選択必修的で、教科課程は、次表のようであった。

 職業科の設置

 戦後の教育改革によって小学校六か年に引き続き、三か年の義務制の中学校が発足したが、同時に中学校には職業科が設置された。当時の職業科は従来の国民学校高等科や、旧制中学校の実業科の性格・内容を引き継いだきらいがあり、また国民学校高等科で独立教科であった家庭科は、新しい制度の中学校では職業科の中の一つの教科となって農業・工業・商業・水産・家庭などの一分野を履修させるようになっていて、特定の産業分野の技術中心の実業教育的な色彩が濃厚であった。そのため、職業科は卒業後直ちに
職業生活に進む者のための職業準備のように考える傾向が強く、次第に職業科軽視の風潮が広がり、この教科の在り方が新しい中学校の姿にそぐわない実情となってきた。
 職業・家庭科

そこで昭和二四年(一九四九)文部省通達によって、職業科は従来のように農業・工業・商業・水産・
家庭などの一分野だけを学習さぜるのではなく、数分野にわたって学習させるという全く新しい教科としての職業・家庭科の大綱が示された。それは教科の性格・目標・教育内容・教育計画の基準の大筋であったが、その内容は教科の教育課程における位置、職業指導との関係、国が示す教育内容と各学校の教育計画との関係などを明確にするため、次の三つの基本的性格を掲げている。
 一 中学校における職業・家庭科は、実生活に役立つ仕事を中心として家庭生活・社会生活に対する理解を深め、実生活の充実発展を目ざして学習するものである。
 二 職業・家庭科の仕事は、啓発的経験の意義をもつと共に、実生活に役立つ知識・技能を養うものである。
 三 職業・家庭科の教育内容は、地域社会の必要と、学校や生徒の事情によって特色をもつものである。
 やがて、同二六年に改訂学習指導要領によって教育内容が明示されたが、それは「仕事」「技能」「技術に関する知識・理解」の四つから成り立っており、従来の談業・工業・商業・水産・家庭の内容を解体して実生活に役立つ仕事を技能との違いに基づいて、次のように四類一二項目に分類して示された。
   一 類    栽 培 ・ 飼 育 ・ 漁 ・ 食 品 加 工
   二 類    手 技 工 作 ・ 機 械 操 作 ・ 製 図
   三 類    文 書 事 務 ・ 経 営 記 帳 ・ 計 算
   四 類    調 理 ・ 衛 生 保 育
 この分類は、仕事を中心にして家庭生活・職業生活に望ましい資質を育成するための新しい組織がつくられたもので、必修として各学年とも年間一〇五~一四〇時間(週三~四時間)、また選択としても同様の時間数が定められた。

 新教科の問題点

学習指導要領には教育計画の基準として、各学年で学習する仕事の類と、時間が示され、仕事はその項目の中から社会の必要や学校の実情に応じて適当なものを取り合わせて、広い仕事の経験が得られるようになった。例えば、第一学年では四分類六項目、第二学年では二分類四項目、第三学年では二分類三項目以上にわたる教育計画の基準や、課程の例として農村男子向き・女子向き、商業地域の男子向き・女子向きなどが示され、単元の主眼・構成・運営についての解説がなされた。
 職業・家庭科の特色は、農業・工業・商業・水産・家庭などそれぞれ独立している教科体系を解体して、新しく一つの教科に再編成し、仕事を中心にして啓発的経験をもたせ、地域や学校、生徒の実情に応ずるようになされたことであるが、教育現場では指導力や施設・設備の乏しいままに指導の困難な教科とされた。特に教科の性格・目標が十分に理解できなく、従前の指導を踏襲する者、技術本位の教育を行っている者、職業指導的な啓発的経験や職業情報の提供を主とする運営を目指している者などさまざまな傾向があらわれ、新しく発足した職業・家庭科は仕事中心にした学習を導入する方向にむかったが、実際には望ましい具体的な目標に到達するまでには及ばなかった。

 教育内容の改訂

 やがて次第に社会的経済的にも国情が変わってきて、教育全般について検討を加える必要が生じてきた。特に戦後の産業教育は一般教育に比べて貧弱な態勢にあることから産業教育振興法が制定され、この法律に基づいて発足した産業教育審議会で我が国の産業教育の在り方を種々検討が加えられることになったが、中学校職業・家庭科についても検討が加えられ、昭和三〇年に学習指導要領が公表され、職業・家庭科の性格が次のように改訂されるに至った。

一 職業・家庭科は、生活における経済的な面、技術的な面、社会的な面に対する知識・理解・態度を主として実践的活動を通して学習するものである。
二 職業・家庭科の教育は、将来いかなる進路をとる者にとっても必要な一般教養を与えるものであるから、共通に学習すべき面をもつものであるが、具体的な指導計画では性別や環境等により特色をもつものである。
三 職業・家庭科における産業ならびに職業生活・家庭生活についての社会的経済的な意義の理解や、基礎的な技術の習得、基本的な生活活動の経験は、職業生活における情報及び啓発的経験に役立つものである。
 以上のように改訂された職業・家庭科は、従来のものと比べて内容を厳選して基礎的なものが身にっくようにされたこと。内容の組織は教れの性格の第一項を前提として、六群二二分野五二項目に分類され、基礎的な技術、基本的な生活活動、これらに関する技術・活動についての知識・理解や社会的径済的知識・理解などの指導の計画が立てやすくなったこと。男女の生徒が共通して学習する内容と時間を明確にしたこと。指導計画の学年別基準を廃して弾力性を増したことが特徴である。

 科学技術教育の振興対策

第二次世界大戦後の世界的現象である科学技術の急速な進歩と産業の発達はようやく我が国においても固有の諸条件と相まって経済の高度成長をもたらし、その過程を通じて産業構造や就業構造にも画期的な変化が現れはしめた。これにともない科学技術教育の規模の拡大とその水準の向上が各方面から強調され、その振興方策に関する緊急措置の要望が高まってきた。こうした事態に対応して文部省は中央教育審議会に対し科学技術教育の振興方策について諮問を行い、同三三年三月にその答申を得た。
 このような経過をたどり、中学校教育課程に科学技術教育の向上を図るという基本方針に基づいて、必修教科としての「技術科」及び進路・特性に応ずる教科を強化するという基本方針に基づいて、選択教科としての「農業科」「工業科」「商業科」「水産科」家庭科(総称して「職業に関する教科」という)が新設されることになった。その答申のうち関係部分を引用すると次のとおりである。
  一 現行の職業・家庭科を改め、これを図画工作科において取り扱われてきた生産的技術に関する部分と合わせて技術科を編成すること。
  二 内容に二系列を設け、男子向きには工的内容を中心とする系列、女子向きには家庭科的内容を中心とする系列を学習させること。
  三 理科との関連において内容を精選し、系統的学習ができるようにすること。
  四 技術科教育の効果を高めるため、教員養成と現職教育の強化徹底を図り、施設・設備の整備に努める必要があること。
  五 現行の選択教科としての職業・家庭を改め、農業科・工業科・商業科・水産科・家庭科とし、必要に応じてそのうち一つ以上を履修させるようにすること。そして職業生活または家庭生活への準備的な教養について、その基礎的なものを身につけさせるようにすること。
  六 第三学年においては、生徒の進路に応じ、必要とする者のために、現行よりもさらに多くの時間数を充当できるようにすること。
 以上のような答申に基づいて、教科の名称を「技術・家庭科」と改め、同三七年一〇月に中学校学習指導要領が公示され、新教科として発足することになった。

 技術・家庭科

学習指導要領に掲げられている技術・家庭科の目標及び内容、授業時数は次のとおりである。
一 生活に必要な基礎的技術を習得させ、創造し生産するよろこびを味わせ、近代技術に関する理解を与え、生活に処する基本的な態度を善う。
二 設計・製作などの学習径験を通して、表現・創造の能力を養い、ものごとを合理的に処理する態度を善う。
三 製作・操作などの学習経験を通して、技術と生活との関連を理解さぜ、生活の向上と技術の発展に努力する態度を養う。
四 生活に必要な基礎的技術の学習経験を通して、近代技術に対する自信を与え、協同と責任と安全を重んじて実践的態度を善う。

 設備の充実

技術・家庭科並びに職業に関する教科は、実践的な活動を通して学習させることであるだけに施設の有無が教育の成否に重大な影響を及ぼすことになる。従前の職業・家庭科の設備は、文部省の毎年指定する産業教育研究指定校の設備の充実に限り国の助成が行われていたが、昭和三五年当初における技術・家庭科に移行すべき設備の充実状況は極めて劣悪であった。そこで文部省はとりあえず「中学校技術・家庭科設備充実参考例」を作成し、中学校の設置者に対し、各学校が技術・家庭科の実施に備えて充実すべき設備の努力目標を示すとともに、これに基づいて同三五年から三か年計画で従前の産業教育研究指定校を除く総ての学校を対象として最少限必要な設備の充実を目途とする国の助成が行われた。
 しかし、これらの措置はあくまで技術・家庭科の設備に対する緊急充実を目途としたものであるから、各学校が学習指導要領に示されている指導内容を完全円滑に実施するためにはなお不十分であった。そこで第二次緊急充実計画を推進することになり、同三八年に「中学校技術・家庭科設備充実参考例」を改訂し、新たな努力目標を設置者に示すとともに、これに基づいて全国公立中学校を対象として基準総額の七〇%の充実を当面の目途とする助成を行うことになった。またこのことに関連して技術・家庭科の設備の現有・充実・廃棄の状況を記録し、設備の適性な管理及び充実計画の樹立に資する目的をもって各公立中学校ごとに「技術・家庭科設備台帳」が備えつけられることになった。

 現職教育の充実

教育の効果は何よりも教師の人格と指導力のいかんにかかっており、現職教育を継続的・多面的に実施することは極めて重要なことである。技術・家庭科及び職業に関する教科にとって特に関係深いものをあげると次のとおりである。
 〈中学校教育課程(技術・家庭科)研究協議会〉 同三七年度から改訂された教育課程が全面実施されるのに備えて、改訂教育課程の趣旨の徹底と実技に関する指導力の向上を図るため、従前の職業・家庭科または図画工作を担当し、将来技術・家庭科を担当する総ての教員を対象として同三四年から三か年計画で各都道府県ごとに男子向き一二日間、女子向き四日間ずつ実施した。なおこの研究協議会に参加した男子向き教員のうち、既に「職業」「図画工作」の普通免許状を有している者に対しては、経過措置として「教育職員免許法の一部改正」によって新設された「技術」の二級普通免許状が授与された。
 〈中学校技術・家庭科実技研修〉 技術・家庭科を担当する教員を対象に実技に関する指導力の充実向上を図る目的で同三七年度から毎年開催されるもので、各都道府県ごとに一部会四日間の会期で実施されている。
 〈中学校教育課程研究集会〉 中学校の改訂教育課程の実施に伴う指導上の諸問題について研究協議し、担当教員の指導力の向上に資する目的で、同三七年度から毎年都道府県ごとに開催されているもので、技術・家庭科については「男子向き」「女子向き」の二部会に分かれて実施された。
 〈産業教育指導者養成講座〉 産業教育を担当する教員を対象として、時代の進展に即した知識・技能を習得させ、指導者として資質の向上を図る目的で毎年文部省主催で実施された。

 昭和四七年度学習指導要領改訂

 科学技術の高度の発達、経済・社会・文化などの急激な進展にはめざましいものがあり、技術・家庭科教育の果たすべき役割はますます大きくなってきた。このような事態に対し、教育内容の向上を図るとともに、従来の実施の経験にかんがみ、生徒の必要や学校の実態に適合するように技術・家庭科の改善を行う必要が生じてきたが、基本的には人間形成の上からみた技術・家庭科の性格を明確にし、中学校教育全体における位置づけを検討する必要があった。
 改訂された技術・家庭科の性格は、主として小学校の図画工作科や家庭科の基礎の上に立つとともに、いっそう技術的・実践的に活動できるようにし、生活に必要な基礎的技術を習得させることをねらいとしている。そのため、生徒の主体的・創造的な実践的活動を通してものを作る喜びを味わわせながら、計画・製作・整備などに関する技術の基礎を習得さぜることをいっそう重視した。そしてこのような活動を通して家庭や社会における技術と生活との密接な関連を理解させ、生活を明るく豊かにするために、技術を正しく活用できるようにし、家庭・社会・国家の形成者として必要な資質を養うことに寄与しようとすることが強調されたのである。なお、技術・家庭科の年間標準授業時数は各学年ともに一〇五時間とすることになった。

 学力検査

 新教育課程及び学習指導の改善のためには、科学的・実証的な資料に基づいて教育内容を検討し、新しい教育課程の編成に役立てたり、日常の授業を吟味したりすることは極めて大切なことである。そのため文部省は長期にわたって全国学力検査を実施してきたが、同四一年度には技術・家庭科も調査対象教科となり、第一学年・第二学年における指導事項について、実習を通して習得された知識・理解の状況を把握することに主眼が置かれたものであった。従って調査問題は単なる知識だけでなく、理解の深さや応用力、考え方等を見ることができるよう配慮され、更に男女による学力の相違についても見られるように、「男子向き」「女子向き」に共通する問題が出された。
 「男子向き」「女子向き」ともに全国平均並であり、「男子向き」を項目別にみると、平均正答率の高い方から「設計製図」「機械」「金属加工」「木材加工」「栽培」の順になっていた。また、「女子向き」は、「設計製図」「家庭機械」「家庭工作」「被服製作」「調理」の順になっていた。

 研究指定校

中学校教育課程研究指定校は、時代の進展や社会的諸条件に即応して教育課程の改善を図ったり、改訂された教育課程の円滑な実施を図ったりする目的をもって、同四二年度から設置されたが、技術・家庭科についても同年度から発足し現在に至っている。例えば本県では同四四年、四五年度に東宇和郡宇和町立宇和中学校が文部省指定校となり、男子向きでは「機械・電気における製作学習の指導はどのようにした
らよいか」、女子向きでは「住居・食物の指導はどうしたらよいか」、男女共通として「学習の評価及び日常生活における消費に関する知識の指導はどのようにしたらよいか」を研究主題として主体的な研究に取り組んだ。その後上浮穴郡柳谷村立柳谷中学校等、多くの学校が指定校となり、その成果を公表するほか、県単位でも研究指定校を設けたり、また同三六年度より毎年愛教研研究大会技術・家庭科分科会の開催による研究成果の公表が同四六年度まで行われた。

 昭和五五年度学習指導要領改訂

中央教育審議会は同五三年(一九七八)に「教育課程の基準の改善について」審議のまとめを発表したが、これに基づいて技術・家庭科についても改善の基本方針が出された。すなわち小学校・中学校・高等学校を通じて実践的・体験的な学習を行う教科としての性格が一層明確になるように留意して内容の精選を行い、その構成を改善する。その際中学校においては「男子向き」の履修方法を一層密接にするとともに、地域や学校の実態及び生徒の必要に応じて内容を弾力的に取り扱うようになった。
 新学習指導要領で示された教科の目標は従前の総括目標そのものが本質的に変わっては
いないが、次の点が特に重視されるようになった。
 (一) 「生活に必要な技術」の考え方の範囲や程度を産業に必要な技術とか、生産に必要な技術というとらえ方でなく、あくまで家庭や社会における生活活動を充実発展させる目的の最適化に「技術」は貢献すべきものであるというとらえ方であり、その内容は将来役に立つという視点よりも、生徒の人間形成上有効であり、適切であるということ。
 (二) 技術と生活とのかかわりあいを正しく理解し、生活の見方や考え方、さらには行動の仕方を技術の習得を通して身につけるようにしているが、とかく技術の自然的な側面のみが重視されがちであるが、人間尊重・生活優先の立場に立って技術の目的をとらえること。
 (三) 生徒の主体的な実践活動を土台に、創造的に問題解決に当たらせ、成功感や成就感を体得させるなど、体験を基盤として自己理解を深め、自己実現の意欲を向上させること。

 内容の再構成

 技術・家庭科は発足当初から「男子向き」「女子向き」の二つの学習系列が設けられていたが、今回の改訂では「男子向き」「女子向き」の内容上の重複を整理して再構成し、男女の別をやめて内容を定め、それぞれの中から各学校が男女生徒の興味・関心、能力・適性等を配慮しながら、適切な領域を選択して履修させることになった。したがって領域は男子向き、女子向き、学年別に示すのではなく、領域を整理統合し、各領域ごとに目標と内容を示すとともに、分割して指導上のまとまりをもたせるようになった。
 (一) 領域は、A 木材加工(一)・(二)、B 金属加工(一)・(二)、C 機械(一)・(二)、D 電気(一)・(二)、E 栽培、F 被服(一)・(二)・(三)、G 食物(一)・(二)・(三)、H 住居、I 保育
 (二) 履修方法は、男女いずれの生徒にも地域や学校の実態及び生徒の必要、並びに男女の相互理解と協力を図ることを十分考慮して前記一七領域の中から七領域以上を選択履修させることにしている。この場合、男子にはAからEまでの領域の中から五領域とFからIまでの領域の中から一領域。女子にはFからIまでの領域の中から五領域とAからEまでの領域の中から一領域を含めて履修させることを原則としている。

 選択教科の運用

 更に技術・家庭科は、第一学年から第三学年にわたる必修教科の外に、第三学年に標準授業時数三五単位時間の選択教科が新設された。技術・家庭科の前史的役割を果たした職業・家庭科にも同様の必修教科と選択教科とが設けられていたが、選択教科としての職業・家庭科は、生徒の興味や必要などを考慮して計画し、必修教科の内容を深化するとともに必修教科に用意されていない内容を取り上げることもできるとされていたが、選択教科としての技術・家庭科も、このような趣旨のもとで各学校において地域や生徒の実態をふまえ、適切な実習題材が取り上げられるよう内容の研究と運用を検討することが今後の課題と
なっている。

 研究発表大会

 技術・家庭科の発足を契機として、全国的な研究組織が誕生し全国を六ブロックに分けて具体的な研究活動を行うことになり、中・四国ブロックでも同三七年第一回大会を香川で開催して以来、海を隔てての積極的な研究が進められてきたが、同四二年度に第六回大会を愛媛で開催することになり、一〇月三〇・三一日の二日間松山市立拓南中学校を会場に「技術・家庭科における創造的思考力を高めるための実証的研究」を研究主題として研究を推進し、授業公開、研究発表等を行ったが、研究内容の概要は次のとおり
である。
 〈基本的学習過程の分析と学習方法訓練〉 「学習は生徒のもつ生活経験や既習事項に対する刺激とその反応の連鎖反応のくり返しにより高められる」を学習指導過程の基本形態として研究に取り組んだ。そして教科の本質的な学習の仕方として、四段階十分節による学習展開を図った。それは各分節における学習の仕方ともいえる学習方法訓練を明示し、「教え中心の授業」から「育て中心の授業」へと学習指導のあり方の質的変換を図るものであった。(各段階の学習方法訓練の目的・内容は省略)
 〈学力構造と内容の精選〉 基礎的技術の範囲と程度を、① 技術の理解に必要な用語・述語・記号の理解、② 技術に関する理論、③ 材料・用具・道具に関する知識・理解、④ 安全に関する知識・理解、⑤ 作業計画と工程に関する理解、⑥ 作業の正解さに関する知識、⑦ 社会とのつながりをもった理解、というようにとらえ、これを技術・家庭科の学力像として研究に取り組んだ。
 〈仮説と実証〉 研究に当たっては、特に事前研究を大事にすることとし、仮説による実証過程の中で評価・反省・修正を加え、更にまた実証していくことを研究の基本としたことは、研究主題にせまる具体的な方法となり、しかも科学的な研究資料を得ることになり、組織研究の充実発展の支えとなったことは確かである。
 〈教育観の確立〉 本県の技術・家庭科担当者にとっては、この中・四国大会は全県的な研究成果を初めて対外的に公表する絶好の機会であり、研究組織の総力をあげて対応することになり、各支部が研究領域を分担して研究を推進するとともに、松山管内を中心にした技術・家庭科担当者による授業研究組織を作り、毎週月曜日の午後を研究日として授業研究に没頭できたことは特筆すべきことであった。そしてこの研究を通して得た最大の収穫は「教師自らの主体性の確立」であり、教科教育に対する教育観・教材観・生徒観の確立であったといえる。
 同五一年度には、再度の第十四回申・四国地区大会愛媛大会を北条市立北中学校・伊豫市立港南中学校・川内町立川内中学校を会場に一一月一一・一二日の二日間、「自ら学ぶ力を育てる技術・家庭科の学習指導」を研究主題として開催した。研究内容は前回の中・四国地区大会の継続発展であり、生徒自らが学習に対して明確な目的意識を持ち、自らが解決のための計画を立て実践し、更に評価・反省するという教科本来の一連の学習活動を重視した研究であり、いわば生徒の主体的な活動による課題解決力・実践力の育成を図ろうとするものであった。なお全体会場(松山市民会館)を埋めつくした中・四国の参加者全員が最後まで微動もしなかったことは本県の技術・家庭科の研究成果の確かさに多大の関心を寄せていたからであろう。
 同五九年度には三度目の第二二回中・四国地区大会愛媛大会が松山市立東中学校・余上中学校・久米中学校を会場に一〇月一八・一九日の二日間、「自ら学ぶ力を育てる実践的・体験的な学習はどうあればよいか」を研究主題として開催したが、研究内容や研究方法はこれまでの成果の累積に加えて更に一人一人の生徒に学習の楽しさや喜びを体得させる学習指導の工夫と改善及び学習条件の充実を図るものであった。

 研究組織の活動

本県では同二七年に「愛媛県職業・家庭科研究会」を創設し、諸種の活動を通して職業教育の充実を図ってきたが、時代の進展に伴い「愛教研技術・家庭科委員会」として発足することになり、たび重なる教科の性格や内容の改正をみながらも戦後の技術・家庭科教育大系を確立し、実践的・体験的教科としての特色を持つに至った。なお研究組織の活動として例年実践研究を主体とした集録を編集刊行するほか、同五二年度より「技家だより」を発行し県下技術・家庭科担当教師の情報交換を行っている。

表2-49 国民学校高等科の実業科教育課程

表2-49 国民学校高等科の実業科教育課程


表2-50 改訂された教育内容

表2-50 改訂された教育内容


表2-51 各学年の内容と授業時数の標準

表2-51 各学年の内容と授業時数の標準