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愛媛県史 教 育(昭和61年3月31日発行)

1 戦前における水産教育

 水産補習学校と水産農業学校

 明治二六年(一八九三)、文部省が「実業補習学校規程」を公布し、科学・技術・実業の三者を一体とする教育の方針を出し、水産教育をその一環に組み入れた。愛媛県では、同三五年、南宇和郡西外海村福浦に福浦水産補習学校が設立され、同三八年東宇和郡高山村田之浜に田之浜水産補習学校が設立された。前者は南宇和郡立水産農業学校の設立と同時に廃止となり、後者は昭和一〇年(一九三五)まで存続し、同年高山青年学校が設置されその分教場となった。
 明治三四年(一九〇一)、文部省は「水産学校規程」を制定し、この時初めて水産教育が農業学校規程から独立したと言われる。本県では、明治四〇年乙種実業学校として、南宇和郡立水産農業学校が設立された。同校の設立趣意書には、南宇和郡海域における魚族の豊富さ、網漁業・鰹魚・サンゴなどの漁法の改良の必要性を挙げて、日露戦争後の義務教育の就学率の向上のなかで、郡立実業学校の必要が痛感されるようになったと述べている。しかし、水産科は、実地教授のための設備経費上の問題と生徒数の漸減によって明治四五年廃止となる。
 田之浜水産補習学校の創立当初の学則は「本校ハ水産業二従事シ、又ハ従事セントスル者ノ為に簡易ナル方法ヲ以テ水産業二要スル知識技能ヲ授クルト共ニ、小学校教育ノ補習ヲ為スヲ以テ目的トス」と規定し、修業年限は、本科の第一部三か年、第二部二か年とし、専修科はこれを定めていない。本科の科目は、修身・国語・算術・理科・水産・裁縫の六科目とし、専修科は修身・国語・算術・水産の四科目であった。水産科は、第一部では第一学年で漁船・漁具の種類構造及び使用法、水産製造、養殖の大意、第二学年で漁法、水産物貯蔵法、水産経済、第三学年で鮮魚運搬法と処理法、脇油漬缶詰法を教授している。第二部では、第一学年で漁船・漁具の種類構造及び使用法、水産製造、養殖の大意、第二学年で漁獲物処理運搬法、水産経済、水産学大意を、専修科では水産漁撈・製造・養殖等の実習及び理論を教授した。大正元年(一九一二)学則の改正により、前記の本科・専修科を廃止して本科及び別科を置き、修業年限は本科三か年、別科五か月とした。更に後の改正によって、目的を「本校ハ水産業二従事シ、又ハ従事セントスル者二対シ、水産業二関スル知識技能ヲ授クルト共ニ、国民生活二須要ナル教育ヲ為スヲ以テ目的トス」と改め、学校の編成も前期(尋常小学校卒業者)、後期(前期終了者と高等小学校卒業者)に区分し、修業年限も前期(男女)二か年、後期(男子)二か年とした。
 南宇和郡立水産農業学校の校則は、「本校ハ水産学校規定別科及農業学校規程乙種ノ程度二依リ、水産及農業二必要ナル教育ヲ施スヲ以テ目的トス」とし、修業年限は三か年、入学は男子のみとし、「一、学令満一四歳以上ノ者、二、品行方正ノ者、三、身体強健ノ者、四、高等小学校二箇年ノ課程ヲ卒業シ、若ハ中学校第二学年ノ課程ヲ修了シタル者、及之卜同等以上ノ学カアル者、五、水産若ハ農業二従事セントスル志望確実ナル者」としている。又、間口も広く水産補習学校よりやや高度の学校であった。水産科の教科内容は、全学年週授業時間数二七時間で、修身・読書作文・数学・地理歴史・理科・体操の普通教科のほかに、一学年は漁撈・水産動植物魚介藻養殖・水産学大意・二学年は漁撈及造船運用航海・食用水産動植物魚介藻養殖、三学年は漁撈及造船運用航海、船舶衛生、肥料工業薬剤用、水産動植物魚介藻養殖、経済簿記法規、実習であった。

 水産教員養成所

 昭和一二年(一九三七)、当時の県下の水産業や漁村の状況から水産教育の必要が認められ、宇和島市樺崎の県水産試験場に水産伝習部が設置され、旧制中学校・農業学校卒業者の中から入部させた。修業年限は二か年、教科は一般教科と水産教科で、卒業生は青年学校水産教員の資格が与えられた。
 昭和一四年、この水産伝習部を母胎として文部大臣の認可を得、水産科専任教員養成機関として県立青年学校水産教員養成所がこの水産試験場内(昭和一三年明倫町に移転)に開所した。同所は全国的にも珍しく、「青年学校教員養成所令二依リ、漁村青年学校教員タルベキ者ヲ養成スルヲ目的」とし、修業年限二か年。入学資格者は、師範学校及び中学校の卒業者で、青年学校教員への志望が確実な男子とした。生徒はすべて寄宿舎に入り、毎年予算の定める所によって一定の学資を支給し、卒業者の服務年限は二か年とした。卒業後は教育実習先の青年学校の教員になった者が多かった。しかし、昭和一六年、二年生は県立青年学校教員養成所の二学年に編入されて廃止となった。教科内容は、修身・教育学・心理学・公民・国語・作文・地理・歴史・水産通論・水産法規・漁携・養殖・製造・水産化学・航海術・運用術・海洋気象・水産生物・造船・機械・農業・実験実習であった。

 水産教育の地域的特色

 田之浜水産補習学校は創立後三〇年の歴史を持ち、地域産業の発展を水産業に求め、その発展のために水産教育を重視した強い意欲によって設立された。大正一一年(一九二二)、全国一万五千の実業補習学校中、同校は施設経営上優良学校として文部省より選賞された。教育は地域の水産業界や県水産試験場等との連携によりなされ、大正六年の第八回日本産業博覧会に出品した実習製品さざえ大和煮缶詰は一等に
入賞した。また、教育の地方化・社会化のため青年・成人教育に実績を挙げ、村民の水産業に従事する者も増加し、卒業生の中には、水産製造者や遠洋漁業に志す者が著しく続出し、住民の強い愛着と相まって大きな教育成果を生み出した。