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愛媛県史 教 育(昭和61年3月31日発行)

1 学校図書館創始期

 学校図書館の誕生

 終戦後連合国の占領下に置かれた日本はすべての面で大改革を余儀なくされた。特に学校教育ではアメリカの実践主義教育方法が全面的に取り入れられ、男女共学、六・三制の実施等に見られるように、戦前の学校の姿は大きく塗り替えられた。学校図書館が各学校に生まれ、育ったのもアメリカの教育使節団の強力な指導が大きく影響している。戦前の日本には特別な教育方針を持った一部の私立学校を除いては、学校図書館はほとんど皆無に等しい状態であった。一般の公立学校では教科書が主たる教材であり、教授用資料として掛図・模型・地図がわずかに利用されていたに過ぎなかった。こうした学習指導に対する反省から図書館が大いに普及しているアメリカを手本にした学校図書館が、学校教育にとって不可欠の基本的な施設であるという認識が強まってきたのである。その結果、昭和二二年(一九四七)ころから全国的に学校図書館設置の動きが起こり、文部省では同二三年一二月『学校図書館の手引き』(「A五・一二六頁)を発行、翌年二月千葉と奈良でこの手引き講習会を行った。これを契機に施設としての図書館を有する学校がにわかに増えてきた。同二四年「学校図書館協議会」が文部省内に設置されて「学校図書館基準」を発表した。これによると学校図書館は「学校の目的にしたがって児童生徒のあらゆる学習活動の中心となり、これに必要な資料を提供しその自発活動の場」とならなければならないとしている。翌二五千再度来日した第二次アメリカ教育使節団の報告書に「学校図書館は図書だけでなく、教師と生徒とで作成した芸術的な教材やスライド・フィルムなども集め、教授資料の中心設備として経営することが望ましい」と述べている。これに前後して同年二月には全国学校図書館協議会(全国SLA)が結成され、全国的規模のもとで学校図書館づくりに活発な運動を展開するに至った。愛媛県でも越智郡小西中学校・波方小学校・周桑郡田野中学校・今治市桜井小学校(大正七年に児童文庫あり)・伯方高等学校を初めとして県下各地で学校図書館の施設充実に取り組む学校が増えてきた。こうした学校が組織化を図ろうとして昭和二四年三月まず中予地区に、続いて南予地区、更に翌年東予地区の順に学校図書館研究会が相次いで発足し、県教育委員会もこれに対しては側面的に協力を惜しまなかった。

 愛媛県学校図書館協議会の結成

 学校図書館研究の全県組織として愛媛県学校図書館協議会(愛媛県SLA)が結成されたのは昭和二五年七月」四日のことである。これは前述の東・中・南予別の学校図書館研究会の強化を図るための連合統一組織で、結成後直ちに全国SLAにも加盟した。これによって県下の学校図書館づくりや研究活動が組織的に行われるようになった。規約によればこの協議会の目的は①図書館および学校図書館に関する調査研究、②学校図書館運営に関する調査研究、③学校図書館の連絡提携に関する研究調査である。初代会長に愛媛大学附属図書館長大植登志夫を選出し、愛媛・松山農科(現愛媛大学農学部)・松山商科の三大学をはじめ高等学校一三校・中学校一一校、小学校一五校で発足した。以下年度を追って加盟校が増加し、同二八年には県下小・中・高校合わせて五〇〇校以上の加盟をみてここに県SLAの地盤が不動のものになった。その後毎年中央から専門講師を招いて研究会や講習会を主催し常に研究のリーダーシップをとり続けた。同二六年の記録を例にとれば五月一九・二〇日第二回定期総会と実務講習会を開催し、天理大学教授仙田正雄による「児童件名目録について」という具体的な図書館実務に関する講義が行われている。当時の県内学校図書館の問題点としては、具体的な読書指導の方法、図書館教育(現行の利用指導)の方策、児童に適した分類法、学級文庫の運営、学校図書館事務の簡素化、蔵書の分類別比率などが挙げられている。
 昭和二八年(一九五三)八月八日待望の「学校図書館法」が公布され同二九年四月一日から施行された。これによって学校図書館が教育課程の展開に寄与するために欠くことのできない基礎的な設備として各学校に設置の義務が課せられたのである。更に文部省は各学校の図書館設備が学校図書館審議会が示した「設置基準」に到達するまで、学校設置者に対して国庫負担金を配分し学校図書館の充実を図った。次いで同三三年「義務教育費国庫負担法に基く教材費国庫負担金の運用について」という文部省通達の中に国庫負担の対象となる教材が例示された。また同三五年には『学校図書館における図書以外の資料の整理と利用』という手びき書を刊行した。これにより図書を中心とした伝統的な図書館から、視聴覚資料をはじめ図書以外の資料をもすべて包含した教育メディアを中核とした総合資料館、いわゆる索引事項としての学校図書館の構想が打ち出されたのである。

 学校図書館実態調査の実施

これまで県下の学校図書館に関する実態調査は数多く試みられてきたが、そのほとんどは研究機関や研修団体の手による抽出調査にすぎなかった。昭和三六年一二月全国大会の開催にそなえて県教育委員会が実施した実態調査が県内小・中・学校を対象とした最初のしっ皆調査であった。その集計結果は、翌三七年三月「愛媛県学校図書館の実態」(B5判四一頁)の冊子にまとめて各学校に配布された。これを見ると当時の本県の学校図書館の実態がある程度明確に把握できるのである。
 〈小学校〉 図書館担当職員中司書教諭有資格者二三%、事務職員数一五%で、他は一般教諭の兼務で運営されている。ちなみに司書教諭有資格者の全教職員に占める比率は三・五%で内執務率は二六%となっている。図書館主任の九三%が週二六時間以上の授業を担当し、九九%が学級担任である。図書館経費は児童一人平均一三八円(基準二五〇円)、専用図書館保有校二八%、事務室保有校八・五%、資料室保有校二三%、館外貸出し実施校八九%、長期休業中の開館率七二%、地域貸出し実施校一八%、読書会の定期開催一〇%、児童一人平均蔵書冊数三・一冊(全国平均三・一冊・基準五冊)、新聞未購入校三三%、雑誌未購入校五六%、接架式閲覧方式採用校六四・八%、目録未作成校二八・三%となっている。
 〈中学校〉 一校平均図書館費九万一二九円(全国平均一〇万七、七五〇円)となっており、その内訳は公費二八%、PTA二五%、図書費として徴収三四%となっている。生徒一人平均一九二円(基準三五〇円)、専用図書館保有校二五%、貸出統計未集計校二二・八%、館外貸出し実施校九四・六%、新聞未購入校二五・八%、雑誌未購入校二八%、出納式閲覧方式採用校二一・八%、目録未作成校二七・四%、書名目録作成校四〇%、図書館での授業実施校五四・五%、生徒一人平均蔵書冊数四・二冊(全国平均三・五冊)、一校平均蔵書冊数一、七九八冊。
  〈高等学校〉 専用図書館保有校三八%、学校司書配置率六二・五%、図書館主任の学級担任率四七・二%、図書館経費一校平均三一万二、六九六円、生徒一人平均四五一円(基準四五〇円)、事務室保有校五五・五%、資料室整備校一六・七%、生徒一人平均蔵書冊数九・二冊(全国平均七・八冊・基準七冊)、一校平均蔵書六、三九〇冊、雑誌未購入校一三・九%、接架式閲覧方式採用校七七・八%となっている。