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愛媛県史 教 育(昭和61年3月31日発行)

2 学校図書館充実期

 第十三回全国大会の開催

本県学校図書館史上特筆すべきは昭和三七年松山市で開催した全国大会である。この大会を抜きにしては愛媛の学校図書館を語ることはできない。同三四年に突然全国学校図書館協議会より全国大会を松山市で開催するようにとの要請があり、県SLAとしても受入れ体制について検討した結果、開催年度にあたる昭和三七年が、特に中学校が生徒増のピークに達する時期であり、図書館の普通教室への転用等から正常な図書館運営に対する不安と研究不足を恐れて一度は辞退することを申し合わせた。しかし翌三五年松山開催の強い要望が再燃したため、地元としてもこれほど望まれるならせっかくの機会に施設・設備の乏しい中での学校図書館活動の実践を公開して批判を仰いではと、後ればせながらも開催に踏み切った。同時に急きょ県教育委員会・松山市教育委員会・県SLAの三者一丸となって準備委員会を構成し、同三六年四月一日松山市番町小学校に大会事務局が開設され松山大会の準備に乗り出した。大会計画の立案に際して、スタートは多少遅れたがやる以上は充実した成果を収めたい、また開催地松山市のみならず全県的な図書館教育のレベルアップを図りたいというのが当時の関係者の共通の願いであった。こうして第一三回全国学校図書館研究大会は同三七年一〇月二三・二四・二五日の三日間、全国各都道府県より三、〇〇〇名の参加者を集めて松山市で開催された。その概要は次のとおりである。

● 研究主題 「新教育課程に貢献する学校図書館はいかにあるべきか」
● 研究の重点 ①教育課程と学校図書館 ②学校図書館の行政・管理・運営 ③校種別学校図書館の運営 ④学校図書館の整理と運用 ⑤読書指導と学校図書館
●第一目 開会式・全体会(愛媛県民館)・学校図書館見学(松山市立番町小・味酒小・東雲小・新玉小・清水小・雄郡小・素鵞小・和気小・三津浜小・宮前小・高浜小・桑原小・垣生小・道後小・余土小・湯山小・小野小・拓南中・雄新中・勝山中・御幸中・道後中・鴨川巾・三津浜中・小野中、伊豫市立伊豫小・港南中、松前町立岡田中、県立松山南高・松山東高・松山北高・松山商業高・松山工業高、私立新田高)
●第二日 分科会場(番町小・東雲小・新玉小・三津浜小・勝山中・鴨川中・松山東高・松山南高・松山盲学校・松山ろう学校)
 研究授業―小学校は体育を除く全教科・道徳・利用指導・中学校は国語・社会・理科・音楽・美術・道徳・特活等六一学級、高校は国語・社会・理科・外国語・特活等七教科一三学級の授業公開
 分科会構成ー教育課程と学校図書館、国語科学習と学校図書館、社会科学習と学校図書館、理科学習と学校図書館、道徳と学校図書館、進路指導と学校図書館、学校図書館の利用指導、学校図書館行政、学校経営と学校図書館、学校図書館の運営、学級文庫の運営、図書委員の組織と指導、学校司書、資料センター計画、へき地小規模学校図書館の運営、盲学校図書館の運営、ろう学校図書館の運営、職業高校と学校図書館、図書の選択と整理、視聴覚資料の整理と活用、図書以外の資料の整理と活用、件名目録の作成と活用、読書指導の計画と方法、集団読書の指導、読書感想文感想画の指導、家庭地域社会における読書指導、幼児の読書指導、マスコミと読書指導、必読図書の研究、高校における読書指導、以上校種別に五部会、三〇分科会、四一班に分かれて研究発表(県内発表者五〇名)と研究討議が行われた。
●第三日 全体会(松山東高)スライド映写・講演・閉会式
 この研究大会は、会場校・見学校のみならず、全県的に研究実践の盛り上がりを見せ、各校それぞれにユニークな実践が実り質的にも高水準を示し、参加者に多大の感銘を与えた。特に①教科に結びついた学校図書館の運営とその指導 ②人間形成を培う読書指導 ③図書館資料の整備とその活用 ④学級文庫とその運営⑤へき地小規模学校の図書館運営 ⑥学校図書館と家庭読書等の分野での研究が一層充実した。これは全国大会に備えて県教育委員会が各分科会別に委嘱した小・中・高校の研究員一一五名が事前研究会を開いて、分科会テーマの分析に当たるとともに各自が研究成果を持ち寄り中間発表を行い、分科会別に討議を深め問題点の解明と発表原稿の整理に当たるといった地道な努力のたま物である。更に、従来の全国大会が会場校の図書館整備に多額の予算を投入して施設・設備を誇ったのに対して、本県では新教育課程の展開に寄与するために、学校図書館の機能化を目指して資料センターづくりに取り組んで悪条件を克服しての各校の創意工夫を凝らした実践が実を結び、今後の研究実践の方向づけを示すものとして全国的にも高く評価された。なお昭和二五年以来毎年開催されてきた全国大会はこの松山大会を最後に以後地区大会と隔年開催に改められて現在に至っている。この意味でも松山大会が全国学校図書館研究史上においても実に画期的な大会であったことを認めざるを得ないのである。

 四国大会の開催

松山での全国大会以後隔年開催となった四国地区研究大会は昭和三八年以後香川・徳島・高知・愛媛の順に各県持ち回り開催となった。第四回大会の開催を引き受けた本県では今後の開催地を東・中・南予の輪番とすることにして、新居浜市を開催地に選び、同四四年一一月一四日・一五日「自主性と創造性を育てる学校図書館活動はどのようにすればよいか」を研究主題に掲げて新居浜市立新居浜小・西中学校・県立新居浜東高等学校を会場校に開催した。

 〈第一日目〉 会場校発表・研究授業(一四学級)、分科会別研究協議(一一分科会)
 〈第二日目〉 全体会(新居浜市民文化センター)ー開会式・シンポジウム「今日の学校図書館の課題と今後のあり方」・講演「新教育課程と学校図書館」・四国地区学校図書館協議会総会、学校図書館見学
 〈成果〉 特に新居浜市教育委員会が同四二年度より三年計画で全市の充実を図るために各校図書館主任を中心にした研究推進委員会による協同研究体制を整えての豊富な研究実践の発表は参加者に多大の感銘を与えた。

 二巡目に入った第八回四国地区研究大会は中予に。バトンタッチされて、同五二年一一月一・二日松山市立高浜小・中学校・県立松山西高等学校が会場校となって開催された。大会主題は「豊かな人間性を育てる学校図書館活動」で情報処理能力の育成を目指してというサブタイトルがつけられ、小・中学校では「自ら学ぶ力を育てる学校図書館の創造」の部会主題で、特に教科学習と学校図書館とを結びつけることにより学習指導の改善を追求している。

 〈第一日目〉 校種別部会=読書行事・授業公開(一五学級)・分科会・分野別研究発表・研究協議・会場校実践発表
 〈第二目目〉 全体会(文教会館)=開会式・朗読(児童生徒)・情勢報告・講演「新教育課程と学校図書館」・閉会式
 〈成果〉 各分科会の司会者はすべて本県が担当し、どの分科会でも本県の研究発表は児童生徒の読書生活に密着した極めて内容の充実した実践の成果を具体的に述べており、本県の研究の深さが全参加者の注目を集めた。特に、全体会での小・中・高校生四名の作品朗読は、児童・生徒を全体会の表面に押し出した試みで、大会主題にふさわしく、この種の研究人会としては他県では見られない異例のもので他県参加者の絶賛を浴びた。

 深まる研究と実践活動

伊予市立港南中学校は昭和三四年統合新設中学校として開校以来図書館整備には特に力を入れてきた。県教育委員会並びに全国SLA両者の研究指定校として全校体制での資料センターづくりに取り組んできた三年間の本格的な実践は全国的に注目され、同四〇年一一月発表大会を持ち、その研究成果は「資料センターとしての学校図書館の管理と運営」のタイトルで刊行された。同書の序文に全国SLA会長が「港
南中学校の偉業」と題して「学校一致してこの人業をみごとになしとげつつあるのである。学校図書館の今後のあり方に一石を投じたものと敬服のほかはない。」と記している。また、文部省の著作になる『中学校におげる学校図書館運営の手びき』(同四七年刊行)には、同四六年度に県大会の会場校としてユニークな研究を積み上げてきた松山市立久谷中学校の指導事例が利用指導・読書指導ともに一三頁にわたって紹介されている。
 一方こうした中央刊行物の外に県教育委員会から研究指定を受けた学校がそれぞれの研究成果をまとめた研究紀要や研究集録が続々と公表された。その主なものを列挙すると、第四回四国大会々場校新居浜市立新居浜小・西中学校の「資料センターをめざして」、昭和四七年県大会々場校越智郡大西小学校の「学級指導における利用指導の計画と実践」、第八回四国大会を受けた松山市立高浜小・中学校の「情報処理能力の育成を目指す学校図書館活動の創造」があり、更に最近では同五七年度県研究指定校であった温泉
郡南吉井小学校の「ひとりひとりに生きる読書指導」があげられる。これらの学校から提供された豊富な資料や実践事例を核としながら、各郡市ごとの主任会や研修会において、年々密度の高い研究活動が全県的に展開されてきている。
 また、学校図書館担当者が持つ共通の悩みや問題解決のために愛媛県教育研究協議会学校図書館委員会(県SLAより分離)では、昭和四三年度より夏休み中の二日間を利用して夏季研修会が開かれている。この研修会は全く自主的な研修会として計画され、その年度の県の統一研究目標についての基調提案から始まり、初心者を対象に「受入れから配架まで」の図書館実務についての講義中心の講座分科会と、図書館主任経験者を対象とした討議分科会とを併行して持ち、最後に記念講演を聞いて締めくくるという内容である。更に参加者の便や地域への刺激等も考慮して会場を県下教育事務所単位に持ち回り方式を採用して、毎回その開催地の特色を生かした運営を工夫している。一方、愛媛県高等学校教育研究会(高教研)図書部会(県SLAより分離)でも、毎年の研究大会の外に東・中・南予別の支部会や夏季講習会並びに司書講習会などが継続して持たれ地道な研究活動を推進してきている。

 ふるさと読み物の刊行

郷土愛媛の子供たちに良い本を与えたいという願いのもとに愛教研では昭和四〇年に支部委員長を総動員して小・中各学年一〇冊計九〇冊の推せん図書を選定し「小・中学校推せん図書リスト」の冊子にまとめて各学校に配布した。それと同時に利用指導の効果を高めるために、児童生徒用の手引きとして『私たちの図書館』(小学校中学年用・高学年用・中学校用の三分冊)を刊行し、県下ほとんどの小・中学校で採用されている。また高教研でも昭和四六年より生徒用の図書館利用の手引き書『らいぶらりい』を発行し、毎年改訂を加えながら生徒に活用さぜている。更に愛教研では昭和五〇年松山市で開催された全国国語教育研究大会の記念出版として『愛媛のむかし話』(A5変型二五四頁)を、また同五二年には続編として、『愛媛の伝説』(A5変型二五四頁)を今度は学校図書館四国地区大会の記念出版として刊行した。これまで子供を対象としたこの種の本が皆無であっただけに、本格ハードカバー製本による児童図書が相次いで二冊も出版されたことは誠に意義深いことであった。この出版経験を生かして同五四年に愛媛の伝記にも取り組み各校での集団読書用テキストとしてシート形式にまとめ、とりあえず小学生用として正岡子規・二宮忠八・義農作兵衛等一〇名の郷土の偉人を選んで『愛媛の伝記シート第一集』が発行され、第二集以下順次シリーズとして続刊の予定である。
 八〇年代は地方の時代である。こうした時代の要請に対して学校図書館活動もようやく郷土の子供にふさわしい読み物を自ら出版するまでに成長してきた。ニューメディア時代に突入した現在臨教審によって「豊かな人間性の回復」が強く叫ばれ、個性重視の原則を柱に「自己教育力の育成」が大きくクローズアップされてきた。この教育課題を真正面から受け止める場として学校図書館の機能が一層重視されようとしている。それと同時に学校図書館は今改めてその存在価値を大きく問い直される時がきたようである。

○学校図書館法 第一章 総則
  (この法律の目的)
第一条 この法律は、学校図書館が、学校教育において欠くことのできない基礎的な設備であることにかんがみ、その健全な発達を図り、もって学校教育を充実することを目的とする。
第二条(定義)(略)
第三条(設置義務)(略)
  (学校図書館の運営)
第四条 学校は、おおむね左の各号に掲げるような方法によって、学校図書館を児童又は生徒及び教員の利用に供するものとする。
 一 図書館資料を収集し、児童又は生徒及び教員の利用に供すること。
 二 図書館資料の分類排列を適切にし、及びその目録を整備すること。
 三 読書会、研究会、鑑賞会、映写会、資料展示会等を行うこと。
 四 図書館資料の利用その他学校図書館の利用に関し、児童又は生徒に対し指導を行うこと。
 五 他の学校の学校図書館、図書館、博物館、公民館等と緊密に連絡し、及び協力すること。
2 学校図書館は、その目的を達成するのに支障のない限度において、一般公衆に利用させることができる。
 (第五条以下 略)