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愛媛県史 教 育(昭和61年3月31日発行)

3 掛図(教授用教科図書)

 国立教育研究所教育史料調査室長佐藤秀夫が昭和六〇年暮れの一二月、この開明学校を訪れ、ここに所蔵されている明治初年の文部省編纂の掛図四二点について「日本一」のコレクションを保持しているとの評価をした。そのことについて、宇和郷土文化保存会発行の「開明」(昭和六一年一月三一日)に佐藤秀夫の投稿文が載せられているので、その一部を再掲したい。
宇和町開明学校に所蔵されている五〇点の掛図のうち、文部省編纂に係るものは、次のとおりである。

単語図 第五、 同 第七、 同 第八、連語図 第一、 同 第二、 同 第三、 同 第四、連語図 第五、 同 第六、 同 第七、 同 第八、 同 第九、 同 第十、 伊呂波図、五十音図(カタカナ)、 数字図(同一本二軸)、 算用数字図(同一本二軸)、加算九九図、乗算九九図、 面及体図、 線及度図、 色図(二種各一軸)、 小学指教図 第一、 同 第二、小学指教図 第四、 同 第五、 同 第六、 同 加算並減算呼声、 同 乗算呼声(九九合数)、小学指教図 除算呼声上(九帰法)、 同 除算呼声下(撞除法)、 博物図 第一、同 第二、博物図 第三、 同 第四、動物 第二鳥類一覧、 同 第三(破損大)、同 第四多節類一覧、
 動物 第五柔軟類多肢類一覧。
 計 四〇種、四二点にのぼる。

右のうち、博物図は明治六年(一八七三)、単語図・連語図から色図までは当時最も普及した同七年八月改正版であり、小学指教図は、同一二年(一八七九)から同一四年にかけて大阪府辻本信太郎による翻刻版、動物は明治八年から同一〇年にかけての文部省発行版である。明治六・七年から同一四年にかけて文部省の編集した掛図類により構成されている。
 もとより、右はそのすべてを網羅しているわけではない。しかし、それらを四〇種も、しかも実際に用いられた実物で保存しているところは、私たちの調査した範囲でいえばこの開明学校が初めてであった。
 (中略)国の重要文化財に指定され、教科書類や文書類を四万点以上も保存している、有名な長野県松本市の開智学校においてすら、明治初期の掛図は二本、濁音図と羅馬数字図(いずれも開明学校での欠本分である)を所蔵しているに過ぎない。こと明治初期の掛図に関するかぎりは、開明学校を凌駕するところは管見の範囲ではお目にかかったことはまだない。
 南予の落ち着いた家並の続く宇和町に、何故これらの掛図がほぼ完全かつ大量に保存されていたのか、その理由を知りたいものである。(口絵に「掛図」四点を掲げている)