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愛媛県史 芸術・文化財(昭和61年1月31日発行)

一 文化財の定義と分類

文化財の定義

 文化財とは、広義には人間の文化活動を通じて創り出された事物や事象のなかで文化的価値を有するものと考えられる。しかし、一般には昭和二五年に制定された「文化財保護法」において保護の対象として取り上げられたものの総称として用いられることが多く、その稀少性と優秀性に重点が置かれている。同法は、当初の文化財の定義として、我が国にとって歴史上または芸術上価値の高い①有形文化財(建造物・絵画・彫刻・工芸品・書跡・筆跡・典籍・古文書・民俗資料その他と考古資料)、および②無形文化財(演劇・音楽・工芸技術その他)と③史跡名勝天然記念物(史跡・名勝および天然記念物)と規定していた。
 その後、同二九年の第三次改正によって民俗資料が独立して扱われるようになるとともに、史跡名勝天然記念物を一括して記念物に集約することになる。さらに五〇年七月一日には、法律第四九号において第四次改正が加えられ、現行法規定としての文化財の定義が示されたのである。すなわち、文化財保護法の第二条には、これを凡そ次のように定めている。
 ①有形文化財―建造物、絵画、彫刻、工芸品、書跡、典籍、古文書その他の有形の文化的所産で我が国に   とって歴史上または芸術上価値の高いもの、並びに考古資料およびその他の学術上価値の高い歴史資   料。
 ②無形文化財―演劇、音楽、工芸技術その他の無形の文化的所産で、我が国にとって歴史上または芸術上   価値の高いもの。
 ③民俗文化財―衣食住、生業、信仰、年中行事等に関する風俗習慣、民俗芸能およびこれらに用いられる   衣服、器具、家屋その他の物件で我が国民の生活の推移を理解するために欠くことのできないもの。
 ④記念物―貝塚、古墳、都城跡、城跡、旧宅その他の遺跡で我が国にとって歴史上または学術上価値の高   いもの、あるいは庭園、橋梁、峡谷、海浜、山岳その他の名勝地で我が国にとって芸術上または鑑賞   上価値の高いもの、ならびに動物、植物および地質鉱物で我が国にとって学術上価値の高いもの。
 ⑤伝統的建造物群―周囲の環境と一体をなして歴史的風致を形成している伝統的な建造物群で、価値の高   いもの。
そして、この規定が都道府県および区市町村における文化財保護条例のなかにも、ほぼそのままに採用され、保護対象の文化財が定義づけられているのである。

文化財の分類

 一口に「文化財」とはいっても、その内容および呼称は多岐に亘るとともに、このことば自体未だ充分な浸透をみているとはいい難い面がある。それは、一つには文化財という用語が比較的新しいこと、明治以降用いてきた「国宝」の用語がかなり一般に定着していたことによる。行政面における変遷は後述するが、かって宝物とか古器旧物などと称されていた文化財のうち社寺が所蔵する宝物類に初めて国宝の呼称を冠したのは、明治三〇年の「古社寺保存法」であった。これはさらに昭和四年に整備され、「国宝保存法」として公布されるに及んで国宝の指定範囲も拡大されることとなり、以来、国指定文化財を国宝と称してきたのである。
 ところが、文化財保護法の制定によって文化財が定義づけられ、これに当該するもののなかで重要な有形文化財を「重要文化財」とすることが定められたことにより、従来の国宝はすべて重要文化財とみなされることとなった。そして、「重要文化財のうち世界文化の見地から価値の高いもので、たぐいない国民の宝たるもの」が、新たに国宝として指定されることになったのである。したがって、古社寺保存法以来の国宝(旧国宝)とは明らかにその性格を異にしている。
 これは有形文化財に限らず、史跡・名勝・天然記念物についても、大正八年の「史蹟名勝天然紀念物保存法」以来一様な指定がなされてきたが、新たにその価値の特に高いものについては「特別」の二文字を冠して指定呼称されることとなった。また、無形文化財については「重要無形文化財」と新しく呼称が定められ、民俗資料については、「重要民俗資料」となったのち、現在では「重要有形民俗文化財」と「重要無形民俗文化財」となっており、新たに「重要伝統的建造物群保存地区」が定められた。また、無形民俗文化財および無形文化財には、特に必要のあるものを選択して記録作成などを行う「記録作成等の措置を講ずべき」文化財が選定されている。
 このように、従来広く国宝と呼ばれてきた文化財は、その概念を拡大しながら次第に細分化され、徐々にではあるがきめの細かい行政が行われるようになってきた。愛媛県においても、昭和二八年一二月二五日に「愛媛県文化財保護条例」が定められ、県指定文化財を愛媛県指定重要文化財・同史跡名勝天然記念物・同無形文化財と区分したのち、同三二年の改正で愛媛県指定有形文化財・同無形文化財・同民俗資料・同史跡・同名勝・同天然記念物とし、五〇年以降は国同様に民俗資料を有形・無形民俗文化財に分けるとともに、愛媛県選定保存技術を設けている。
 なお、文化財分類の表面には出てこないものの文化財行政などでも大きな比重を占め、近年とみに注目されているものが「埋蔵文化財」である。文化財保護法の第四章がこれに関するもので、「土地に埋蔵されている文化財」と規定され、有形文化財中の考古資料とは区別されるとともに、異質な概念で捉えられている。