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愛媛県史 原始・古代Ⅰ(昭和57年3月31日発行)

3 伊吹町遺跡

 遺跡の位置

 伊吹町遺跡は正式な発掘調査を経た遺跡ではない。しかし地表下約四・五メートルにまでわたる瓦原料土採掘中での発見で、比較的明確な層序の把握が可能であった。また伴出石器、植物遺物、獣骨なども検出され、県下での縄文後期における貴重な低湿地遺跡とされている。さらには縄文後期に一時期を画し得る、伊吹町式土器のタイプサイトであることからもここに採りあげることとした。
 伊吹町遺跡の行政的位置は、宇和島市伊吹町イカリ石甲一一五番地である。その海抜は、地表で一〇メートルを測るものの遺物包含層(第六層)のそれは約六メートル下となる。
 遺跡は、国鉄予讃線と予土線の分岐する北宇和島駅から、宇和島駅に向う右方、光満川左岸に接して所在する。地形的には東西二つの山尾根に挾まれたきわめてゆるやかな扇状地の末端部を占め、東西約五〇〇メートルの狭長な低平地のほぼ中央部に位置する。遺跡西方を流れる光満川の現河床面の位置が、遺物包含層より高位のため、湧水に悩まされての遺物の取りあげとなった。
 遺物の採集は、昭和三〇年(一九五五)~三一年(一九五六)にわたったが、瓦土採掘業者の厚意により、良好な資料を得るところとなった。
 本遺跡の堆積層序は、表土一八〇センチ、つづいて砂質粘土層六〇~七〇センチ、その下層は拳大の赤褐色の石を含んだ厚さ二〇センチほどの砂礫層で、その下の第四層というべきものは、青灰色の粘土層で四〇~六○センチあり、この層からは鉄製の鋤先のようなものが出土した。この層の下に四〇~四五センチの青灰色粘土層があり、植物質の炭化物を含んでいる。この層のさらに下部、三五~四五センチの厚さをもつ緑色粘土層に遺物が包含されていた。なおこの層の下部は砂礫層であった。

 伊吹町遺跡の遺物

 出土遺物は、平城第Ⅲ式土器からの系譜をもち、九州の西平式、西瀬戸内の岩田第Ⅱ類などに対比される縄文後期中葉末の土器、それに岩谷第三上層出土と同様の揆形の打製石斧、姫島産黒曜石から成る縦形のスクレイパー、それに若干の石鏃などである。また自然遺物としてニホンシカ・イノシシなどの獣骨を始め、ムクエノキの炭化した実の核果二個、それに焼残り品とおぼしき木片が検出された。
 なお遺跡の現状は、盛土造成され工場敷地となっており、発見時の様相を全く留めていない。