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伊予市誌

2 人権・同和教育の推進

 同和教育のはじまり 
 差別による貧困で長期の不就学を余儀なくされた部落の子どもたちの現状に対して学力保障・進路保障という草の根的な一部の教師の教育実践から昭和二〇年代に同和教育が始まったと言われている。一九六一(昭和三六)年内閣総理大臣は「同和地区に関する社会的及び経済的諸問題を解決するための基本的方策」を同和対策審議会に諮問し、同審議会は、一九六五(昭和四〇)年内閣に対して、四年にわたる調査研究の結果を答申した。その前文には、「いうまでもなく、同和問題は、人類普遍の原理である人間の自由と平等に関する問題であり、日本国憲法によって保障された基本的人権にかかわる課題である…」とし、政府に対して有効適切な施策を実施し、問題を抜本的に解決し、恥ずべき社会悪を払拭して、あるべがらざる差別の長き歴史の終止符が一日も速やかに実現されるよう万全の処置をとられることを要望し期待すると述べていた。
 この答申に基づき、一九六九(昭和四四)年「同和対策事業特別措置法」が公布され、同和教育・同和対策事業が法的根拠のもとで積極的に実施されることになった。
 同和教育は、同和問題の解決を目指す取り組みを通して、同和問題をはじめとする現存する他のさまざまな人権問題の解決にもつなげていくことを重要な課題とし、差別の解消と人権確立を目指す人権教育としての役割を担っている。

 推進の組織づくり 
 同和教育の推進について、伊予市教育委員会は、一九七一(昭和四六)年四月から構想を練り、七月に社会教育関係団体の代表者の参集を求めて砥部町から重松康隆氏を講師に招き市民会館で第一回の研修を行うとともに、旧四か町村別に研修会を開催した。
 一九七三(昭和四八)年七月には愛媛県で策定された愛媛県同和教育基本方針に沿って同和教育推進母体を組織することにした。一九七五(昭和五〇)年三月二二日伊予市同和教育協議会が発足し、教育長を会長として同和教育の推進を図ることになった。一九七七(昭和五二)年四月二八日には組織の名称を愛媛県同和教育協議会伊予市支部と改称し、支部長には教育長が就任した。二〇〇二(平成一四)年三月末には地域改善対策特定事業にかかわる国の財政上の特別措置に関する法律が失効した。この結果、それまで本市の同和教育・啓発の要であり校区の牽引者でもあった同和教育推進主任の制度が廃止となり、人権・同和教育を取り巻く環境は大きく様変わりすることとなった。当支部も、二〇〇三(平成一五)年五月の支部総会で愛媛県人権教育協議会伊予市支部と名称を変更した。
 協議会委員は、当初、市単位の組織の代表者で構成されていたが、次第に校区代表者も加え、昭和五四年度には広報区長三二人全員が委員となり、一〇〇人を超える委員会に拡大した。それらの委員と各地区公民館が中心となって、各小学校区ごとに校区別推進委員会を結成した。

 伊予市人権・同和教育研究会 
 学校教育では、昭和五三年度から伊予市同和教育研究会を開催する運びとなり、第一回を北山崎小学校で行った。この会には、市内の教職員をはじめ、市教委・同和教育協議会(現在の「愛媛県人権教育協議会伊予市支部」)・同和対策協議会(現在の「愛媛県人権対策協議会伊予市支部」・校区の同和教育推進委員・会場校のPTAなど、各方面から参加し、学校における人権・同和教育についての研究を深めていくこととなった。
 現在では、市内の小・中学校を輪番制として開催し、日ごろの取り組みの成果を時勢を反映した焦点授業及び教員・PTAによる研究発表や参加者との協議の場を通して教育・啓発のあり方、問題解決に向けての課題を共通認識することで実践につなげている。

 伊予市教職員人権・同和教育研修会 
 同和教育は、教師の同和問題に対する正しい理解と認識に始まる、と言われるように同和教育の推進に当たって、教師の役割は極めて大きいものがある。教師の力量を高めるために、昭和五四年度から伊予市教職員同和教育研修会を開催するようになり、夏期休業中に研修会を持ち、市内の保育所・幼稚園、小・中学校の全教職員が参加し研修を深めている。
 なお、北山崎小学校と北山崎幼稚園では、昭和五九・六〇年度の二か年にわたって文部省の指定を受け、一九八五(昭和六〇)年一一月一日に県内外からの参加者のもとで研究発表会を行った。研究テーマは、「人権意識の芽ばえを培い、いきいきと活動する幼児の育成」(幼稚園)、「人権意識を高め、共に伸びる児童の育成」(小学校)であった。

 伊予市職員人権・同和教育研修会 
 全体の奉仕者である公務員は、憲法の基本理念である基本的人権を尊重し、擁護する責務を有している。このため、職員一人ひとりが人権について正しい理解と認識を深め、それぞれの職務において人権の視点に立った対応ができるよう、新規採用職員研修をけじめ毎年一回全職員を対象とした伊予市職員人権・同和教育研修会を実施している。

 人権を考える市民の集い 
 市民一人ひとりが人権について深く考える機会の提供を行うことを目的として、二〇〇〇(平成一二)年一一月に第一回人権を考える市民の集いが市民会館で開催された。小・中・高等学校の児童・生徒の作文・詩・ポスターなどの人権啓発作品の表彰の後、三重県教育委員会派遣社会教育主事の松村智広先生を講師に迎えて講演会を持った。
 毎年、人権に関する各分野で活躍される方々の講演は好評であり、子どもたちの作文発表などには普段子どもの生の意見を聞くことの少ない大人にも好評を得ている。

 オピニオンリーダー養成講座 
 日常生活において人権問題に出会ったときに、自分自身が正しい意見を述べ誤った意見をできる限り正しい方向に導くことのできる指導者(人権尊重に関する世論形成者)の養成を目指した講座を、二〇〇〇(平成一二)年から開催している。講座の内容として「差別の現実に学ぶ」を基本とし、普段の学習から一歩踏み込んだ内容について経験豊かな専門講師団により、実践力を養うためのワークショップを中心に取り組んでいる。平成一五年度までに一五九人の修丁生を送り出すまでになっており、今後の活躍は勿論のこと修了生の支援体制と活躍の場の創出もあわせて大きな課題となっている。

 各種研究大会への参加 
 伊予市は、愛媛県人権対策協議会伊予市支部や愛媛県人権教育協議会伊予市支部と連携して、松山管内の地区別人権・同和教育研究協議会、愛媛県人権・同和教育研究大会(松山市内開催)、四国地区人権教育研究大会、全国人権・同和教育研究大会へ毎年二三を超える団体からの参加計画に基づき、年間二〇〇人を超える人々が積極的に参加しており、研究大会で学んだ成果を各団体に持ち帰って実践に生かしている。

 市民意識調査 
 本市では、五年ごとに人権・同和問題に関する市民意識調査を実施している。市民一、〇〇〇人を無作為抽出して郵送し無記名で郵送回収する方式とし、同和問題をはじめとするさまざまな人権問題についての設問に、それぞれ回答を択一していく回答方式のものである。この調査結果を施策に反映させるとともに、現在の施策に対する検証の礎としてその重要性は極めて高いものがある。

 地区別人権・同和教育懇談会 
 一九七五(昭和五〇)年伊予市同和教育協議会が発足したのを機会に、全市的な取り組みが始まった。その年における同和教育関係の協議会・研修会は延べ九〇回に及び、参加者数は延べ四、七〇〇人であった。昭和五五年度からは、校区別に小集団学習を行い地域ぐるみの同和教育の推進を図っている。
 一九九八(平成一〇)年からは現在のビデオ教材を鑑賞して講師が解説と問題提起を行い、幅広い年齢層の人々が気軽に参加できるよう工夫している。

 各種団体等の人権教育 
 婦人会・老人クラブ・PTA・愛護班・民生児童委員などの団体では、自主的な年間計画をもとに定期的な研修活動に取り組んでいる。また、郵便局・金融協会(銀行等の金融機関の組織)・愛媛厚生年金休暇センターなどの企業においても、企業が果たさなければならない社会的責務を自覚しそれぞれの実情や方針に応じた研修会が持たれている。

 啓発資料の発行 
 人権・同和教育が、会合に参加する人たちだけのものにとどまっては効果が上がらない。そこで、届ける教育として昭和五一年度から「広報いよし」に「同和の窓」を掲載し、全市民への啓発を図ることになった。
 更に、昭和五二年度からは「いよし同和教育」という機関紙を年三回発行し、児童生徒の人権作文なども載せ、広く市民に呼び掛けている。また、平成一四年度からは新たに「伊予市じんけん教育」と名称を新たにして、わかりやすい・親しみやすいをモットーにして編集を心掛けている。
 また、同和問題に関する基本的な事柄について、広く市民の方々に理解を深めてもらうため、同和教育テキスト「ふれあい」を作成し、同和問題をはじめとするさまざまな人権問題についての正しい理解と人権尊重の徹底を期するよう、市内全戸配布は勿論のこと、各種研修会のテキストとして配布し積極的な活用に努めている。
 更には、同和問題を中心に、障害者・高齢者・女性・子ども・HIV・外国人・マイノリティーなどのあらゆる人権問題にスポットを当てた、人権教育シリーズ「しあわせ」を年に一度作成している。この問題も、「ふれあい」と同様に配布についても幅広い年齢層の方々への配布を心掛けている。
 平成一四年度からは、家庭や職場において毎日目で見る人権教育の目玉として「伊予市人権啓発カレンダー」を新たに作成した。市内小・中・高等学校の児童・生徒からのポスター・標語の入選者分についてもれなく掲載して、年度当初に市内の学校をけじめ全世帯へ配布し啓発に努めている。

 身元調査おことわり運動 
 昭和六三年度から継続して「身元調査おことわり」ステッカーを作成し、各家庭に配布し、身元調査をしない・させない・協力しないをスローガンに運動を展開している。そして、このステッカーを自らの手で張ることが運動参加への第一歩という点を強調して取り組んでいる。

 人権尊重都市宣言 
 「人は、すべて生まれながらに自由、平等であり、かつ、人間として尊ばれ、生きる権利を有しています。お互いの人権を守って明るい社会を築くことが、市民すべての願いであります。本市は、基本的人権尊重の精神が全市民にゆきわたり、ゆとり、やすらぎ、うるおいのある地域社会づくりを目指して、ここに『人権尊重都市』を宣言します。」この宣言は、一九九三(平成五)年九月三〇日に伊予市議会の議決を得て発表されたものである。

 伊予市人権を尊重する社会づくり条例 
 二〇〇一(平成一三)年三月には、県内一一番目の制定となった人権条例が伊予市にも施行された。この条例は、日本国憲法を基本理念とし、同和問題をはじめ女性・子ども・高齢者・障害者らへの差別など、あらゆる差別をなくするための市及び市民の果たすべき責務を明らかにするとともに、市の施策の基本となる事項を定めることにより真に人権が尊重される地域社会の実現に寄与することを目的にしている。

 学校教育と社会教育との連携 
 人権・同和教育における学校教育と社会教育は、両輪のごとく教育の目指す方向性に変わりはないが、今後はより実効性のあるものとしていくためには、地域の実情に応じより具体化していくことが求められている。このため市民一人ひとりが同和教育の成果を踏まえて人権問題に一層の関心を持ち、「私たち一人ひとりにできること」を身近な問題として今すぐ取り組むことが何より重要なものとなっている。