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双海町誌

発刊のことば

 今を溯ること五〇年前、上灘町と下灘村の合併により「双海町」が誕生しました。瀬戸内海に面して胸を広げたように位置する本町は平地も少なく、夏の日照りには水さえ事欠くほどの決して恵まれた町ではありませんでしたが、今日までの間、町民のたゆまざる努力と英知は様々な困難を克服してきました。さらに、水平線に沈む美しい夕日をも地域資源にし、基盤整備を進めたり公民館活動を柱とするソフト事業を充実させたりすることによって、今日の繁栄をみるに至っております。奇しくも「双海町」開町五〇年の節目である平成十七年三月三十一日に町を閉じることとなり、新生「伊予市」にその歴史が受け継がれようとしているこの機をとらえ、町誌編さん委員会を組織し、編さん事業を遂行してまいりました。町の歴史書を綴りかえることは、双海町が如何にして現在の姿を形成し、そこに暮らしてきた人々がどのように知恵と汗を出してきたのかを知るとともに、将来を背負う人々が地域の姿を思考しよりよい判断を得るためにも誠に意義深いことであります。
 双海町の沖合いに浮かぶ山口県東和町出身の民俗学者宮本常一は「人間は伝承の森である。一人ひとりが伝承の森をもっている。そこに分け入るのが人間の仕事である」と重い言葉を述べています。宮本常一の言葉を借りれば、さしずめ町誌編さんの仕事は「双海町の伝承の森への分け入り」だと思いながら、二年間の編さん作業を全幅の信頼をもって静かに見守り続けてきました。
 人と町の生きざまである過去の歴史は、時として記憶の彼方に消えうせることもあり、思い起こして文章にすることは容易なことではありません。ましてや編さんの過程でかつての人々が書き記した資料を探し当てて、解析する作業は困難を極めたに違いないと推察します。幸い日頃からその道で研讃を積んでいる委員諸氏と関係者の使命感と地道な努力によって、平成の大事業である町誌編さんを短い月日で成し終えることができました。これは望外の喜びであり、改めてそのご労苦に深甚なる感謝の意を表したいと思います。
 「変革の時代」といわれる現代、社会の変化はめまぐるしく推移し、科学・技術の急速な向上とともに生活が便利になった反面、人間関係の希薄化や心の貧しさが露呈する先行き不透明な時代になっています。双海町を取り巻く環境も過疎や高齢化、少子化など厳しいものがあります。そのような中、今日の双海町を築きあげてこられた先人の偉業を受け継ぎながら、「第一次産業の振興を軸とした定住と交流のまちづくり」を町政の基本理念に、町民一丸となって懸命の努力を傾けてまいりました。私自身にとりましても、町民から双海町の舵取りを任されて僅か二年足らずの短い期間でありましたが、町長として現代歴史の紡ぎ人となって、双海町の歴史に少しばかりのかかわりを持てたことを良としております。そして、双海の歴史の集大成であるこの一書が、町民の皆様の座右愛読の書になりますよう念じております。
 最後になりましたが本書の編さんに当り資料をお寄せいただいた方々に心から感謝申し上げ発刊のご挨拶と致します。
 平成十七年三月
                                                 双海町長 上 田  稔