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双海町誌

第一七節 方言・言語芸術

一 方   言
 方言とは、共通語・標準語に対して、特定の地域で使われる言語をいう。ある地域社会で生まれ育てば、その人のことばは、その地域のことばが土台になる。ほとんどの日本人は、程度の差はあっても、方言と共通語の二重生活をしており、家族や親しい友人と話す場合はほとんど方言だけを使うという人も多い。
 双海地域は近世には大洲藩政下で、上灘・下灘ともに語尾を引く特徴がある。特に下灘に、その傾向が強い。
 方言には、先祖以来長い年月にわたる地域の制度や生活形態が影を落としている。物の呼び名、行為の言い表わし方、あるいは感情表現や感嘆詞に至るまで、方言のない領域はないといってよい。つまり、方言は、私たちの生活総体を映す鏡である。
 以下に示す方言は、現在なお日常的に使われているものもあれば、戦前には使わなくなったものもある。また、双海町内の一部地域で使われていた方言から、西日本一帯で使われている方言まで様々である。ここでは、双海地域で使われていた方言をできるだけ記載し、後世に伝えたい。


二 郷土文句
 郷土文句は、話を分かりやすく伝えるために工夫された格言や、生活上の知恵を伝える伝承の集成である。意図して口に出すものと、とっさに□をついて出るものとがある。郷土出身の年長者が主に使うものだが、性別や職業などによって多少の差があるのは興味深い事実である。
 掲載されている比喩・ことわざ・呪文などのなかには、全国的に使用されているものもある。昔から親から子にそして孫に、地域のなかで語り継がれていた幾多のことわざも郷土文句として掲載している。

(1) 比喩・地口・ことわざ
・商いは牛のよだれ。
・朝のクモは袋にいれよ。
・あの人を怒らしたらえらいものだ。
・急がばまわれ。
・牛は死んでも田はできる。
・後ろ天神、前びっくり。
・うそから出たまこと。
・ウソと坊主の髪はゆうた(言うた・結うた)ことがない。
・ウソの皮ははげる。
・うちの米の飯より隣の雑炊。
・内弁慶の外すぱり。
・うまいものは宵に食え。
・瓜のつるにはナスビはならぬ。
・遠慮ひもじや、伊達寒や。
・老いては子に従え。
・岡目八目。
・鬼に金棒。
・鬼のおらん間に豆煎ってかむ。
・おぼれる者ワラをもつかむ。
・親に先立つ不孝者。
・飼い犬に手を咬まれる。
・かまかけるようなことをいう。
・かわいい子には旅をさせ。
・狐につままれた。
・狐にばかされたような。
・器用貧乏、村宝。
・苦しいときの神頼み。
・けちをつけられる・魚の骨抜き。
・月窓様時代のもの。(月窓様=大洲の殿様の意)
・小糠三合あれば養子にいくな。
・紺屋の白袴。
・桜切る馬鹿、梅切らん馬鹿。
・地獄で仏にあう。
・釈迦に説法。
・正直者が馬鹿をみる。
・知らんが仏。
・雀百まで踊りはやめぬ。
・葬礼過ぎての医者話。
・そっ歯に餅見せな。
・立て板に水のごとくしゃべる。
・棚からぽたもち。
・黙り者のこと起こし。
・爪の先で火をともす。
・出る釘は打たれる。
・問うて一時の恥、問わいで末代の恥。
・遠くの親類より近くの他人。
・年寄の冷や水。
・とらぬ狸の皮算用。
・どんぐりの背比べ。
・謎かけるようなこと。
・煮え湯を浴びせられる。
・煮ても焼いても食われん。
・のらの節句働き。
・馬鹿とハサミは使いようで切れる。
・馬鹿につける薬がない。
・馬鹿の高上り。
・ばたばたおしなよ鶏はだし。
・初子(はつね)に親呼べ、亥の子に子呼べ。
・歯、魔羅、目。
・番茶も出花。
・彼岸過ぎての麦の肥え、はたち過ぎての子の意見。
・人を見れば泥棒と思え。
・ひょうたんなまず。
・貧すりや貪する苦労する。
・貧乏人の子だくさん。
・夫婦喧嘩は犬も食わぬ。
・ふところにはめの子をいれておるような。
・水臭いことをいうな。
・目と口があれば京へのぼる。
・桃栗三年柿八年。
・安物買いの銭はたし。
・夢さかさま。
・夜道にや日が暮れん。
・嫁入りと火事は節季のもの。
・良薬□に苦し。

(2) 民間伝承
・秋の夕焼け鎌をとげ。
・朝虹に川を渡るな。
・小豆のよい年はノミがわく。
・暑い寒いも彼岸まで。
・雨蛙が鳴くと雨が降る。
・イタチが道を横切ると願い事がかなわぬ。
・犬の寒いのは一年に三日。
・犬は三日飼えば恩を忘れぬ。
・お盆に泳ぐとエンコがツベをつく。
・髪を燃やすと狂人になる。
・亀が卵を産んだ地方は日照りつづく。
・烏の泣き声が悪いと死人がある。
・十二月二十四日に田楽焼きを食べるとその年のウソがはらえる。
・足袋をはいて寝ると親の死に目にようあえぬ。
・ツバメが巣を作らなんだら火事がいく。
・爪を燃やすと狂人になる。
・冬至にカボチャを食べると中風にならぬ。
・夏の夕焼け川向こうに渡るな。
・鶏が宵に鳴くと火事がある。
・庭に枇杷を植えると病人が絶えぬ。
・猫の暑いのは土用の三日。
・猫は三年飼っても三日しか覚えていない。
・初物食えば七五日長生きする。
・晩に新しい履物をおろさない。
・味噌桶が出ると雨になる。
・宵あがりは雨が近い。
・夜の犬の遠吠え火事がある。
・漁に出るとき魚を拾うと縁起が悪い。

(3) 病気、けがなどを治す呪文
病   気
・おたふくかぜ 「頬が八丁とはけしからん。ことしの夏の大土用の丑の日に、太ったかずらの根を切れば、枯れていくぞよ。アブラウンケンソワカ」 唱えながら、包丁を頬のはれたところに何度もあてる。
・同 「アブラウンケンソワカ、アブラウンケンソワカ、体は金(かね)、病いは水となれ」
・同 「アブラウンケンソワカ、アブラウンケンソワカ。ニンジンそこのけ、やいとをすえる」
・結膜炎(はやり目) 「めん目くそくそ親子じゃないぞ」うつされないよう、唱えてから、患者に向かってつばを吐く。
・乳腺炎(ちちくさ)「四四ちちくさのもときりうらからし。アブラウンケンソワカ」 唱えながら、包丁を乳房に何度もあてる。
・はしか 「はしかはすみました」と書いた紙を戸口に貼る。
・涙腺炎(目イボ)「豆が落ちたのかと思ったら、メボが落ちた」井戸端で目に小豆をはさみ、唱えながら小豆を井戸に落とす。

けが・やけど・その他
・灸をすえるとき 「きょうがすえ日、あしたはほせ日、あさっては治り日、ニンジンシロケシロケ」 火をつけたモグサを、すえる部位の上でまわしながら唱える。
・魚の骨がのどにささったとき 「沖を通るは鯨の骨抜き、祓いたまえは伊勢の大神。アブラウンケンソワカ」 そばにいる人が、唱えてから息を吹きかけてやる。
・血止め 「父と母とが血の神ぞ。鎮まりたまえ。アブラウンケンソワカ」
・頭部の打撲 「はげにもなるな、こぶにもなるな。アブラウンケンソワカ」 打ったところにつばをつけて唱える。
・蜂に刺されたとき(普通の蜂の場合)「ハ」 剌されたところに三回書く。
・蜂に刺されたとき(クマバチの場合)「ク」 刺されたところに三回書く。
・やけど 「たぶさが池の清水踏み分けて大磐石アブラウンケンソワカ」

災難よけ
・雷様 「くわばら、くわばら」 落雷の被害を避けるために唱える。
・地震 「コ、コ、コ、コ、コ」 地震の揺れを止める呪文。
・ムカデよけ 「甘茶」 や「茶」と紙に書いて、家の柱に逆さに貼る。
・モグラの害 「おごろさん、ようもちゃしゃれ」 モグラが土を盛り上げた場所を足で踏んで唱える。このほか、「手首が痛いときには障子の穴に手を入れて機糸でくくる」といったまじないもあり、子どもの庖瘤、とびひ、疳の虫などにも、それぞれ古くから呪術療法が伝えられていた。
 *「アブラウンケンソワカ」は正確には「阿毘羅吽欠蘇婆詞(あびらうんけんそわか)」。大日如来に祈るときの呪文。


三 わらべ言葉(わらべ歌)
・井戸の川瀬の大水車、水にせかれた。難儀をしよる。おまえ何商売。米商売。米なんぽ。一銭五厘。五厘まけとけ。まからん。
 まかりゃなへんどせ。へんどする椀がない。きのうやった椀は、ねずみさんがひいた。そんならぽいくり出せ。
・お月さんなんぽ。まだ年若い。お万のへそは、金側緞子、赤ちゃんの枕。
・かごめかごめ、篭の中の鳥はいついつ出やる。夜明けの晩に、鶴と亀がすべった。誰がうしろ。
・子とろ、子とろ。どの子がはしけりや。あんなあんな、……さんがほしくてたまらん。つれていくんで、何食わしゃ。鯛や骨ジャコ、イカ買うて食わそ。それはあんまり骨がましい。せんちばたのしやしゃぶい、味噌つけて食わそ。そりゃあんまり、ほろきしゃない。川のはしたいムシロ敷いて、しゃーごのみイ抜かそ。そりゃあんまり、辛気くさい。金のべべ着せよ。それならよかろ。
・天狗さん、風おくれ。イワシの頭三つやる。三つがいやなら四つやる。四つがいやなら五つやる。凧、凧あがれ。天まであがれ。あがらぬ凧は、エダコにジダコ。
・ほうしこ、ほうしこ、誰の子。薮の中のとうなの子。とうなとねよとて、かねたたこ。
・ほうしこ、ほうしこ、誰の子。町の兄の子。兄が銭盗んで、鯛買うて食うて、のどへ骨たてて、ゲエーゲエーいうたげな。


四 民   謡
(1) 田植え歌
・おさんばいの酒に酔うたか、聖(ひじり)、おさんばいの酒に酔わんのも、聖。
・五月には、組の寄り合い、かんかたびらは、花染花染はぬれて、色よい殿御は、手馴れて肌よい。
・苗持ちゃ一の大役。晩には筍の味噌汁。
・山田の稲はあぜにもたれかかる。娘は殿御にもたれかかる。

(2) 草取り歌・草刈り歌・木挽き歌
・色が黒いので惚れ手がなけりや、山のガラスは後家ばかり。
・奥山の草刈りばんこや、栗の花が咲いたかなア。奥にはとうから咲いたぞのー.
・おまえ百までわしや九十九まで、ともに白髪のはえるまで。
・木山六之亜なぜ色黒い。山で切る木はかずかずあれど、思い切る木(気)はさらにない。
・大工さんより木挽きさんが憎い。仲のよい木をひきわける。
・蝶々、蝶々、菜の花にとまれ。菜の花いやなら手にとまれ。
・嫁になるなよ、木挽きの嫁に、仲のよい木をひきわける。

(3)臼ひき歌
・臼をひく時やほろほろ涙、団子食う時や猿まなこ。
・仕事なされよ、きりきりしゃんと、掛けたたすきの切れるまで。

(4)籾摺り歌
・いやじやいやじゃと畑の芋は、かぶりぷりぷり子ができた。
・いやというのに無理押し込んで、いれて鳴かせる篭の鳥。
・臼よ、まわれよ、遣木(やりぎ)をつれて。師走十日にゃひまをやる。
・くるりくるりとまわるは淀の、淀の川瀬のみずぐるま。
・ドンドドンドと駒追いかけて、春はおいでや米買いに。
・泣いてくれなや、門出のときは、鳥泣きさえ気にかかる。
・盆にやぽたもち、彼岸にや団子、五月五日は柏餅。
・わしとおまえはひき臼みよと、いれてまわせばコ(粉・子)がおりる。

(5) 機織り歌・糸紡ぎ歌
・神か仏かヨー、機織りさんはヨー、いつも鳥居の前におる(織る・居る)ヨー。
・頼みますぞや、七夕様よ、どうぞこの糸切れぬよに。
・木綿ひきにきて、ひかぬ子は去(い)なす。ひかな名がたつ、宿の名が。

(6) 馬 子 歌
・青よ急げよ、夕日が赤い。峠越したや、陽(ひ)の間に。
・朝ヶ峠は重荷で越える。もどりや揚げ荷でまた重い。
・馬方殺すにや刀は要らぬ。雨の十日も降ればよい。
・千両とるとも馬方おやめ、山の猿までまごまご(馬子馬子)と。

(7)地搗き歌
・さればこれから始めましょうか。皆さんまめでと、ひとつ祝いましょう。
・土手が崩れて、池の水ほせた。溝のたまりに二度手をついだ。
 うれしめでたの若松さまは、枝も栄えりや葉もしげる。
・ヤンサモヤンサ、ヤンサのお声が、ようそろた。こなたの屋敷は、よい屋敷。ぐるりが高くて、中低くて、中ではこがねの渦が巻く。エー、ヤンサモヤンサー。
・よいよい揃いの皆さまよ、ここらは大事な角柱、力を合わして頼みます。

(8) 舟   歌
・沖の暗いのに白帆がみえる。あれは紀の国みかんぶね。
・押せや押せ押せ、船頭も水夫(かこ)も、押さにやのぽらん、この瀬戸は。
・関所越えてもまた関所とは、どこが関所のとどめやら。
・船頭かわいや、音戸の瀬戸で、一丈五尺の櫓がしわる。
・鳥も通わぬ玄界灘を、流れていく身はいとわねど、あとに残せし妻や子が、どうして月日を送るやら。
・西は追分、東は関所。浅間山からお陽(ひ)が出る。

(9) はぜ取り歌
・何の因果ではぜ取り習(なろ)た。綱が切れたら命懸け。
・何の因果ではぜ取り習た。鳥じゃあるまいし木の枝に。
・はぜの木折れても損にはならぬ。折れりや芽が出る、木がほきる。
・めらというたが折れねばよいが。折れりや旦那の目が光る。
・山で床(とこ)とりや、木の根が枕。落ちる木の葉が夜具となる。

(10) 紙漉き歌・梶むし歌
・油高いと宵から寝たら、米の高いのに子ができた。
・いやなことぞや、紙漉き業(わざ)は。たすき投げおくひまもない。
・梶の夜むしは、ねぶたいものよ。唄うてはぎなれ、目が覚める。
・抱いて寝てくれ、まだ夜は明けぬ。明けりや坊主が鐘をつく。

(11)亥の子歌
 「亥の子音頭」
 十一月の亥の日、夕やみが里を包むころ、子どもたちが賑やかに各戸を巡って「亥の子」をついた。忘れられがちな音頭を、次の世代に伝えたいと思う。なお、亥の子音頭は地区ごとに様々であるため、ここには一例として二種類の音頭を掲載した。
・祝いまっせ 祝いまっせ 祝いまっせ
 めでたいもんか来たわいな ヤンサモヤンサ
 大黒さんと言う人が ヤンサモヤンサ
 一に俵ふんばって ヤンサモヤンサ
 ニでニッコリ笑ろうて
 三で盃手にすえて
 四つ世の中良い様に
 五ついつもの如くなり
 六つ無病息災に
 七つ何事ない様に
 八つ屋敷を築き広め
 九つ米倉を建て並べ
 十でとうとう治った
 花の御礼申します
 こちらの屋敷は良い屋敷
 ぐるりが高うて中低で
 一分や小判が流れ込む
 やれすずれ込む
・お祝い申すぞー、亥の子亥の子、亥の子餅ついて祝わぬ者は鬼
 もうけ、蛇もうけ、角の生えた子もうけ。
 大黒さんという人は、ヤーンサモヤーンサー。
 一に俵を踏んまえて、ヤーンサモヤーンサー、
 二ににっこり笑ろて、ヤーンサモヤーンサー、
 三で盃さしようて、ヤーンサモヤーンサー、
 四つ世の中酔うように、ヤーンサモヤーンサー、
 五ついつもの如くなり、ヤーンサモヤーンサー、
 六つ無病息災に、ヤーンサモヤーンサー、
 七つ何事ないように、ヤーンサモヤーンサー、
 八つ屋敷をつき広げ、ヤーンサモヤーンサー、
 九つ米倉建てならべ、ヤーンサモヤーンサー、
 十でとんとおさまった、ヤーンサモヤーンサー。
 銀の銚子、金盃、
 飲めや大黒、おさいわい恵比寿。
 中で酌とる福の神。サンヨ、サンヨ、サンヨ。
・男の子ができるように、男の子ができるように。(新しく嫁の来た家で特別に唱える)
・花のお礼は何という、ヤンサモヤンサー。
 こちらの屋敷は、よい屋敷、ヤンサモヤンサー、
 ぐるりが高くて、中低くて、ヤンサモヤンサー、
 中ではこがねの渦が舞う、アラモットイノッナノエー。

「予興音頭」
も一つ私か出しませうか ヤンサモヤンサ
一昨年生まれた猫の子が ヤンサモヤンサ
ネズミを取る様な夢を見た ヤンサモヤンサ
も一つ私が出しましょか ヤンサモヤンサ
西行法師の坊さんが ヤンサモヤンサ
熱田の宮で昼寝して ヤンサモヤンサ
これ程涼しい宮はない ヤンサモヤンサ
熱田の宮とは誰が言うた ヤンサモヤンサ
も一つ私か出しませうか
これより奥の山奥の
水仙山に楠の木を
植えて育てて元はなー
船場に取り寄せ板に割き
新造船に作りて舟おろー
宝をどっさり積み込んで
大黒さんがおもて乗り(舳先)
お恵比寿さんがお舵とり
こちらの屋敷へまぎり込む
コラもうたいの綱寄せ サンヨーサンヨー

(12) 灘八景伊予節
 伊予の上灘名所がござる、本尊秋月夏は藤、橋の涼み蛍火のもと。宮崎釣船横土手の端に、染々青嵐丸山学校、本覚寺暮の鐘、牛の峯暮雪に、おまけにあらたな地蔵さん詣(まい)らせ。

(13) 池之窪八月二十四日地蔵様のおどり
  -だん七のいわれのあるくどきー
 くには奥州のあだちが村よ。あだち村にて百姓のよたろ。親の代にはサムライでござる。よたろ、ふたりなかにて子供二人。二人子供は女でござる。姉が七ツで其の名はみやぎぬ。妹五ツで其の名はしのぶ。
 父のよたろは二人子供を連れて、仕事行くのは田の草取りよ。取りた草をば投げ捨てあれば、そこえ殿御がお通りなさる。
 投げた草のしずくが殿御のはかまに散りてそこで殿御腹立ちなさる。殿御、家来に命令なさる。早く百姓をこの場に呼べと申しつける。そこで家来はよろしゅうござる。
 そこでよたろ、子供連れて殿御そばにて早くも急ぐ。もしもし殿御様、ここの殿御お通りあるとは夢にも知らず。無礼いたした。許してと親子三人は頭を下げてあやまりますが、いくら申せど聞き入れなくて、踏んだりけったりなぐったり。そこで親子は、いくらいけないと言われてもよいが、命だけは助けて下さいと、両手合わして頼んでみても、何を申しても聞き入れなくて、そこでよたろは打首なさる。
 二人子供、ただ泣くばかり。あとで二人は相談なさる。これで父のかたきはうたねばならん。かたきうつなら修業をせねば、親のかたきはうつことできん。
 そこで二人は修業をならう。姉のみやぎぬ、なぎなたけいこ。妹しのぶは、くさり鎌けい古。一〇年修業をいたした時に、これでけい古もできたと思う。
 これより親のかたきをうとうではないか。二人話はまとまりました。
 かたきうつなら願書差し出せ指令がござる。何月何日何時に、かたきうてとの書面が下る。
 二人の子供は仕度をいたし、かたきうつ場に急いで行くよ。行けばかたき待ちかねておらる。
 二人女と殿御三人が用意の構え。そこで審判、合図の太鼓。始め、休め、勝負あったとの指図の役人、さあ始めの太鼓が鳴る。
 二人子供が負けそうになると、休めの太鼓が鳴らし、二人子供が勝ちそうな時は、いつまでも休めの太鼓は鳴らぬ。そこで殿御は腹立ち気分。何のこしゃくな女の身分。こっちするぞ、覚悟をいたせと力一杯力を入れる。
 これを二人は覚悟を決めて、早くもしのぶとみやぎぬは、覚悟をいたす。
 力一杯切りつけるところを、妹しのぶがこれまでと振り上げた刀に、くさり鎌を巻きつける。上げた刀はどうしようもならず。
 それをめがけてみやぎぬは、持ちたなぎなたを殿御ののどもとめがけて先殺す。
 そこで審判、勝負あったと指図の太鼓。
 その時審判の合図をしておられたのが、みやきぬ、しのぶの叔父さん、二人の父親の兄上であったのです。かたきをうつ二人の子供の叔父さんと名のりをしたら、二人の子供の安心があると思って、最後まで叔父さんと名のりはしなかったのですが、審判しておる時、合図の太鼓の打ち方にて分ったと思うと、叔父さんは言われたが、二人の子供には最後に名のりをして、叔父さんが共にかたきをとってくれた事が分り、有難い血のつながりは、どこでも有難い。これで草場におられる父が、さぞ喜んだ事と申された事を、心覚えのことを書きうつしました。
    昭和五十二年八月十八日   右ノ書面ヲ作ル。
    明治二十四年十一月三日生れ今年八六歳
             中 嶋 島太郎


五 歌   謡
(1) 上灘音頭
作 詩 入岡栄幸
作 曲 不詳
一 ハアー 桜並木の (サテ) 色香に惚れて
  汽車も蝶々もキタコラセッセ
        ヤレコノセ (チョイト)
  汽車も蝶々も来て停まる (ナンチヤ)
  上灘来て停まる
ニ ハアー いりこ獲れたか (サテ) 小網の若衆
  今日も本尊でキタコラセッセ
        ヤレコノセ (チョイト)
  今日も本尊で采を振る (ナンチヤ)
  上灘采を振る
三 ハアー 稲が色づきや (サテ) 蜜柑も熟れて
  乙女心のキタコラセッセ
        ヤレコノセ (チョイト)
  乙女心の薄化粧 (ナンチヤ)
  上灘薄化粧
四 ハアー 炭の煙は (サテ) 幾百立てど
  わたしや一条(ひとすじ)キタコラセッセ
        ヤレコノセ (チョイト)
  わたしや一条変わりゃせぬ (ナンチヤ)
  上灘変わりゃせぬ
五 ハアー お清尊や (サテ) 五郎兵エ池の
  水は鑑のキタコラセッセ
        ヤレコノセ (チョイト)
  水は鑑の色に澄む (ナンチヤ)
  上灘色に澄む
六 ハアー 恋の曳坂 (サテ) 涙で越えて
  姫御いとしやキタコラセッセ
        ヤレコノセ (チョイト)
  姫御いとしや忍び泣き (ナンチヤ)
  上灘忍び泣き
七 ハアー 秋葉明神 (サテ) 夫婦じゃないか
  烏帽子仲人のキタコラセッセ
        ヤレコノセ (チョイト)
  烏帽子仲人の晴れ姿 (ナンチヤ)
  上灘晴れ姿
八 ハアー 出船入船 (サテ) 港の栄え
  沖の鴎がキタコラセッセ
        ヤレコノセ (チョイト)
  沖の鴎が旭に謳う (ナンチャ)
  上灘旭に謳う
九 ハアー 町は伸び行く (サテ) 野山は繁る
  海は希望のキタコラセッセ
        ヤレコノセ (チョイト)
  海は希望の幸に照る (ナンチャ)
  上灘幸に照る
十 ハアー 峯の地蔵山 (サテ) 何してござる
  港祭りにキタコラセッセ
        ヤレコノセ (チョイト)
  港祭りに来て踊れ (ナンチャ)
  上灘来て踊れ

(2) 下灘小歌
作詞・作曲 不詳
一 伊予の下灘静かに明けて
  大漁のぽりのもどり船
  味は自慢の味は自慢の灘いわし
  エィサッサノヤレコノセ ヤレコノセ
  ヨイトヨイトコドッコイセ
ニ 恋の下灘乙女か花か
  蜜柑色づきや空も澄む
  段々畠段々畠の灘みかん
  エィサッサノヤレコノセ ヤレコノセ
  ヨイトヨイトコドッコイセ
三 鳴くよのどかに緑の丘に
  秋の牛市名も高い
  すくすく育つすくすく育つ灘べべこ
  エィサッサノヤレコノセ ヤレコノセ
  ヨイトヨイトコドッコイセ
四 ゆらぐ煙の向うの山で
  主は炭焼き きこり唄
  下灘よいとこ下灘よいとこ炭の山
  エィサッサノヤレコノセ ヤレコノセ
  ヨイトヨイトコドッコイセ

(3)下灘音頭
作詞・作曲 不詳
一 下灘ヨイトナ ソレ 潮風うけてヨ
  人もむつまじかもめの翼
  ソレ 心豊かに情けの花が咲いて輝く海と山
  サテサテサテ 海と山セッセッセッ
ニ 下灘ヨイトナ ソレ 名だいの漁場ヨ
  とろり漁り火夜ごとに燃えて
  ソレ こげて黒がね男の度胸希望はるかに海の幸
  サテサテサテ 海の幸 セッセッセッ
三 下灘ヨイトナ ソレ みかんが咲いてヨ
  小鳥さえずる段々畠に赤いたすきに小唄がもれりや
  豊年祭の晴れ姿
  サテサテサテ 晴れ姿セッセッセッ
四 下灘ヨイトナ ソレ タもやこめてヨ
  山の牧場の小牛がふとる男いぶきの煙をはいて
  お国自慢の炭の山
  サテサテサテ 炭の山セッセッセッ

(4) ふたみ音頭
作 詞 宇都宮陽一
補作詞 もず・唱平
作 曲 キダ・タロー
編 曲 小沢直与志
一 よいしょく、の 大漁旗は
  腕が自慢の双海の船と
  沖の鴎が噂する(ヨイヨイ)
   一ト網千両 網引く姿
   どこの主やらいゝ男(アソレ)
   どこの主やらいい男(アヨイヨイ)
   ハアー双海よいとこ ヨイヨイヨイ
ニ 春の八景山 つゝじを眺め
  秋は黒山 紅葉の下で
  歌え踊れのお手拍子(ヨイヨイ)
   肴はおまかせ 日本一の
   海の幸やら山の幸(アソレ)
   海の幸やら山の幸(アヨイヨイ)
   ハアー双海よいとこ ヨイヨイヨイ
二 三島神社の 石段登りや
  今年しや豊作 稲穂の波と
  黄金鈴なりみかん山(ヨイヨイ)
   あの娘も年頃 花嫁御寮
   どこに嫁いで行くのやら(アソレ)
   どこに嫁いで行くのやら(アヨイヨイ)
   ハアー双海よいとこ ヨイヨイヨイ

(5) 双海恋唄
作 詞
    下田逸朗
作 曲

夕陽染める海へと
  まわりこんで行く気動車
見送るこの私の
  心まだふるえてる
もしもこれが恋なら
  はじめて知るせつなさで
茜色の夕焼け
  いつまでも見ていたい
  双海恋唄 あなたに届けたい
①{夢の流れに 漁火浮かべ
  双海恋唄 あなたに伝えたい
②{潮の流れに 想いを乗せて
  ふたりで見上げていた
   夜空に星またたけば
 涙はほほえみへと
   恋心唄うでしょう
  {リフレイン ①②


方言 1

方言 1


方言 2

方言 2


方言 3

方言 3


方言 4

方言 4


方言 5

方言 5


方言 6

方言 6


方言 7

方言 7


方言 8

方言 8


方言 9

方言 9