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久万町誌

4 炭焼き長者

 とんと昔。昔あるところに大分限者(大金持ち)がおりました。子供はなく夫婦ふたりきりで、大勢の召使いにかしずかれて、何不自由なく暮らしていました。
 大晦日がきたので、分限者の女房が昔どおりに麦飯を炊きました。そうして主人に食べさそうとしました。
 主人は、
「こなな麦飯は味も悪いし、ばさばさするけに食べられぬ」
と言って、たいそうおこりました。そうして女房が
「大晦日に麦飯を食べるのは、昔からの習わしじゃ」
と言っても聞き入れず、とうとう女房を追い出してしまいました。女房はどこといって行くあてもないし、それにもう晩方ですから、屋敷の長屋門にはいって、ひとりでねていました。
 夜中ごろになって、何か話声がするので目をさましてみると、黒いちはや(神主の服)を着た大夫(神主)と赤いちはやを着た大夫が、ふたりでひそひそと話をしています。じいっと聞いていると、黒いちはやの大夫は麦の神で、赤いちはやの大夫は米の神であることがわかりました。麦の神が
「奥様が出されたので、わしはもう出てきたぞ」
と言えば、米の神は、
「麦どの参るならば、わしもいっしょに出ようぞ」
と言っています。しばらくすると白いちはやを着たもうひとりの神様がやって来ました。それは金の神でした。
「米どのも麦どのも参るならば、わしも参ろう」
と言って、出てきたのでした。女房は、これは不思議なことだと思っているうちに、三人の神様は見えなくなってしまいました。
 しばらくして夜もあけたので、女房は長屋門を出て歩いて行きました。三人の神様も女房に知られぬようにあとをつけて行きました。
 女房は歩いていくうちに、だんだんと山の中へはいって行きました。そうして山の中の炭焼きの爺さんの所まできました。
「わたしは行くところも無いけに嫁さんにしてくだされ」
と頼みますと、炭焼きの爺さんはびっくりして、これは山女郎(山の中の妖怪)がきたのではないかと思って逃げ出そうとしました。
 女房は、
「わたしは山女郎ではないぞえ」
と言ったので、爺さんはやっと安心して、
「それではわしの女房になってくれるか」
と言い、ふたりは夫婦になりました。
 ある日のこと、女房が
「米を一升買うてきてくだされ」
と言って、小判を渡すと、爺さんはその小判を持って山を下りて行きました。途中の池で鴨が遊んでいるのを見て、小判を投げて帰ってきました。女房が
「お米をどうしたかのう」
と聞きますと、小判を投げてからそのまま帰ってきたのだと言いました。
「それは惜しいことじゃ」
と言いました。女房に見えないようについてきた米の神や麦の神や金の神がいるので、これから後は家の中にいても何不自由しません。それどころか、たいした長者になって炭焼き長者と言われるようになりました。