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久万町誌

9 桶屋さんと山女郎

 昔、久万山にひとりの桶屋さんが住んどりました。ある日、自分とこの庭先で桶の輪替えをしとりました。夕方になったんでもう仕事をおこうと思うて、ひょいと顔を上げますと、目の前に山女郎がきて立っとりました。
 山女郎は桶屋さんを見ながらニヤリニヤリと笑うとります。口が耳まで裂けて、とても恐しい顔をしておりました。
 桶屋さんは、恐しゅうて恐しゅうてたまりません。そこで家においとる鉄砲で撃ってやろうと考えました。すると山女郎は、
「お前は、今わしを鉄砲で撃ってやろうと思いよろうが」
と言いました。桶屋さんはたまげてしもうて、
「これはいかん。心の中で思うとることがみなわかってしまう」
と思い、いよいよ恐しゅうなりました。
 そこで、もう何も考えずにせっせと竹の輪をこしらえとりました。すると竹がはじいて山女郎に当たりました。今度は山女郎がたまげてしもうて、
「人間は、心で考えんことをするけん恐しい」
と言うて山へ逃げていにました。