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久万町誌

8 交通安全教育

 久万町に自動車練習所ができたのは、昭和二五年ころであったろう。以来、自動車運転者が増えた。やがて、自家用車を所有する人も増えだした。自動車が増えると、事故も多くなる。そこで、自動車を運転する者で運転者協会を作り、交通法令がいろいろと変わるのに対応して、学習会を開いていた。
 自動車練習所が教習所となり、運転免詐が取りやすくなった。また、道路がよくなり、自家用車が急増しはじめた。そこで、町内に交通安全協会が組織され、交通事故防止のためのいろいろな活動が活発に行われ始めた。
 交通指導員が誕生し、カーブミラーが設置され、各種の案内標識が出現した。児童生徒の安全通学のための『スクールゾーン』も設けられた。横断歩道や歩道橋も作られ、交通信号機もとりつけられた。でも、交通事故は交通量の増加に比例して増加の一途をたどった。昭和五六年には、この年が西暦一九八一年に当たり、石鎚山の高さの数字と同じであるところから、郡内で死亡事故○の日数が、石鎚山の高さと同じ数字になるまで頑張ろうと、郡民全部で誓い合った。
 しかし、この誓いも長くは続かなかった。農村の観光開発事業や産業の振興、自動車産業の躍進などの高度経済成長は、その副産物として、交通事故の多発を招いた。交通事故で父を失ったり、母を失ったり、かわいいわが子を失ったり、今まで温かい家庭であったのが、ある日突然に崩壊したりしていく悲惨な状態が、今後ますます増えていくに違いない。現に、死なないまでも身体障害者として、つらい苦しい思いをしている人が増えている。なんとか事故防止に有効な施策を講じ、わずかでも交通事故を防ごうと、各関係機関が心をくだいていた矢先、日本体育・学校健康センターから『交通安全教育地域推進事業』の委嘱を受けることとなった。この事業は、昭和六〇年、六一年と二か年の継続事業であった。これを機会に、今まで各幼稚園や保育所、各学校で実施していた交通安全教育を見直すとともに、町ぐるみでの取り組みを組織的、系統的なものへと改善していった。
  ア 組織の改変
 今まであった交通安全協会(運転免許所有者で作っている組織)や、交通安全推進協議会(行政が中核となり、交通安全協会が加わった組織)は、とかくすると町民と遊離しがちになる。つまり、傍観者的立場の者や、あなたまかせの人が多いのである。春や秋の交通安全週間の行事にしても、やれといわれるからやるといった姿であったり、交通安全パレードにしても、自分の子や孫が出ていると関心を示すが、そうでないと全く関心を示さないといった人が多かったりする。交通事故は他人ごとで、自分には全く関係ないといったふうである。これでは、いくら交通ルールやマナーを呼びかけても成果は上がらない。
 幼稚園や小中学校で、また、各種の機関・団体で交通安全教育を実施しているが、いっこうに成果が上がらない。物理的環境を整えたから事故が減少し、交通安全が図れるということではない。
 そこで『安全に行動できる児童生徒等の育成』をめざして『交通安全意識の高揚』と『安全な道路環境の確保』に努めようという三つの目標を立てた。この目標を達成するためには、『地域ぐるみ、町ぐるみでの取り組み』が必要である。一部を対象に組織化するのではなく、『幼(保)、小、中、高校における交通安全教育に一貫性をもたせた縦の系列』を軸に、『就学年の幼児から老人に至るそれぞれの階層をもり込んだ実践的活動』をするための組織化を図ることにしたのである。
 先ず、久万町交通安全教育推進委員会が発足し、その中に、安全教育部と、安全指導部、環境改善部の三部門を置いた。これは、従来の行政依存型からの脱皮、つまり『自らの安全は自らが守る』ということと、『学校教育にまかせぱなし』を見直し、『一般社会人への啓発と社会人自らの実践化』を図ろうとしたものである。
 安全教育部は、『幼・小・中・高校の一貫性』と『幼児から高齢者までの指導の適時性』を明確にし、生活化を期してその到達目標を盛り込んだ『久万町交通安全教育内容関連表』を作成した。これに基づき、各学校での研究主題が設定された。また、社会教育諸機関での交通安全教育も地域公民館単位に実施し、実践的活動にまで盛り上げた。
 幼稚園や保育所では、幼児への交通安全教育内容が協議され、子じかクラブの活動が活発になった。また親の活動が具体的、積極的になった。入園当初、登園時は親が子どもの手を引いて、安全な通行のしかたを指導する。降園時は教師が家の近くまで送っていく。道々、その指導内容が習慣化するよう、親も教師も懸命に努める。五月からは、小学校高学年の引率による集団登園となる。降園は教師の引率による。十月からの降園は園児だけでする。その十月までに、完全に園児たちが交通ルールを身につけ、安全に登校園できるようにしなければならないのである。
 地域の大人が、交通指導員が、それぞれ声をかけてやる。
 交通安全母の会も盛り上がった。小学校で四月に行われる交通教室には親子で取り組んだ。運動場に描かれた模擬道路の要所要所に、道路標識を持った保護者が立つ。通りかかる児童や幼稚園児に手に持つ標識の意味を尋ねる。わからない子供には教える。死角や内輪差には、親子ともどもに驚きの声が出る。パトカーが人形を使って模擬人身事故を再現する。悲鳴を上げて見入る。多くの説明はいらない。中学校では一一〇番電話のかけ方や救急法の訓練が入る。また、救急車が来るまでの、けが人への対応のしかたの講習も受ける。
 自転車の正しい乗り方や整備についての指導など、業者の協力も得て進められる。夜は家庭で、『親子交通安全教室』がもたれる。親が子供に、安全通学の具体的な指導をする。家から学校までの道路の危険か所について、また、道路の歩行について、交通事故の実例等等、親子での話し合いがなされる。
 特に、毎月二〇日の交通安全の日には、各家庭での親子交通安全教室がもたれることになっている。
 各地域の公民館でも、交通教室が頻繁にもたれるようになった。高齢者の方々が特に熱心で、自転車に反射テープを取りつけたり、その整備なども常日頃家庭でできることは、自分たちの手で怠りなくやろうという申し合わせをしたりなどもした。
 安全指導部会は、①交通安全意識調査を実施して、その分析と問題点を洗い出し、指導の要点を明確にした。また、②自転車を利用するときのヘルメット着用を指導したり、③交通安全標語やポスターを募集し、それを公共施設や、大衆の目につくところに張って意識の高揚と啓発に努めた。④登下校時の交通安全指導はいうまでもなく、⑤交通安全の作
文発表や講演会なども催した。
 環境改善部では、各小学校区ごとに、道路の危険か所を洗い出し、行政に改善を要請するもの、大人の手でやれるもの、学童でやれるものの三つに大別した。これに基づいて、行政はガードレールやカーブミラーを新設したり、落石防止策やガケくずれの箇所を整備したりするなどした。部会は、指導部が募集した標語のなかから選定した幾つかを使って、看板を町の要所要所に設置した。子供たちも、自分に言い聞かせるような、小さな看板を建てた。
 また、町内の各家庭へは、自家用車の運転席に張りつけるステッ力ーを配布した。小学生がドライバーに、安全運転に感謝する作文を書き、一日交通茶屋を開いて手渡し、交通安全を呼びかけたりした。クリーンデーを利用して、国道筋のカンひろいや路肩の草刈りなど、小学生から高齢者まで一丸となって取り組んだ。中学生によるカーブミラーの清掃も行われた。
 全町的に盛り上がりをみせるなかで昭和六一年一〇月七日には、明神幼小と久万中学校で、交通安全教育推進地域事業の中間発表会がもたれた。一二月五日には、久万幼小と久万中学校で、六〇年、六一年と二か年にわたった、日本体育・学校保健センター委嘱による、交通安全教育推進地域事業の研究発表会がもたれ、二か年間の研究の成果を発表した。その際、久万町では、委嘱期間が終わってもなお、これを機会に、より充実発展させ、交通安全は人命尊重の教育であるという理念に立って、町単独事業として継統することが確認された。
 六二年一月二二日、二三日には東京で、日本体育・学校保健センター主催の学校安全教育研究大会が開かれた。席上、久万での取り組みを発表し、全国から注目されると共に、高い評価を受けた。
 以来、六二年度は、一○月二九日に父二峰地域で、六三年度は畑野川地域で、研究発表会をもっている。六四年度は、直瀬地域の予定である。
 なお、久万町における交通安全教育内容の発達段階に即した関連表や、各幼保小中高校の研究主題等は別表のとおりである。
  昭和六三年度 小中学校 交通安全優秀標語
 ○とび出すな あなたの命は一つだけ
              明神小学校   四年 鈴木 正蔵
 ○ゆずりあう、心があれば、事故は0
              久万小学校   五年 井村 安希
 ○気をつけろ あせる心は 事故のもと
              直瀬中学校   一年 大野 留美
 ○守っていますか 自分の命と交通規則
              畑野川中学校  三年 武智視須芳
 ○交通安全 だれでもやれる できるはず
              父二峰中学校  三年 大野 由紀

久万町交通安全教育推進組織

久万町交通安全教育推進組織


町内の全家庭への交通安全をよびかけたステッカー

町内の全家庭への交通安全をよびかけたステッカー


久万町交通安全教育内容関連表(1)

久万町交通安全教育内容関連表(1)


久万町交通安全教育内容関連表(2)

久万町交通安全教育内容関連表(2)


久万町交通安全教育内容関連表(3)

久万町交通安全教育内容関連表(3)


各学校・園(所)研究主題一覧

各学校・園(所)研究主題一覧